第127話 零音の観察眼
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結論から言うならば、花音の提案した『この試合を制した方がこの旅行の間晴彦と行動を共にする』という提案は受け入れられた。
最初は乗り気ではなかった雫だったが、花音の本気を感じたのだ。花音が伊達や酔狂でそんな提案をしているわけではないということに。
もちろん零音や雪からは反対されたが、雫の説得により渋々花音の提案を飲み込んだのだ。
「どうですか日向先輩。私の提案、先輩達に呑ませてみせましたよ」
「いやまぁ、確かにそれも驚きなんだけど……やっぱり俺の意思は反映されないんだな」
「なんです先輩。不満があるんですか? 私は先輩のためを思ってお姉さまに提案したんですから」
「いや、俺のためって言われてもなぁ」
「これ以上先輩が最低最悪のクズ野郎にならないためなんですから」
「最低最悪のクズ野郎ってなぁ。俺そんなに酷いか?」
「えぇ。手あたり次第に女の子を誑かしているようにしか見えません。この旅行は先輩以外は女の子だらけですし、小さな女の子までいますから。先輩の毒牙にかけないためにも、私が先輩の傍にいる必要があるんです」
「毒牙とか……そこまで言われるほどか」
「自分の胸に今までの行いを聞いてみるといいですよ」
「うぐ……」
はたから見れば花音の言い分も最もなのだが、晴彦からすれば多少他の人よりも女子に縁があるというだけで、毒牙にかけるなどというのは言いがかりもはなはだしかった。
「納得いってない顔してますね」
「当たり前だ。俺は何も悪いことはしてない……はずだ」
「ふん、犯人はみんなそういうんですよ」
「俺は犯人扱いか」
「まぁみといてくださいよ先輩。。この試合必ず勝って、私が先輩のことを矯正してあげますから!」
やる気に満ちた花音に見たことがないほど綺麗な笑顔を向けられ、晴彦は思わず苦笑してしまう。もっと良い意味で笑顔を向けられたかったと益体のないことを考えてしまう。
「結局俺は試合の行く末を見守るしかないわけなんだけどな。俺のこの状況って他のやつから見たらどうなんだ? 羨ましいものだったり……さすがにしないか。友澤あたりは喜びそうだけどな」
言い換えれば今の晴彦の状況は複数の女の子が晴彦を巡って争っている状況なわけなのだが、それを喜べる晴彦ではなかった。
「できれば平穏なままに終わって欲しいけどなぁ。無理な願いかこれは。そもそも桜木さんの言うように、俺がはっきり意見を言えたならこんなことにはなってないのかもしれないけど」
しかしそれは最早言ってもしょうがないことだ。晴彦は小さくため息を吐いた。
「楽しそうに話してたね」
「っ! れ、零音!?」
「うん、私だけど。なんでそんなに動揺してるわけ?」
「え、いや、別に。動揺なんてしてない……けど」
「嘘」
零音はあからさまに不機嫌な表情で晴彦のことを見る。
「私がちょっと目を離してる間にまた新しい子をひっかけてた」
「ひっかけって……桜木さんのことか? いや、彼女はそういうのじゃないからな! っていうか俺別に誰のことだってひっかけてないだろ!」
「ふーん、そうやって誤魔化すんだ」
「別に誤魔化してなんか」
「病ヶ原さんは?」
「う……」
「当ててあげようかハル君。私が皆で水着を買いに行った日でしょ。あの子と何かあったの」
「っ! ど、どうしてそれを」
「だって私が一日ハル君と離れたのってその日だけだし。それ以前も、その後も基本的にずっと一緒にいたし」
「あー、言われれば確かに」
「目を離したらすーぐ新しい子ひっかけてくるんだから」
笑顔で言う零音だが、その目は驚くほど笑っていなかった。
「そんなんじゃいつか刺されちゃうよハル君」
「あ、あはは……怖い冗談言うなよ」
「冗談で済めばいいね」
「冗談……だよな?」
「……ふふっ」
「その笑顔止めろ、マジで怖いから!」
「あはは、冗談だってば。本気でそんなこと言うわけないじゃない」
「だ、だよな……」
「……まぁ、このままだと冗談じゃなくなるかもしれないけど」
「え」
「それじゃあハル君、私試合頑張るから、応援してね」
零音は笑顔で手を振ってコートの方へと向かう。
晴彦はそんな零音のことを見送りながら、零音の観察眼の高さに身を震わせるのだった。
最近一話が短くて申し訳ないのです……。
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次回投稿は6月10日21時を予定しています。