第140話 姫愛過去編 出会い
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
平凡な学校というのは姫愛にとって初めての経験だった。
そして近くに使用人がいないということも。それはつまり、今までなら使用人がやってくれたようなことも全て自分でやらなければいけないということなのだ。
「だ、大丈夫ですわ。私ももう中学二年生ですもの。使用人に頼らずともちゃんとできます!」
思春期特有の、と言うべきか。多くの中学生がそうであるように、姫愛も反抗期を迎えていた。過保護に守られ過ぎることに嫌気を覚えていたのだ。もちろん両親や使用人がそうする理由もわかっている。
それでも、自分でもちゃんとできるのだということを姫愛は主張したかったのだ。
「と、とりあえず職員室……ですわよね」
自分一人で何かするということへの緊張感。慣れない環境への不安。様々なものが入り混じる姫愛。
その緊張を紛らわすように廊下をキョロキョロと見渡しながら、案内図に従って職員室に向かう。
「えっと、確か職員室は……この先の角を曲がったところですわね」
誰かにすれ違うかと思っていた姫愛だったが、転校初日ということもあって早めに来ていたため廊下には誰もいない。
そのことを少しだけ残念に思いつつ、廊下の角を曲がろうとした時に事件は起きた。
「ハル君、そんなに急いじゃダメだよ。人がいたらぶつかっちゃうよ」
「大丈夫だって。こんなに早く来てるやつなんていないだろうし。それよりも早く教室に行かないと。日直の仕事早く終わらせて、宿題の続きやらなきゃいけねーんだから」
「えぇ!? またやってなかったの……って、ハル君前!」
「へ?」
「え?」
聞こえて来た声に意識を奪われていたせいか、姫愛の反応が遅れてしまう。そしてそれは声の主も同じことだった。
姫愛の存在に気付いていなかった声の主はちょうど曲がり角の付近にいた姫愛とぶつかってしまう。
「うわっ!」
「きゃっ!」
まともにぶつかってしまった姫愛は尻もちをついて転んでしまう。
「な、なんですの」
「悪い、大丈夫か!」
「もう。だから言ったのに。大丈夫ですか?」
床にぶつけてしまったお尻をさすりつつ、声のした方に目を向ける。
するとそこには一組の男女がいた。姫愛と同じ制服を着た少年と少女。少女のつけているリボンの色が姫愛と同じであることから、同じ学年であるということがわかる。
「怪我とかしてないか?」
「だ、大丈夫……ですわ」
少年が差し出してきた手を握って立ち上がる姫愛。
その心臓は驚くほどバクバクと脈打っていた。同じ年頃の少年とまともに会話するのが初めてだったからだ。
まだあどけなさは残っているものの、しっかりと男を感じさせる顔立ちだ。
(と、ととと殿方!? 同年代の、本物の!)
いつも一緒にいる使用人に助けを求めたくなるが、この場にはいない。自分でなんとかするしかないのだ。
握ったままの手が熱くなる。父や祖父以外の男性と触れ合うことすら姫愛にとっては初めての経験だった。
(ど、どうしましょう。殿方に触られてしまった。手を握ってしまいましたわ。こ、これはもう婚姻関係を結ぶしか……)
急な状況の変化に姫愛は完全に混乱していた。
「えっと……ホントに大丈夫か?」
「は、はひ!」
声が裏返る。そんな自分のことを情けないと思いつつも、自分の意思ではどうしようもないことだった。
「顔赤くなってるよ。もしかして熱でもあるんじゃ」
ジッと少年のことを見つめていると、一緒にいた少女が二人の間に割り込むようにして入って来る。
その拍子に繋がれていた手は離れてしまった。
「あ……」
「もし熱があるようなら保健室に行った方が」
「い、いえ。大丈夫ですわ」
「そう? ならいいんだけど……あなた、もしかして転校生?」
「え、どうしてわかりましたの?」
「だってリボンの色が私と同じなのに、見たことない人だったから。あなたみたいに綺麗な人なら有名なはずだし」
「綺麗だなんて、そんなことありませんわ。それを言うならあなただってとても綺麗ですわ」
姫愛の言葉に偽りはなかった。少年と一緒にいた少女は姫愛から見ても驚くほど綺麗な少女だった。少年と同じく、まだあどけなさは残っているがこのまま成長すれば多くの男性を虜にすることは間違いないであろうと思うほどだった。
「えへへ、ありがとう。あ、そうだ。転校生なら自己紹介しとくね。私は零音。朝道零音だよ。それで、こっちが日向晴彦。私の幼なじみなんだ」
「よろしく」
「よろしくお願いしますわ。私は東雲姫愛。今日からこちらの学校に転校してくることになりましたの」
「やっぱり転校生なんだ。それじゃあまだどのクラスになるかはわからないのかな」
「そう……ですわね。これから職員室に向かうところですの」
「あ、なるほど。ってそうだ。ハル君、私達も早く教室に行かないと」
「そうだった。宿題が終わらなくなっちまう」
「それじゃあ東雲さん、同じクラスだといいね」
「えぇ。そうですわね」
「それじゃあまた。行こ、ハル君」
「お、おい。自分で歩くから背中押すなって!」
零音に背中を押されて晴彦が離れていく。
あっという間に出来事だった。
「日向さんに朝道さん……また会えるかしら」
これが、姫愛と零音達の出会いだった。
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次回投稿は7月25日21時を予定しています。




