第24話 晴彦の悩みを聞き出し隊 後編
今日で八月も終わりですねー。この八月はあっという間に過ぎた気がします。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
朝道や昼ヶ谷とのポーカー勝負に勝利したオレは、晴彦がリラックスしたタイミングを見計らって、外へと連れ出しバドミントンをしていた。
「よっし行くよハルっち!」
「おう!」
ラリーを続けるオレ達を二人は遠くから眺めている。
悔しいんだろうが、今回はオレに譲ってもらうからな。
この後二人はいなくなって、オレと晴彦の二人だけの時間ができる。そこで晴彦の悩みについて聞きゃいい。
まぁ、正直こういうまどろっこしいのは嫌いだ。
聞きたいことがあるなら正面から聞き出す。それがオレのやり方だ。
「スマーッシュ!」
「ちょっ、それはとれないって!」
「ダメだよハルッち、ちゃんととらないと」
「速すぎるんだよ」
まぁ、確かにオレのスマッシュは早いだろうな。
バドミントンは得意だし。いや逆か。そもそも苦手なスポーツが無いって言う方が正しい気がする。
ゲームの『夕森雪』もスポーツが得意なキャラだったが、そこに『オレ』が加わって、さらにできるようになったんだろうな。元の世界のオレともいい勝負できんじゃねぇかなってくらいだ。
文句があるならこのでかい胸くらいだ。見るのはいいけど、実際に自分にあると邪魔で仕方ねぇ。
「夕森さん、あなた本当に運動が得意なのね」
「体動かすの好きだからね」
昼ヶ谷が驚いた顔をしている。
本当に想定外なんだろうな。
「でもハル君も負けてないよ、頑張って!」
「負けてないよって、思いっきり負けてんだけど」
「いや、でもアタシから見てもハルっちよく動けてると思うよ」
「そうか?」
実際、晴彦の動きは悪くない。
実際に見ててわかったけど、反応速度も悪くないし、体も案外柔らかいみたいだしな。こりゃしっかり鍛えたら面白いことに——ってそうじゃねぇ。何考えてんだオレは。
「ねぇハルっち。勝負しない?」
「勝負?」
「アタシが十点取るまでに、一点でも取ったら、ハルっちの言うこと一つ聞いてあげる」
「じゃあ、雪さんが勝ったら?」
「その時はアタシの言うこと聞いてもらうよ」
「よし、わかった。やろう」
もちろん、負けるつもりはねぇ。オレがこの勝負を持ちかけたのは話をしやすくするためだ。これなら自然な流れで聞けるだろうしな。
「ハルくーん、頑張ってね。あと雪ちゃんも」
おい朝道。オレのついで言いました感が酷いぞ。ホントに晴彦の悩み聞く気あんのかよ。
「よし、勝負だ!」
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やるぞと意気込んでみたはいいものの、オレが負けるはずもなく。
結局そのあとすぐに決着がついてしまった。
「いぇい! アタシの勝ちだね」
「はぁはぁ……雪さん、ホントに強いな」
「ハルっちも最後の方はいい動きしてたじゃん」
「そ、そうかな。っていうかとりあえず休みたい」
「いいよ」
最後の方は速さに慣れてきたのか、決めれると思ったもんまで取られてちょっと驚いたな。さすが主人公って感じだ。
さて、聞くならそろそろだろ。晴彦もいい感じに疲れてるし。
二人にチラリと視線を送る。
「あ。私飲み物もらってくるね」
「なら私が案内するわ」
ちゃんと伝わったみてぇだな。
二人がオレ達から離れていく。
「それじゃ、二人が戻ってくるまで休んでよっか」
「あぁ、そうだな」
晴彦が座った横にオレも座る。
「楽しかった?」
「あぁ、久しぶりにこんだけ体動かしたかも」
「普段から運動しないとダメだよ?」
「そうするよ。それで俺は何したらいいんだ?」
「そういえば言ってなかったね」
さぁ、いよいよ本題だ。
「あんまり無茶は言わないでくれよ」
「あのさ、教えて欲しいことがあるんだけど」
「教えて欲しいこと?」
「最近、何か悩んでるでしょ」
「……やっぱりそのことか」
「気づいてた?」
「流石にな。今回こうやって集まったのもそのため?」
「まぁ、言っちゃうとね」
こんだけ露骨だと気付くか。朝道とかあれでけっこうわかりやすいだろうしな。
「やっぱろ零音が言い出したのか?」
「うーん……そうだけど、違うかな」
「違う?」
「先輩とかも結構心配してたし」
「やっぱり気付かれてるよなぁ」
「そりゃね。結構わかりやすかったよ」
「そんなに?」
「めぐみんとか、トモっちも気づいてたんじゃない?」
「できれば言いたくないんだけど」
「ダメ。勝利者特権だから」
「……はぁ、わかったよ」
諦めたように晴彦は頭をかく。
「できれば、零音とかにはいわないでくれよ」
「それは内容次第かな。約束はできないよ」
「はっきり言うよな」
「アタシだからね」
「そんじゃ言うけどさ。その前に、白髪の少女って知ってるか?」
「え? あの学園に伝わる噂みたいなあれ? クラスの女の子が話してるのは聞いたことあるけど」
「たぶんそれで合ってると思う」
前にクラスの女子どもが騒いでた。なんか白髪の女の子がーとか、お菓子あげたらーとか、つまんない話だと思って聞き流してたけどな。
その噂と晴彦の悩みに関係あんのか?
「俺さ、そいつに会ったんだよ」
「へぇ……って、え!」
「やっぱり驚くか」
「そりゃ驚くよ! え、だって会ったんでしょ」
「そうだよ」
あの噂がまさか本当だったとはな……いや、それは素直に驚くけどよ、今はそうじゃねぇ。
「でも、それが悩みと関係あるの?」
「そいつに言われたんだ。お前は死ぬぞって、殺されるってさ」
「…………え?」
「やっぱり信じられないだろ?」
いきなりのことに頭が真っ白になる。
晴彦が殺される? そんなのゲームのイベントじゃ存在しなかったはずだ。
その白髪の女もゲームじゃ出てこねぇ。
晴彦が嘘が吐いてるようにも見えねぇし。
「ホント……なの?」
「詳しくは言えないけど、たぶんホントだと思う」
「そうなんだ。どうにかできないの?」
「解決する方法はある。でも……それが正しいのかわからない」
「正しいも何も、そうしなきゃいけないなら——」
晴彦の目を見て気付く。この目は、自分で全部背負い込もうとしてる目だ。
見たことがある目だ。
『兄さん!』
思い出されるのは、元の世界にいた弟の声。
たった一つ、オレが絶対に守らないといけないもの。
今の晴彦はその弟と同じ目をしてる。
あぁ、ダメだ。その目だけは受け入れられねぇ。
「教えて」
「え?」
「なんとかする方法があるんでしょ」
「いや、でも……ごめん、それは無理」
「どうして!」
「これは、俺の問題だからさ。みんなには迷惑かけたくないんだ」
「それで死んでもいいって言うの!」
「そういうわけじゃないけどさ」
「……アタシはハルっちの助けになりたいよ」
「…………」
「それとも、アタシは信用できない?」
まっすぐに、晴彦の目を見る。
こういう時は自分の思いを直球で伝えるのが手っ取り早い。
オレは頭がいいわけじゃねぇし。
ジッと見ていると、とうとう晴彦が折れる。
「雪さんって、案外あれなんだね」
「あれってなに?」
「いや、なんでもないよ。でも、聞いて笑うなよ?」
「笑わないよ」
「……作れってさ」
「えと、聞こえなかったんだけど」
「だから、彼女作れって言われたんだよ!」
「……へ?」
「俺だってそう思うけどさ、そう言われたんだからしょうがないだろ」
「えええ!」
なんだそれ。殺されないための方法が彼女を作る事?
意味がわかんねぇ。
いや、待て。待てよ。これはチャンスなんじゃねぇか?
晴彦は恋人を作らないと殺される。オレは晴彦とエンディングを迎えたら元の世界に戻れる。ある意味ウィンウィンだ。
「あ、あのさ、だったらアタシと——」
「飲み物持って来たわよ」
「遅くなってごめんね」
ちっ、戻ってきたか。
「おう、ありがと」
「……ありがとね」
こいつら、タイミングを計ってやがったな。
オレと晴彦の話してる様子をうかがってたんだろう。
「それじゃあ、少しお茶にしましょうか」
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夜。部屋でLITIのグループトークを開く。
『それで、晴彦の悩みが何かわかったの?』
『あぁ、わかったぞ』
『ホント!?』
『ボクも教えてもらいたいな』
『殺されるんだとよ』
『なにそれ?』
『どういうことかな?』
『白髪の女って知ってるか?』
『聞いたことはあるよ』
『ボクも聞いたことはあるね』
『晴彦はそいつと会ったらしい』
『本当かい?』
『みたいだな。それで、そいつに言われたんだと』
『殺されるって?』
『あぁ』
『そんなの、ダメに決まってる』
『何とかするべきだろうね。方法はあるのかい?』
『彼女を作れだとよ』
嘘ついてもよかったんだがな。
まぁ、これくらいはいいだろ。
『え?』
『は?』
『まぁ、そういう反応になるわな』
『なんでそんなことに?』
『それは知らねぇよ。でもよ、これってチャンスだろ』
『チャンス?』
『オレ達は晴彦とエンディングを迎える必要がある。晴彦は彼女が必要。だったら話は単純だろ』
『……ボク達の誰かが、晴彦と付き合えばいいと』
『そういうこった』
『そうだね』
そっから話し合いが続き、オレ達は晴彦とのエンディングを目指しつつ、白髪の女も同時に探すことになった。
「……ふぅ」
今日は柄にもないこと言っちまったな。
いくら晴彦と弟を重ねたとはいえ……はぁ、まぁしょうがねぇ。
弟のことを思い出しながら、オレは改めて決意を固める。
「……待ってろよ、オレは絶対に帰るからな」
今回でゴールデンウィーク二日目の話は終わりです。
次回は登場人物紹介の第二回を投稿しようと思います。
九月からの投稿についての詳細は活動報告に載せておきますので、確認していただけると幸いです。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
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それではまた次回からもよろしくお願いします!