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第111話 霞美と雷華と雷茅

誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 バスの中にいる晴彦は絶妙な居心地の悪さを感じていた。乗っているのは昼ヶ谷家の所有しているバスなので、晴彦達以外に乗客もいない。奏がバスの運転をし、零音と姫愛。雫とめぐみ、雪と鈴が隣同士になって座っている。それぞれ和気あいあいと話しながら到着を心待ちにしていた。

 零音と姫愛だけは例外だったが。

 そんな中、晴彦はといえば零音とはまた違う居心地の悪さの中にあった。理由は単純で、晴彦の近くに座る、雷華と雷茅そして霞美のせいだった。

 三人は会話しようとはせず、しかしお互いに存在を意識していることは明白だった。晴彦が気を使ってお菓子を勧めたりしたが、三人とも黙って食べるだけで何も話そうとはしない。

 零音と姫愛のように険悪だから話さないというわけではない。ただ、何を話せばいいのかわからないと言った様子だ。

 このままではバスの移動時間が地獄と化す。そう思った晴彦は思い切って口を開く。


「あー、えっとさ。三人は姉妹って言うことになるんだよな」

「違うから」

「「そうです」」

「え……」


 返って来たのは真逆の返答だった。晴彦はなんと言っていいかわからず思わず固まってしまう。


「私達は、」

「姉妹のはずですが」

「同じ場所にいただけ。そもそも会話したことだってほとんどないと思うけど」

「会話したことがなければ、」

「姉妹ではないと?」

「そもそも血の繋がりなんてない。私は私で、お前達はお前達。あいつだって別に私達を姉妹として設定したわけじゃない」

「でもあの人は、」

「私とあなたを、」

「姉妹と呼びました」

「便宜上そう言っただけ。本当に姉妹なわけじゃない。私に妹なんていない」

「私達が妹です」

「だから違うって言って——」

「ちょ、ちょ、ちょっと待てって。いきなり喧嘩するなよ」

「別に喧嘩してるわけじゃない。私はただ事実を言ってるだけ」

「私達も、」

「事実を言っているだけです」

「あのなぁ。そんな言い合いしてたって無駄なだけだろ。霞美も、別に妹だっていうのが嫌なわけじゃないんだろ」

「そうは言うけど、妹じゃないのに妹だって名乗られたら嫌でしょ。しかもほとんど知りもしない子達に」

「それは……」


 晴彦も想像してみる。ほとんど喋ったことのない年下の子に突然「あなたは兄です」と言われた時のことを。


「確かに……ちょっと嫌かもしれない」

「でしょ」

「で、でも。こいつらは別になんの根拠もなく霞美のことを姉だって言ってるわけじゃないんだろ。あいつとか、あの人ってのが誰かは知らないけど、その人が姉妹だって言うならそうなのかもしれないじゃないか」

「はぁ……晴彦がどうしてその二人に肩入れするのかは知らないけど、私は認めないから」

「あなたが何と言おうとも、」

「あなたは私達の姉です」

「勝手に言ってれば。認めないけど。それよりも、あなた達にも晴彦にも聞きたいことがあるんだけど」

「ん? なんだよ」

「そもそもの話。なんであなた達がここにいるの。そして、晴彦と接触しているの。晴彦に関することは私の管轄のはずだけど」

「それはそうですが、」

「あなたは失敗したと、」

「あの方は判断しました」

「はぁ? 失敗した? どういうこと」

「彼の望みは彼女を作ること、」

「それは本来すでに終わっていなければいけないことだった、」

「しかし現状、」

「彼に特定の恋人はいません」


 雷華と雷茅は車内にいる一人一人のことを見ながら言う。


「数多の可能性はあれど、」

「それは未だ成就していない」

「失敗したって……まだ終わったわけじゃないんだけど」

「いいえ、」

「終わりました」


 雷華と雷茅は冷たさすら感じさせる瞳で告げる。


「人に飼われているのが良い証拠、」

「あなたが落ちぶれたことをあの人は悲しんでいました」

「別に飼われてるわけじゃない」

「あなたがどう言ったとしても、」

「私達の目からはそうとしか見えない」

「勝手なことを——」

「言いますよ。私達は、」

「それだけが私達の存在意義ですから」


 雷華と雷茅は決意を込めて霞美に言った。


「私達は目的を達成する、」

「たとえどんな手段を使ったとしても」

「……はぁ、面倒な子達。晴彦、私は知らないからね」

「はい!?」

「目を見ればわかるでしょ。この子達は誰かが何を言ったって聞くタイプじゃない。まったく、誰に似てるのやら」


 人の言うことを聞かないという点で言うならば、それはまさしく霞美とそっくりだと思った晴彦だったが、あえて口には出さない。口に出せば霞美が怒ることは明白だったからだ。


「結局私の時と同じ。誰かの思い通りになりたくないなら、自分の意思を貫くしかない。あなたの意思が強いか、この子達の意思が強いか。ただそれだけの話よ。私はあなた達に対して手出ししない。どうなるか……まぁ、楽しみにしといてあげる」


 そう言って笑う霞美に、晴彦はため息を吐くことしかできなかった。



今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

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それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は4月11日21時を予定しています。

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