第129話 零音・雫vs花音・弥美 前編
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「それでは、第三試合を始めます。ルールは今までと同じです。十点先取で勝利。しかし、第二試合を考慮しまして9-9の状態になった場合でも、十点目を取ったチームの勝利とします」
第二試合は途中で止めずに最後までやらせた奏だが、第三試合まで同じ状況になることがあれば今度は止めるつもりだった。旅行にやってきたというのに、このビーチバレーだけで体力を全て消耗するのはあまりにももったいないからだ。
「それでは互いの健闘を祈ります。まずは桜木・病ヶ原ペアからのサーブです」
「よし、いくよ弥美ちゃん!」
「うん、全力でいこう!」
最初にサーブを打つのは花音だ。第一試合、第二試合とは違い雫のような超人プレイヤーがいるわけではない。むしろ運動神経という部分で言うならば、花音と弥美に軍配が上がるほどだ。しかしそれでも花音も弥美も一ミリたりとも油断してはいなかった。
油断すれば喰われる。それだけのプレッシャーを零音と雫は放っていたのだ。特に花音達にとって最大の未知は零音の存在だ。一試合目では最後にこそ動きを見せたものの、それ以外のことは何もわかっていない。零音がどれほどのレベルで動けるのか、花音達は全く把握できていなかった。
そして何より花音達を畏怖させるのは、突き刺さるような零音の殺気だ。真夏の炎天下の中にあるというのに、まるで真冬の雪原に放りこまれたかのような錯覚すら覚える。
しかしそれに萎縮する花音ではない。花音はボールを構え、精神を統一すると全力でサーブを打った。
(まずは試合の流れを掴む!)
大事な大事な一点目だ。相手を崩しやすいサーブ側が多少有利とはいえ、素人の打つサーブなどたかが知れている。状況は互いに五分。ならばこの一点目は試合の状況を左右する一点になりかねない。
最初から全力。花音はゆっくりペースを上げていくつもりなど毛頭も無かった。
「はぁっ!!」
弾丸のようなサーブが零音へ向けて飛んでいく。第一試合の時の零音であれば取ることができないほどの威力。必ず雪がサポートに入って返球していたであろうサーブだ。しかし、今回のペアである雫に動く気配は見られなかった。
しかしそれは、雫が取れないから動かなかったのではない。動く必要がなかったから動かなかったのだ。
「先輩っ!」
零音は冷静にサーブの軌道を捉えていた。いかに速かろうと、コースさえわかっていれば取るのは難しいことではない。そして第一試合の時の零音の動きを見ていれば零音を狙って来ることまで読めていた。そうなれば後は自分のイメージした動きと、現実の動きを合わせるだけだ。
花音がサーブを打つ前から何度もイメージを反芻し続けたがゆえに、零音の体は僅かなずれもなくそのイメージ通りに動いた。
そして、零音のレシーブは狙った場所へ、すなわちネットの前へと飛んでいく。それはスパイクを打つにはちょうど良い高さになっていた。
「任せなさい——大事な一点目はそう簡単に譲らないわよ花音」
一点目を重要視しているのは花音達だけではない。零音達にとってもそれは同じことなのだ。
「まずい!」
雫がスパイクを打つとは思っていなかった花音と弥美は反応がワンテンポ遅れてしまった。そしてそれが致命的な隙となる。
「遅い!」
雫の打つスパイクが二人の隙間を縫うようにして飛ぶ。花音も弥美も懸命に手を伸ばしたが、それでも僅かに届かずボールはコートへと突き刺さった。
「0-1。昼ヶ谷・朝道ペアポイントです」
「ナイススパイクです先輩!」
「あなたが良い位置に持ってきてくれたからよ。おかげですごく打ちやすかったわ」
レシーブを狙った場所に打つというのはそう簡単なことではない。しかし、それができたからこその零音と雫の一点先取なのだ。
「まさか、速攻で仕掛けてくるなんて」
「ごめん花音。速攻の可能性も考えられたはずなのに、油断してるつもりはなかったけど、まだ心のどこかで油断してたのかも」
「仕方ないよ。私だってその可能性は考えてなかったもん。まさか一点目からあんな大胆な策を使ってくるなんて」
花音は零音達は一点目を慎重に攻めてくると思っていた。しかし零音と雫はそんな花音の考えの裏をかいてきたのだ。それを油断と呼ぶならば油断なのだろう。しかし、全ての可能性を考慮しろという方が無理な話だ。
「それにやっぱり朝道先輩。あの正確なレシーブは脅威だよ。もっと警戒しないと」
「そうだね。ホント、先輩達はみんな油断ならないなぁ」
「楽に勝てる試合なんて一つもないってことだよ。さ、ここ一本頑張ろう!」
「うん!」
気合いを入れ直すために花音は自分の頬を強く叩く。
「やってやりますよ、お姉さま、先輩! 一本集中!」
反省は一瞬。花音と弥美は気持ちを切り替え、試合へと臨むのだった。
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次回投稿は6月17日21時を予定しています。




