第118話 零音・雪vs花音・依依 前編
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
しばらくビーチバレーの練習を重ねた後、いよいよ第一試合が始まろうとしていた。
「それでは第一試合を始めます。お嬢様側は朝道・夕森ペア。桜木様側は桜木・宵町ペアです。ルールは原則本来のビーチバレーと同じです。審判は私と霞美が務めますので」
「めんどくさいけど……」
「何か言いましたか霞美」
「いーえ、なんでも。頑張りまーす」
明らかに頑張る気のない声で霞美が言う。晴彦は景品、と書かれたプレートを首から下げて椅子に縛られていた。しかし熱中症対策はばっちりとされていてそれなりに快適な環境が用意されている辺り、意外とつらくはないのかもしれないが。
ちなみに、めぐみや姫愛達は雷華と雷茅の相手をしている。さすがに長時間にわたって応援しても雷華と雷茅はつまらないだろうという配慮からだ。
彩音はと言えば、砂浜にパラソルを立ててビーチサイドベットの上に寝転がっている。完全に我関せずの状態だ。
鈴は雪の応援をするために晴彦の隣に座っている。
「ではサーブ権を決めましょうか。簡単に決めるために代表者同士でじゃんけんをしましょう」
奏の進言したじゃんけんによって零音と花音がじゃんけんをしてサーブ権を決めた。勝利したのは零音ということで、零音達の側からサーブすることとなった。
「んじゃとりあえず勝ったレイちゃんからサーブってことでよろしくー」
「え?!」
「いやそんなに驚くことじゃなくない? どうせサーブ持ち回りだし、いつかしないといけないんだからさ」
「いやそうなんだけど……練習見てたでしょ?」
「あー、まぁ確かに見てた。でも大丈夫だって、よっぽどなサーブミスしない限りアタシがサポートできるから」
「そのよっぽどをしそうで怖いんけど……わかった。頼んだからね」
「オッケイ! まっかせてちょうだい!」
ハンデで利き腕と逆の腕でしかサーブとアタックができない雪だが、それでも身体能力の高さは折り紙つきだ。零音とは比べるべくもないのだから。
「それでは両チームとも位置についてください」
「お姉さま、見ていてくださいね! 私お姉さまのために頑張りますから!」
「それはいいのだけど……あなた、私が敵チームということを忘れてないかしら」
「私がお姉さまの敵になることなどあり得ません!」
「今まさに敵同士なのだけど」
「ちょっと花音? それ裏切り宣言?」
「あ、違う。違うよ? これはなんていうの? 気持ちの問題の話だから。だからそんな殺気出さないでくださいお願いしますごめんなさい」
前髪に隠された瞳から感じる強烈な殺気に花音は思わず早口で謝ってしまう。
「いやホントにわざと負けるような真似はしないから。絶対に。私だって負けるのは嫌いだし」
「ならいいけど。昼ヶ谷先輩なんて運動神経の塊なのは目に見えてるし。朝道先輩はよくわからないけど。花音はともかく依依はそんなに運動が得意なわけでもないし」
「昼ヶ谷先輩が利き手使えないの含めて対等って感じだけど、あとは朝道先輩次第だよね。未知数過ぎてなんとも言えない」
サーブのためにボールの感触を確かめている零音のことを見る花音と弥美。二人の中にある零音のイメージは危険人物だ。穏やかで優しそうな風貌。見ているだけで癒されるような雰囲気を醸し出しているが、その胸中に渦巻く激しい激情を二人は知っている。零音と霞美が起こした事件を知ってるからだ。
晴彦のためならなんでもする人物。それが花音と弥美が持つ零音のイメージだ。今回のビーチバレー、ともすれば最大の難敵になるかもしれないと花音達は考えていたのだ。
「とにかく注意しよう」
「そうね。そうしましょう」
「もう話終わった?」
「終わったよ。頑張ろうね依依ちゃん」
「ん。負けるのは嫌いだし。ちゃんとやるよ。あぁ、太陽嫌い。せめて曇ってくれたらやりやすいのに」
先にコートに入っていた依依が花音のことを迎える。燦燦と照り付ける太陽を依依は憎々し気な瞳で見つめていた。
零音がサーブの位置についたのを見て花音と依依も構える。
「準備はよろしいですね。それでは、試合開始です!」
試合開始の合図とともに零音がサーブの構えに入る。どんなサーブが来るのか。どこを狙ってくるか。あらゆるパターンを思考して花音達はレシーブの体勢に入る。
そして零音から放たれたサーブは——。
「えいっ!」
ポス、と気の抜けるような緩い音を立ててフワフワと宙を舞う。
「「へ?」」
あまりにも予想外のサーブに、思わず気の抜けた声をあげてしまう花音と依依。しかしすぐに気を取り直して花音がサーブを拾う。花音が拾ったボールを依依がトスし、花音がジャンプしてアタックする。綺麗な連携だ。
零音が拾おうとするが、僅かに届かずボールがコートに突き刺さる。
「0-1ですね。桜木、宵町ペアリードです」
「やった!」
「ナイスアタック花音」
喜び合う二人とは裏腹に、零音は申し訳なさそうな表情で雪に謝る。
「ごめんね。やっぱりサーブ……っていうか、球技ってどうしても苦手で」
「いやー、酷かったね今のサーブ。あれじゃもうサーブっていうかパスだけど」
「うっ……おっしゃる通りで」
自分に非があることを理解しているせいで零音は言い返せない。
そう。今のサーブでもわかる通り、零音はビーチバレーが……というより、球技全般が得意ではなかった。断っておくが、運動神経が悪いわけではない。おおよそ平均値、といった具合だ。しかしこと球技に限っては別だった。今まではずっと努力でなんとかしてきたが、初めてやるビーチバレーを三十分でものにすることはさすがにできなかった。
罰の悪そうな表情をする零音に対して雪は明るい笑顔を浮かべて言う。
「もう、冗談だって。できないのは練習中にわかってたことだしね。ちゃんとサーブ入れれるなら問題ないよ。あとはやってく中で慣れてこう」
「うん。でも」
「あぁもうそんな心配そうな表情することないって。今ペア組んでるの誰だと思ってるの? アタシだよ? これくらいちょうどいいハンデだって。見てて、アタシの力見せてあげるから」
そう言って雪は不敵な笑みを浮かべるのだった。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク&コメントしていただけると私の励みになります!
Twitterのフォローなんかもしてくれると嬉しいです。
それではまた次回もよろしくお願いします!
次回投稿は5月9日21時を予定しています。