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第133話 めぐみの温もり

誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 零音の嫉妬心が暴走し、ちょっとした騒動が起こった後のこと。

 冷静さを取り戻した雫と弥美の手によって晴彦から半ば無理やり引き離された零音は——。


「あぁぁぁぁぁぁぁあああああっっ」


 正気を取り戻し、自己嫌悪の真っ最中だった。

 もちろん、あんなことになった後に試合を続行できるはずもなく、ビーチバレーの第三試合は中断された状態となっていた。

 そして零音は、冷静さを取り戻した後に自分が何をしたのかということに気づき、一人ホテルの部屋へと移動していた。


「なんで私あんなことしちゃったんだろ。いやなんでって、そんなの理由はわかってるんだけどさー。いくらなんでもあれは……絶対にやり過ぎだよぉ」


 自分のしたことを思い出してどれほど後悔しても後悔しきれない零音。しかし、どれだけ後悔しても時間はまき戻せない。零音は心は自責の念でどうにかなってしまいそうになっていた。

 すると、突然部屋のドアがノックされる。居留守を使おうかとも考えた零音だったが、これ以上迷惑をかけるわけにもいかないと、気が重くなりながらもドアへと向かう。


「……はい」

「あ、零音ちゃん。私だけど……はいっていいかな?」

「めぐみ?」


 雫か雪あたりだと予想していた零音は予想外の人物の来訪に驚く。もちろん断る理由などないので、零音はめぐみを部屋の中に迎え入れる。


「えーと、零音ちゃん大丈夫?」

「ううん。これが大丈夫に見える?」

「だよね。うん、だと思った」

「うぅ、めぐみぃ……」

「うわわわ! れ、零音ちゃん?!」


 零音は思わずめぐみに縋りつくようにして抱き着く。普段であれば絶対にしないようなことだが、今の零音はそれだけ精神的に追い詰められていたのだ。

 そして急に抱き着かれためぐみの方も面食らってしまうが、そこで零音の体が小刻みに震えていることに気づいた。

 それに気づいためぐみは、零音の背中に手を回し、子供をあやすように、安心させるように優しく抱きしめる。


「大丈夫、大丈夫だよ。零音ちゃん」


 試合中の事故が原因で起きてしまった、傍から見れば驚きはありつつもそれほど大事ではない事件。しかし、零音にとってはそうではないのだ。


「私……またやっちゃったよぉ」


 今回の騒動の引き金となったのはひとえに零音の中で膨れ上がった嫉妬心が原因だ。最近は抑えていた。抑えられていると思っていた嫉妬心。しかしそれはけっして消えたわけではなく、表に出なかっただけで零音の中でたまり続けていたのだ。

 そしてそれが、花音と晴彦の姿を見て爆発してしまったのだ。


「これじゃダメなのに……」


 一学期の時に起こした大事件。その時のことも結局は根底にあったのは狂おしいほどの嫉妬。自分のことだけを見てくれない晴彦への不満だ。


「零音ちゃんはずっと耐えてたんだよね」

「……うん」

「でも、桜木さんとあんなことになっちゃって。まぁ、あれは事故だったけど、でもそれでも零音ちゃんは我慢できなくなっちゃった」

「そう。情けないよね。あんなの誰が見たって事故で、桜木さんも、ハル君も悪くないのに……」

「そうだね。誰も悪くない。桜木さんも、晴彦君も……もちろん、零音ちゃんもね」

「え?」

「だってね、しょうがないよ。恋する気持ちは誰にも抑えられないから。好きな人があんなことになってたらそりゃ誰だって嫉妬するよ。私だってちょっとモヤっとしたし」

「めぐみ……」

「零音ちゃんは他のみんなよりも感情に素直だから、今回みたいなことが起きちゃっただけ。もちろん、やり過ぎたところはあったかもしれないけどね」


 めぐみにとって零音の行動というのは、決して責められるものではなかった。そして暴走してしまった零音の気持ちも十分に理解できるものだったからだ。

 そしてそれは口にはしていないだけで、あの場にいた雫にとっても雪にとっても同じことなのだとめぐみは考えている。雫も雪も怒っていなかったからだ。むしろ二人はとうとうやったかと、苦笑していたほどだ。


「でも……でもこれでもしハル君に嫌われでもしたら私……」


 零音にとって一番の懸念点はそこだった。迷惑をかけてしまったことも申し訳ないと思っているが、何よりも晴彦だ。晴彦に嫌われてしまったら、今度こそ零音はどうなってしまうかわからない。

 晴彦に嫌われるということを、零音は何よりも恐れていた。

 しかし、そんな零音の恐怖を溶かすようにめぐみは太陽のように優しく笑う。


「それこそ大丈夫だよ。あの晴彦君だよ? 晴彦君が零音ちゃんのことを嫌うなんて、それこそ天地がひっくり返っても……たとえ神様がいたってそんなことできるわけない。そのことは零音ちゃんが一番よく知ってるでしょ?」

「……うん」

「だから元気だそう。心が落ち着くまでは私が傍にいるから」


 めぐみの優しさと温もりに触れた零音は、少しだけ元気を取り戻すことができた。


「……ねぇめぐみ」

「なに?」

「ありがとね」

「……どういたしまして。お礼を言われるほどのことしてない気がするけどね」


 それからしばらく、零音が自己嫌悪から立ち直るまでの間、めぐみは零音の傍に寄り添い続けたのだった。


今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

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それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は7月1日21時を予定しています。

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