第131話 零音・花音vs花音・弥美 後編
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零音・雫vs花音・弥美の試合はどちらも一歩も譲らぬ大接戦を繰り広げていた。
最初の一点を取ったことで波に乗れるかと思われた零音達だったが、花音と弥美にも意地がある。ここで離されてなるものかと二点目は死守した。
再びイーブンに戻った試合の流れ。そこから始まるのは互いの闘魂を激しくぶつけ合う死闘だった。
そして取っては取られを繰り返し、試合は零音達リードの8-7で終盤を迎えていた。零音達がここを取ればマッチポイント。花音達が取れば再びイーブンに戻るという局面だった。
「そこっ!」
「同じ手はくらいませんよお姉さま!」
花音のサーブを零音が返球し、そのまま雫がスパイクを打つ速攻。最初に花音と弥美の不意を突いた零音と雫のコンビネーション技だ。しかし、一度見た技を二度食らうほど花音は愚かではない。
素早くコースを読み、ボールを拾った花音はそのままネットへ向けて走る。それを見た通常よりも高くトスをあげ、ボールの滞空時間を長くする。そうすることで花音が姿勢を整える時間を稼いだのだ。
ダッシュの慣性とジャンプの勢いを乗せたまま花音はスパイクを放つ。ここに来て花音に秘められていた身体能力が開花しつつあった。しなやかな筋肉とたぐい稀なボディバランス。判断能力の速さと視野の広さも加味され、この場にいる誰よりも高い運動神経を発揮していた。
雪にはまだ及ばないものの、この土壇場に来て発揮されるその運動神経が零音達にとって脅威であることは言うまでもなかった。そしてそんな花音とペアを組んでいるのは弥美なのだ。誰よりも花音の傍にいて、花音の思考を読むことにかけては弥美の右に出る者はいなかった。最高のコンビネーションを誇るペアなのだ。
対する零音達はといえば、別にコンビネーションが悪いわけではない。しかし、花音達に及ぶかと言われればそれは否だった。
互いに頭脳が明晰であるため、相手の考えを読んで息を合わせること自体は容易い。しかしそこまでだ。その先がないのだ。以心伝心で伝えあえる花音達に比べれば雲泥の差があるのも当然だった。
「そこです!」
「零音!」
「任せてください」
しかし、花音達にコンビネーションがあるというのであれば零音達には築き上げて来た経験がある。それも今世の10数年だけでなく、元の世界にいた時の10数年の記憶もだ。花音達の倍以上の記憶を有する零音達にとって、その記憶は武器にもなる。
経験とは大きな武器なのだから。
(速い、けどコースも読めてる。なら取れる!)
零音は花音の打ったスパイクのコースに入り、レシーブする。
「っ!」
その瞬間零音の手に伝わる想像以上の重さ。試合が進むごとに威力が増していくスパイク。体力が無尽蔵なのではないかと錯覚してしまうほどだ。
球威に押された零音は僅かに返球を逸らしてしまう。
「——っ」
しかしそれもまだ許容範囲内。素早く反応した雫はボールの下へもぐりこみ、トスをあげる。
「決めなさい零音!」
「はい!」
雫のトスに合わせて零音は飛んだ。しかし、そのコースは予想されていた。零音が返球ミスしたことで、雫の上げれるトス範囲が狭まったからだ。トスの場所を予想できれば、それに合わせて動くこともできる。
零音がスパイクを打つ位置を見極めた弥美は零音がスパイクを打つタイミングに合わせて飛んだ。
「っ!」
完全にブロックされる位置。しかしそれでも零音は打たないわけにはいかなかった。ビーチバレーはその特性上、フェイントが禁止されている。ここで打たなければ零音達は失点することになってしまうのだから。
(このままじゃブロックされるだけ。今から打つコースを変えることもできない。それなら!)
刹那の思考。零音はその間に覚悟を固めた。
どのみち打たなければいけないのであれば打つ。この試合にかける想いは誰にも負けるつもりなどない。ならばその想いをボールに乗せて、零音はスパイクを打った。それこそ、ブロックごと打ち崩す勢いで。
「はぁっ!!」
「っ!」
弥美は完璧なタイミングでブロックに跳んだ。しかし、零音の打ったスパイクは弥美が想像していたよりも何倍も強かった。
「しまっ——」
零音の球威に押された弥美はボールをブロックしきることができず、後ろにそらしてしまった。
「まだです!」
弥美が後ろへ逸らしてしまったボールを追いかけて走る。
拾うことさえできればまだ立て直せると、そう判断しての行動。しかし、この行動が思いもよらぬ結果を生んでしまった。
そう、試合に集中していた花音は気付かなかったのだ。走っていった先に誰がいるのかということを。
「よし、とど——って、へ、あ、きゃぁっ!」
「へ、うわぁあああっ!」
花音の先にいたのは、試合を観戦していた晴彦だった。まさかここまで走って来ると思わなかった晴彦は反応に遅れてしまう。そしてボールを拾うために必死に走る花音もまた急に止まることなどできるはずがない。
その結果として、二人は激しくぶつかってしまった。
もつれ合うようにして転がる二人。
「いったたたた……って、あ! 桜木さん、だいじょう——って、あ」
「いたた……もう、なんで先輩が目の前に——って、え?」
ぶつかり合うその瞬間、晴彦は反射的に手を前に出していた。そしてその結果、晴彦は触れてしまっていたのだ。——花音の胸に。
「あ、あ……」
「いや待て。ちょっと待ってくれ。これは違う。事故だ」
しかし、そんな主張が通るはずもなく……。
「この……この、へんたぁああああああああいっっ!!」
顔を真っ赤にした花音の叫びが、砂浜に響き渡るのだった。
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次回投稿は6月24日21時を予定しています。




