第150話 経験があるわけじゃない
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零音が晴彦を呼びに行ってから数分後。姫愛の心の準備ができるよりも早く零音は晴彦を連れて戻って来た。
「お、おいなんだよ零音。急にトランプ持って来いだなんて」
「いいから。お待たせ東雲さん。ハル君とトランプ持ってきたよ」
「ず、随分早かったですわね」
「そりゃハル君の家は隣だしね。どうせ休みでダラダラしてるだけだったからすぐに連れて来たの」
「いや別にダラダラしてたわけじゃ……って、東雲さん? なんで零音の部屋に」
「今日は東雲さんと遊ぶ約束してたの。その時ハル君も一緒にいたでしょ」
「あー……悪い。ご飯食うのに夢中で気付かなかった」
「なにそれ。まぁいいけど。とにかく、東雲さんがトランプとかしたことないって言うから、それじゃあやってみようって言うことになったの。それで、二人でやるよりは三人でやった方がいいよねって思ったの」
「なるほどな。まぁ確かにそりゃそうだ」
零音と晴彦が話している間、姫愛は自分の恰好を慌てて確認していた。
服に皺が無いかどうか、乱れている箇所はないか。家を出る前に何度も確認して大丈夫だとわかっているのに、それでも確認せずにはいられなかったのだ。
「ご、ごきげんよう日向さん。お休みのところ申し訳ありません」
「いやいいよ。そういうことなら俺も喜んで付き合うし」
「なにそれ。私からの誘いだけじゃ遊んでくれないの?」
「いやそういうわけじゃないけどさ」
「どーだか」
「なんで急に不機嫌になるんだよ」
「べっつにー。不機嫌になんてなってないよーだ。それよりも早くトランプして遊ぼう」
「はいはい。つってもトランプなんて俺も久しぶりだからな。簡単な遊びくらいしか覚えてないぞ」
「とりあえずわかりやすいのからやって行こうよ……って、あれ? ねぇハル君。このトランプ、ジョーカーが無いし、キングの枚数が足りてないんだけど」
「え、嘘だろ。マジか」
慌てて確認する晴彦。しかし零音の言う通りトランプは枚数が足りていなかった。
「あー、マジか。あの時かな」
「あの時? もしかしてトランプで何かしたの?」
「いや別に大したことじゃないんだけど……」
「ハールー君?」
「わかった! 言う、言うよ。前にテレビで忍者が主役のドラマがやってて、その時に手裏剣投げを……」
「あー、なるほどね。なんとなくわかったかも」
「どういうことですの?」
「えーとつまりね。ハル君はテレビで見た忍者に憧れて、トランプを手裏剣代わりにして投げて遊んでたってことだよ。そうだよね」
「そーだよ! 悪いか!」
「ううん、別にー」
「ニヤニヤすんな!」
「ごめんごめん。本当に馬鹿にはしてないから。わかるよー。男子中学生だとそう言う時期ってあるもんね。そんで高校生くらいになってから黒歴史になって悶えるんだよねー。あれってほんとに恥ずかしいっていうか。穴があったら入りたいっていうか。そんな気持ちになっちゃって」
「「…………」」
「ん? どうしたの二人とも」
「いや、なんでそんないかにも知ってますみたいな感じで話してるんだよ。俺達まだ中学生だし、なによりお前女子だろ」
「っっ!!」
「まるで経験したことがあるかのような話しぶりでしたわね」
「や、やだなぁ二人とも。そんなわけないよ! 経験したことなんてないから。本当にないから。いやホントに」
急に顔を青くして、ダラダラと汗を流す零音を怪訝そうに見つめる晴彦と姫愛。
そんな二人の視線に耐えかねたのか、零音はそそくさと立ち上がる。
「わ、私家の中にトランプないか探してくるね。たぶんあった気がするから。それまで二人で話してて。ハル君、東雲さんの話相手お願いね」
「あ、おい!」
「……行っちゃいましたわね」
呼び止める間もなく部屋を飛び出す零音。
部屋に残されてしまった姫愛と晴彦は、なんとなく気まずい沈黙に襲われる。
(い、いけませんわ。私は招かれた身。何か気の利く話題を振らないと)
「え、えーと……本日は大変お日柄も良く……」
「あ、あぁそうだな。午後からちょっと曇るらしいけど」
「…………」
「…………」
(間が持ちませんわ!)
すぐに終わってしまった話に内心で悲鳴を上げる姫愛。しかし同じ年頃の男子と何を話せばいいかなど姫愛にわかるはずもなかった。
「あー、あのさ東雲さん。そんなに緊張しなくてもいいよ」
「え?」
「いや、なんか緊張してガチガチになってるみたいだったから。俺のことなんか空気だと思ってくれたらいいからさ」
「そういうわけにはいきませんわ」
「まぁそうだよなー。急に慣れろって言う方が無理か。つっても零音が戻って来るのがいつになるかわからないし……よし!」
「っ! な、なんですの?」
「ご趣味は」
「……はい?」
「いやまぁ、仲良くなるにはまずお互いのことを知ることから始めるべきかと思ってさ。零音とはよく話してるけど、俺と二人で話すことってそうそうないしさ」
「そういうことでしたの。ふふ、そうですわね。まずは互いのことを知る。それが一番ですわ」
「だから趣味のこと聞いたんだけど……安直すぎたか?」
「そんなこと無いと思いますわ。でも、申し訳ありませんけど私、これといった趣味がないんですの。習い事ならいくつかしているのですけど。趣味と呼べるほどのものではありませんし」
「習い事かー。そういえば放課後いつも早く帰ってるもんな。どんな習い事してるんだ?」
「私が習っているのはピアノと、それから——」
この時、姫愛と晴彦は気付いていなかった。零音の部屋のタンスの上。そこに仕掛けられた一つのカメラの存在に。
そしてそのカメラは談笑を続ける二人の姿をジッと映し続けていた。
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次回投稿は10月3日21時を予定しています。




