第119話 零音・雪vs花音・依依 中編
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ビーチバレー。それはバレーボールとは異なり、六人制ではなく二人制で行う競技だ。ビーチバレーとバレーボールは基本的なルールこそ似ているものの、異なる部分も多い。なによりも、砂浜で行うために足を取られやすいというのも特徴でもある。
バレーボールでできてビーチバレーでできないこともある。その一つがフェイントだ。スパイクを打つと見せかけて相手の後方にボールを落とす技。しかし二人制のビーチバレーでは得点に繋がる可能性が高すぎるため、禁止されているのだ。
細かな違いは他にも多くあるが、何より大事なのは二人のコンビネーション。どれだけ二人で息を合わせることができるかということが重要なのだ。
そしてたった今行われている零音・雪ペア対花音・依依ペアの試合。試合の展開は五分の状況で進んでいた。
「はぁっ!」
「甘いっ」
花音のスパイクを雪が素早く拾い上げる。そしてフワフワと浮き上がったボールの着地点に居るのは零音だ。
「レイちゃん、トス!」
「うん!」
「おりゃぁっ!!」
零音の上げたトスを、利き腕とは逆の左腕でスパイクする雪。利き腕とは逆の手で放たれてるとは思えないほどの速さで打ち込まれたスパイクは拾おうとした依依の手を弾き飛ばす。
「朝道・夕森ペアポイント。5-4です。5ポイントまで到達しましたので、いったん小休止を挟みます。水分補給などどうぞ」
「よっしゃ!」
「きゃー! 雪ちゃんカッコいいよー!」
雪がポイントを決めたのを見て鈴が黄色い歓声を上げる。
その隣にいる弥美は悔しそう——前髪で表情は一切見えていないが——な表情をしつつも雪の技量の高さに舌を巻いていた。
「コンビネーションではこっちの方が上。朝道先輩の動きにまだ硬さが残ってるし。でもそれ以上に夕森先輩。朝道先輩の技量を補いつつ、花音と依依のコンビネーションを上回るほどの力を見せつけてる。常識外としか言いようがない」
守備範囲、反射神経、そして技術力。どれをとっても雪は一流だった。花音達の狙うコースを素早く見極め、零音が取りやすいようにボールを弾く。そして零音の上げたトスを雪がスパイクするという必勝パターンを作りあげていたのだ。
「はぁ、はぁ……舐めてたつもりはないけど、さすがにすごいね夕森先輩」
「ん。朝道先輩の方を狙おうとしても拾われる。驚異的すぎ」
「でも、まだなんとか突き放されてはない。まだ巻き返せる」
「そうだね。夕森先輩の体力だって無限じゃない。左右に振り続ければいつか崩れるはず。さっきのスパイクを受けた感じ、まだまだ威力は強いけど最初ほどじゃなかったから」
「ちょっとずつ疲れは出てるってことね」
「返せるようになった時が狙い目。今は粘るしかない」
花音と依依は攻められつつも状況を冷静に分析していた。
そしてもちろん、そんな花音達の狙いは雪も理解している。雪の体力は常人よりははるかに多いが、それでも無限ではない。動き続けていれば疲れ、動きの精細を欠くことになる。ましてビーチバレーのコートは砂浜。普通に動く時以上に体力を浪費するのだから。
「なんか狙ってるよねぇ、あれ。でも勝つためにはこの方法しかないし」
「雪、大丈夫?」
「ん? あぁ大丈夫だよ。それよりさっきはナイストスだったよ。おかげですごく打ちやすかった」
「それならいいんだけど。ごめんね。私ができないばっかりに雪ばっかりに負担かけちゃって」
「あはは、それこそ気にしないでよ。これもまたチームプレーってね。レイちゃんにできない部分はアタシが補うからさ」
「できないことっていうか……このビーチバレーに関してはできないことばっかりだけど」
雪の足を引っ張り続けていることに零音は心苦しさを覚えていた。気にするなとは言いつつも、雪の体力が削られているのは事実なのだから。
このままでも勝つことはできるかもしれない。しかしそれは花音達が何も作戦を立ててこなければの話だ。そんなことはあり得ない。何か作戦を考えてくるであろうことはわかりきっていた。
(このまま雪に頼り切りでいいわけがない。私も何かしないと)
「ねぇ雪、実はずっと考えてた作戦があるんだけど」
「作戦?」
「うん。まぁ、作戦って言えるほどのものじゃないかもしれないけどね。でも、もしかしたら上手くいくかもしれない。聞いてくれる?」
「いいよ。それでどんな作戦なの?」
「えっとね——」
そして零音は、ずっと考えていた作戦を口にした。
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次回投稿は5月13日21時を予定しています。




