第23話 晴彦の悩みを聞き出し隊 中編
今回、ポーカー勝負の部分を試験的に三人称で書いてみました。
これからたまに、三人称にすることもあるかもしれません。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
その部屋は、異様な空気に包まれていた。
「フラッシュです」
零音の勝ち。
「あ、またフラッシュですね」
零音の勝ち。
「今日はすごく運がいいみたいです。フルハウス」
「ちょっとさすがにおかしくない!?」
零音が十連勝を決めた直後、とうとう雪が叫ぶ。
零音がやろうと言い出したポーカー。
そのルールは単純だ。配られたカードの役の強さを競うだけのもの。手札のチェンジは一回までとしておりベットも何もない。
それなのに、零音の十連勝。いくら馬鹿でも零音がなにかしているということに気付く。
「おかしいって、何かおかしいかな? 雪ちゃん」
「だっていくらなんでも十連勝なんて……ねぇ、二人もそう思うでしょ」
「……そうねさすがに何かを疑ってしまうわ」
雪に同意を示す雫。晴彦は苦笑いするばかりで何も言わない。
「まさか私がイカサマしてるっていうんですか?」
「さぁ、私にはわからないわ」
「そんなイカサマなんてするはずないじゃないですか。する理由もないですし。ただの遊びですよ?」
嘘である。零音は間違いなくイカサマをしている。ボトムディールという手段を用いて、零音は自分の手札を操作していた。
カードを配る役を自分から買って出ることで、もっともイカサマをしやすい位置を手にしたのだ。
しかしこれは零音の言う通りただのお遊び。なぜわざわざ非難を浴びる可能性を覚悟してまでイカサマをしているのか。
理由は単純、宣戦布告である。
今回、晴彦の悩みを聞き出すという目的で協力している三人。その計画はしっかりと立てられていた。しかしただ一つ決まっていないことがあったのだ。
それが、最終的に誰が晴彦の悩みを聞くかということだ。三人で晴彦の心を緩和させ、話しやすい雰囲気を作ってから誰かが悩みを聞き出すという計画の、誰が、の部分が当日になっても決まらなかったのだ。
……そんなの誰もいいと思うかもしれない。しかし考えて欲しい。自分の悩みを吐露するということは自分の心をその人にさらけ出すということ。心理的に近づくことができるのだ。そのチャンスを他の人に譲るほど、三人は優しくはなかった。
そして話は戻ってこのポーカー。
零音は暗に、このポーカーでの勝者が晴彦の悩みを聞き出す権利を手にできるようにしようと言っているのだ。
零音から向けられた視線でそのことを察した二人は気を引き締める。
「……なるほど。いいわ。それなら今度は日向君に配ってもらおうかしら」
「そうだね」
「え、俺ですか?」
「異論はないわね。朝道さん」
「えぇ、もちろん」
「まぁ別にいいですけど……え、何、この雰囲気」
次の勝負、それが全てを決めることになる。
(ふふ、でもこの勝負。私の勝ちです)
たとえ配る人が晴彦に変わったとしても、零音には勝つ自信があった。
確かにボトムディールはできなくなった。それでも、他のイカサマはできる。
袖隠し。これまでの十回のポーカーの中で、零音はすでに手札に必要なカードを集めていた。
「それじゃあ配るぞ」
一枚ずつ手札が配られる。
零音の手札は、ダイヤのワンペアが揃っているだけ。しかし、それは関係ない。手札はすでに成っているのだから。
「うーん。せっかくだから、全部チェンジしよっかな」
「全部って、そんなに手札悪かったのか?」
「ハル君の配り方が悪かったのかもねー」
「なんだよそれ」
「ふふ、冗談だよ冗談」
言っている間に、零音は手札を完成させる。
ストレートフラッシュ。二人に絶望を与える手札の完成だ。
「ふふ」
しかし、雫は不敵に笑う。
(ボクがあなたの考えに気付いてないはずがないでしょう)
雫はすでに零音の考えに気付いていた。
そしてすでにその対抗策は打っていたのだ。
(打てる手は全て打っておく。それがボクのやり方です)
「いいわね。私も手札全部入れ替えようかしら。純粋に、運で勝負しましょう」
そんなわけはない。零音同様、袖隠しのイカサマによって揃えた手札はロイヤルストレートフラッシュ。
(これでボクの勝ちです)
「うーん。アタシは一枚かなー。あ、ハルっち飲み物空じゃん。入れてもらったら?」
「ん、あぁそうだな」
「ついでにアタシももらおーっと。二人はいらないの?」
「私はまだ大丈夫かな」
「私もいいわ」
紅茶のおかわりと、オレンジジュースのおかわりを貰う晴彦と雪。
机の上にカードを置き、すでに勝利を確信した様子の二人はのんきに飲み物を飲む雪を見て笑う。
「それじゃあ、勝負といきましょうか」
そして、四人が一斉に手札を開く。
「「なっ——!」」
ほぼ同時に驚愕した声を出す零音と雫。
零音の手札はスペードの5、6、7、8、そしてA。
雫の手札はダイヤの10、ジャック、クイーン、キング、そして9。
「アタシはツーペアだったよ」
「俺はワンペアだったな」
「二人は……役なしみたいだね」
ニヤリと雪が笑う。
「あなた、私達の手札を入れ替えて——」
「終わった勝負にケチをつけるのが先輩のやり方なのかな」
「くっ」
そう、雪もまた二人のイカサマに気付いていた。
しかし、雪は下手なイカサマをするよりも、自分の身体能力に賭けた。
晴彦に飲み物を勧めたのもそのためだ。
使用人が晴彦に近づいた時、零音は無意識に使用人の女性に視線を向ける。雫は勝利を確信し、紅茶を飲んでいた。その一瞬の空白。雪は素早く対面する二人の手札を入れ替えたのだ。神業と言ってもいい速さで。
「しょうがないわね」
「そうだね。今回は認めるしかないかな」
「イエーイ! アタシの勝ち!」
「え、何。なんで急にそんなマジな感じになってるの」
敗北を噛みしめる零音と雫。勝利を喜ぶ雪。何もわからず、おいてけぼりの晴彦。
こうして、晴彦の悩みを聞き出す役目は雪となったのだった。
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先ほどまでの雰囲気とは打って変わって、部屋には穏やかな空気が満ちていた。
はぁ、さっきまでなんか変な緊張感があったからなー。
緊張してたぶん緩和されると落ち着くな。
「そういえばその紅茶どうかしら」
「あ、はい。美味しいですよ。なんていうか落ち着く気がします」
えっと、確かダージリンティーだっけ。あんまり紅茶を飲みなれてない俺でも飲めるし、美味しいと思う。っていうかこれってもしかして高いのかな。値段とかよくわかんないけど。
「そう、ならよかったわ」
「そういえばここって先輩の部屋じゃないんですよね」
「ええ、そうよ。ここは応接室なの。まぁ、その中でも比較的小さい部屋だけど」
「こ、これでも小さいんですか」
とんでもないとは思ってたけど、想像以上かもしれない。
「私の部屋はここよりも広いけれど、特に面白みのない部屋だからここの方がいいかと思ったの」
「あ、ねぇねぇ、それよりもさ」
「何かしら」
「アタシ、ちょっと運動したいなーって。ほら、さっきからずっと座ったままだし。バドミントンとかない?」
「運動? まぁいいけれど。庭なら空いてるだろうし。でもバドミントンは……」
「あります」
「……一応聞くけれど、なんであるのかしら」
「私達使用人がストレス発散に使用することがありますので」
「……そう。じゃあ持ってきて頂戴、奏さん」
「かしこまりました」
出ていってすぐに戻ってくる使用人さん。
「庭に案内するわ」
「いしょっしゃー! 運動だー!」
「雪さんテンション高いね」
「雪ちゃん運動好きだもんね」
そして、俺達は庭へと移動することになった。
雫さんの考えた晴彦の悩みを聞き出す計画、実はほとんどその場のノリで行こうという計画だったりします。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
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次回投稿は8月31日9時を予定しています。