第126話 花音の名案
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
それは第二試合終了後のことだった。
第二試合後、体力の消耗や体調のことを考慮して長時間の休憩を取ることとなった零音達。雪や雫は涼しい場所で休憩を。弥美と依依も同じ場所で休憩という運びになった。
零音はそんな雪達について行き、奏と霞美も買い出しをということで外出している。すると必然、試合場に残されたのは晴彦だけになったのだが……とくに動いたわけでもなく、パラソルの下の涼しい場所にいた晴彦は体力を消耗しているわけでもなく、パラソルの下でボーっと海を眺めていた。
燦燦と照り付ける太陽の光を反射し続ける海の輝き。雲一つない青空はどこまでも澄み切っている。
「はー、いい天気だなー」
「えぇ、ですが外で動くことを考えるならもう少しくらい曇っていてくれた方が助かりますけどね」
「うぇっ!?」
何気なく呟いた独り言にまさか返事があると思っていなかった晴彦は驚きのあまり跳び上がってしまう。慌てて振り返ると、そこに立っていたのは花音だった。
「なんでそんなにびっくりするんですか日向先輩」
「い、いやだって桜木さんは弥美……じゃなくて、病ヶ原さんと一緒に休憩しに行ったんじゃなかったのか?」
「さっきまで一緒にいましたよ。でも、私はそんなに疲れてなかったので、一足先に戻って来たんです。日向先輩がここにいると思ったので」
「お、俺が?」
「えぇそうです。日向先輩の周りにはいつも誰かいて、ゆっくり話すこともできないので」
「いつも誰かいるなんてことは……あるかもしれないけど」
零音か雪か雫か。主に零音だが、晴彦の傍には常に誰かが一緒にいる。思えばこうして花音とゆっくり話をする機会すらなかった。
「でも桜木さんが俺に話なんて珍しいな」
「本音を言うなら先輩とは話もしたくありませんけど」
「あはは、手厳しいな……」
「でも、弥美ちゃんの言うことにも一理あると思ったから」
「病ヶ原さんの言うこと?」
「私は先輩のことを何も知りません。お姉さまを誑かした不届きものって印象しかありません。っていうか私にとって大事なのはそれだけなので。でも……先輩がそれだけの人じゃないのも、一応はわかってるつもりです。だから、こうして話をしに来てあげました。感謝してください」
「えぇと……ありがとう?」
「なんで疑問形なんですか」
「いや、別に特に理由はないけど」
あくまで上から目線の花音に晴彦は思わず苦笑してしまう。そんな晴彦を見て小さく鼻を鳴らした花音だったが、それ以上は何も言わずストンと晴彦の隣に座った。
「…………」
「…………」
若干気まずい沈黙がその場に満ちる。花音は話をしに来たというわりには何も言わない。しかし少しして、花音が沈黙に耐えかねたように口を開いた。
「なんでずっと黙ってるんですか!」
「俺なのか?!」
「当たり前ですよ! 先輩の話を聞きに来たんですから、先輩から話すのが筋でしょう!」
「いや意味わからんぞその理論は!」
「あぁもうじゃあいいですよ。私がずっと聞きたかったことがあるんで、それだけ教えてください」
「聞きたかったこと? まぁいいけど。変なこと聞くなよ」
「しませんよ。先輩じゃないんですから」
「お前は俺をなんだと思ってるんだ」
「女の子を誑かすサイテー男です」
「ひでぇ……」
「事実ですから。それで、聞きたいことなんですけど」
「うん」
「先輩、好きな人いるんですか?」
「は、はぁ!?」
思いもよらぬ方向からの質問に晴彦は素っ頓狂な声を上げてしまう。
「変なこと聞くなって言っただろ!」
「別に変なこと聞いてないじゃないですか。普通の質問です」
「いや、そうなのかもしれないけど……」
「第一、考えてみてください。先輩には現在、好意を寄せてくれてる人が複数人います」
「えぇとまぁ、それはなんというか……」
「気付いてないとは言わせませんよ。っていうかそれは彼女達にも失礼です。それは最早鈍感という領域ではなく、無関心。人として最悪の部類ですよ」
「そこまで言うか……」
「もちろんです」
「で、それと俺の好きな人の話がどう関係してくるんだよ」
「だから単純な話です。先輩に好きな人がいるなら、その人に告白して付き合えば全部丸く収まるじゃないですか」
「あのなぁ……」
「それで誰なんですか。好きな人。あ、でもお姉さま以外でお願いします」
「好きな人って言われてもな……」
「どうしたんですか?」
「好きな人とか言われてもな。わからないんだよ」
「わからない? どういうことですかそれ。いないってことですか?」
「まぁそうとも言えるんだけどな。そもそも好きって感情がよくわからないっていうか」
「……はぁ」
「なんだよそのため息」
「思った以上に最悪の答えが返ってきただけですよ」
「最悪の答えって……そんな酷いか?」
「当たり前です。最悪です。ここまでロクでなしだとは思ってませんでした」
「そこまで言われることか」
「あたりまえです。そうやって理解してないふりして、色んな人を誑かして。挙句の果ては弥美ちゃんまで。色魔の所業ですよこの色魔!」
「人聞きの悪いこというな!」
「私は事実しか言いませんから。でもそういうことですか。問題点は理解しました」
「問題点?」
「好きな人がわからない。だから色んな人を誑かしてしまう。それが先輩の取り巻く現状を生み出す要因になってることをまず理解してください」
「は、はぁ」
「まずはその性根を叩き直します」
「は?」
「そうです。そうすれば良かったんですよ。先輩の傍にいて、先輩の性根を叩き直してあげます。今日一日と言わず、この旅行の間ずっと一緒に居て!」
「いやいや、何言ってんだよ!」
「旅行が潰れてしまうのは残念ですが、この機会を逃せば先輩の傍にいれるチャンスは減ってしまいますからね。名案。完璧な案ですよこれは。ビーチバレーに勝った時の条件をそれにしましょう」
ここに来て花音の悪い癖が出てしまった。そう。思いついたら一直線に突き進んでしまうという癖が。
「なんでそうなんだよ……」
「そうと決まればさっそくお姉さまに提案してこないと!」
立ち上がった花音は、走り出したかと思ったら急停止し、晴彦の方へと向き直った。
「いいですか先輩。一つだけ言っておきます」
「お、おう」
「私は先輩のことが嫌いです。大嫌いです」
「? あ、あぁ。それで?」
「それだけですよ。そこんとこ、ちゃんと理解しといてくださいね」
「???」
それ以上は晴彦に何も言わず、花音は走り去っていった。
「絶対に……好きになったりしませんから」
そう呟いた花音の言葉は、海の風にさらわれて消えていった。
一級フラグ建築士花音。
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次回投稿は6月6日21時を予定しています。