プロローグ 入学式(裏) 前編
まだまだ話も進んでいない段階からブックマークしてくださる方がいてとても嬉しいです!
これからまだまだ続きますので、お付き合いくださると幸いです
というわけで(なにがというわけなのかわからないけれど)入学式の日の零音視点です。
「おめでとう、君たちは選ばれた」
真っ白な空間の中、目を覚ましたオレに投げかけられたのはそんな言葉だった。
「選ばれた? っていうか、ここはどこだよ!」
「できればこの状況の説明をしてほしいのですが」
いきなりのことに頭が追い付いていないオレだったが、隣にいた二人の少年——二人とも同い年くらいだった——がオレ達の前にいた存在に問いかけていた。目の前にいる存在は男なのか女なのかもわからない、見えているはずなのに見えていない不思議な感覚に襲われる。
「言葉通りの意味さ。君たち三人は選ばれた。神であるこの私にね」
「神?」
「頭いかれてるのか? お前」
「ハハハハ! 君たちが私のことをどう思ったとしても自由だけど、この現状を作ったのは私で、君たちの行く末を決めることができるのも私なんだ。その事実は変わらないよ」
「…………」
その言葉には妙な説得力があって、オレ達三人は黙り込んでしまう。確かに、どういったところでこの状況を説明できるわけじゃない。目の前の存在が神であるかどうかは別としてこの白い空間は普通じゃない。
「それで、貴方は僕達をどうするというんですか?」
「『アメノシルベ』……知ってるだろう?」
その名前はよく知っていた。というか、一番好きなギャルゲーだ。友達に勧められて始めたゲームで、幼なじみキャラの朝道零音のキャラクターに惹かれて何度もプレイした。
隣の二人も『アメノシルベ』を知っているようだった。
「君たちには、その世界に転生してもらおうと思ってね」
「え、どういうことですか?」
「そのままの意味だよ。君たちには今から『アメノシルベ』の世界に行ってもらう。ただし,
ヒロインとして……ね」
ヒロインとして『アメノシルベ』の世界に転生する?
いきなりの言葉に頭の理解が追い付かない。
「ふざけんな! なんで俺がそんなことしなきゃいけねぇんだよ!」
「暇だからだよ」
「は?」
「神様の仕事ってのは存外暇なもんでねー。ただ世界を見てるのも飽きたんだ。だから、ちょっかいを出してみようと思って。理由なんてそれぐらいだよ。暇つぶしだね。別に崇高な目的があるわけじゃない」
特別な理由なんてない。ただの暇つぶし。あっけらかんと神は言う。
「それだけのために僕達を集めたというんですか。ふざけないでいただきたい」
「ふざけんな、元の世界に戻せよ!」
「そうです。オレ達を元の世界に戻してください!」
オレ達の言葉を聞いても、神は飄々とした態度を崩さない。
「うーん、憧れのヒロインに自分がなれるっていうのは悪くないと思うんだけどねぇ。まぁ君たちが何を言おうがもう決めたことだから。まぁでもそうだね、じゃあ一つだけ元の世界に戻るための条件を与えよう」
「条件?」
「エンディングを迎えること。それが条件だ」
「エンディングって、もしかして主人公と結ばれろってことですか」
「そう、それが条件だ。異論は認めないよ」
『アメノシルベ』はギャルゲーだ。だから当たり前だが主人公は男だ。つまり、男と結ばれなくてはならないというのだろうか。
「……もし主人公とエンディングを迎えられなかったら。どうなるんですか」
「ん? 当たり前だけどそのままその世界で生きてもらうよ。死ぬまでね」
男と恋愛するなんて考えられない。でも、そうしないと帰れない。元の世界には家族も友人もいるんだ。なんとしてでも帰りたい。
「わかりました。その条件を呑みましょう」
「……俺もだ」
オレが悩んでいるうちに、他の二人は答えてしまう。
「それはよかった。君もそれでいいね?」
それは質問ではなく確認だった。もし断ったら、元の世界に戻る手段すら失うかもしれない。逃げ道はなかった。
「はい、わかりました」
「うんうん、三人とも納得してくれたみたいでよかったよ」
「一つ聞かせてください」
「どうしたの?」
「『アメノシルベ』の主人公である晴彦は好感度が見えます。それはどうするんですか。流石に男性のことを本気で好きになれるとは思いません」
「そうかな? そうでもないと思うけど……そうだね、それくらいはなんとかしてあげよう。君たちの好感度ゲージは偽りのものが見えるようにしておくよ。さて、そろそろ時間だ」
その言葉と同時、オレ達の足元が光を放つ。
「それじゃあ、君たちがどんな物語を生み出すのか……期待しているよ」
その言葉と同時、オレは意識を失った。
あの日から時は過ぎて、オレは……私は、朝道零音としての人生を過ごしていた。
気付けばもう15歳。そして今日は入学式。ゲームの始まる日だ。
「……ふぅ」
今世の幼なじみにして、このゲームの主人公である日向晴彦の家の前に立ち、心を整えるように息を吐く。
「今日から、全てが始まる。大丈夫、選択肢は覚えてるし、私のルートは一番エンディングの確率も高い」
朝道零音のルートは、他のヒロインの好感度が足りなかった場合にも自動的に入るルートだ。……こういうと私がチョロいみたいで嫌だけど、今はそれが助けになっている。エンディングを迎えなければ元の世界に帰ることはできないのだ。確率は高いに越したことはない。
「よし、いこう」
意を決して玄関を開ける。鍵は事前に晴彦の両親から預かっている。おじさんとおばさんが海外に出張に行く前に、やたらとニヤニヤしながら渡されたのは記憶に新しい。
「おはよー。ハル君起きてる?」
返事はない。それも当たり前のことだけど。晴彦の朝の弱さは小学校と中学校で身に染みている。もちろん、その起こし方まで。
何にせよ起きてないなら先に朝ごはんを作ってしまおう。元の世界では少ししかやってこなかった料理だけど今世では両親の教えもあってなんでも作れるようになった。
「♪~~♪~~」
鼻歌混じり朝ごはんの用意をしていく。あっという間に出来上がった朝ごはんを机に並べて、飲み物を用意する。この世界はゲームの世界だけど、15年過ごしてわかったのはちゃんとした現実であるということだ。まぁ、当たり前の話だけど。つまり、こうして常日頃から点数を稼いでいけば私のエンディングになる可能性を高めることができるという算段だ。男を掴むには胃袋から。料理ができるというのは大きなアドバンテージのはず。
「さて、それじゃあ起こしにいこうかな」
リビングを出る前に、鏡で自分の姿を確認する。
鏡に映るのは、ゲームで見ていた通りの朝道零音の姿。美少女のなかの美少女だ。今は自分自身ではあるけれど、思わず見惚れてしまう。モテるのも無理はない。もっとも、男と付き合う気なんてさらさらないけど。
晴彦にも、幼なじみとしての友情は感じていても好きだという感情は湧いてこない。男としての意識はまだちゃんと残っているのだから。
まぁ、それはそれとして時間も迫っている。早く起こそう。
「おーい、ハル君、起きてるー?」
返事はない。これもいつものことだ。遠慮なく階段を上がり、晴彦の部屋へと向かう。
ちなみに、私が晴彦のことをハル君と呼ぶのはゲームの零音がそう呼んでいたからだ。最初の頃は違和感もあったが、今では慣れた。
「ハル君? 起きてるの? 入っちゃうからね」
部屋に入ると晴彦は半分起きているといった状態だった。
「あー、まだ寝てる」
「……起きてるよ」
「布団に入ったままの人は寝てるっていうんですー。二度寝しないの!」
「うわぁ!」
こんな美少女が起こしに来てるのに起きないような不敬は許されないのだ。世の男子高校生の夢を実現してやっているというのにこいつはそれがわかってないのだろうか。
「早く着替えてご飯食べないと、入学式に間に合わないよ」
「うーん、わかったよ」
晴彦がしっかり起きたことを確認して部屋から出ていく。
その後、晴彦が朝ご飯を食べ終えるのを待って、いよいよゲームの舞台である雨咲学園へと向かった。
いいですよね。傲慢な神様。神様って傲慢なくらいがちょうどいいと思うんです。これからもちょくちょく出したいと思いつつも予定は未定です。
次回投稿は8月4日9時を予定しています。