第110話 座席問題
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雫から渡された冊子。それをもとに初日の流れを確認した零音達はさっそく移動を開始したのだが……そこに大きな問題があった。零音にとっては、という話だが。
目的地に向かうバスの中、零音の隣に座ったのは姫愛だった。座席の配置も全て雫と奏が決めていたのだ。しかも他の人とは若干座席の位置を離しているというのが憎らしい。この状況では、他の人に頼るということもできない。正真正銘、零音と姫愛は一対一にされていた。
(……先輩の考えてることはわかるけど。でも、だからって急にこれはないでしょ!)
バスが動き始めて約十分。目的地にたどり着くまでは約二時間。まだ十二分の一しか時間が経っていなかった。しかしその十二分の一の時間でさえ零音には無限に等しかった。何度も会話しようと試みたが、どれも失敗に終わった。姫愛を見た瞬間、何を話せばいいのかわからなくなったのだ。
「……はぁ」
思わずため息を吐いてしまった零音。そのため息を聞いて、今までずっと黙って窓の外を見ていた姫愛が零音に視線を向ける。
「私の隣はそんなに嫌ですの?」
「べ、別に嫌ってわけじゃ……」
「でもさっきからため息をついてばかりですもの」
「いやそれは……まぁ、私が悪いんだけど……でも、それは別に東雲さんのことが嫌いだからってわけじゃないよ」
「この座席配置の意味も、狙いも……私はちゃんと理解してますわ。私とあなたの関係改善。どうせあなたのことですもの、何か話をしなくてはと焦りでもしていたんでしょう」
「う、どうしてそれを……」
「それくらいわかりますわ。だって——」
私も同じでしたもの、という言葉を姫愛は飲み込んだ。それを口にするのはなんとなく気恥ずかしく、それと同時に負けた気分になってしまうから。
「だって?」
「……なんでもありませんわ。それよりも話をするというのなら話題を提供するものではありませんの? あ、だのうーだの言われても理解できませんわ。私、人間ですもの」
「わ、私だって人間だから!」
「当然知ってますわ。そうでないのなら、あなたは猿ということになりますもの。もしくは類人猿?」
「どっちも違うから!」
「だから知ってますわ。そうかりかりしないでください。朝道さん、あなた頭はいいのにバカなんですの?」
「バカじゃないから! 期末の成績は東雲さんより上だったし」
「なっ、あなた今さらそのことを持ち出しますの!」
「だって事実だから」
一学期の期末テストの結果。零音は十一位そして姫愛は十三位だった。わずか二つ、されど二つ。零音の方が順位が上だったのは変えようのない事実だ。
「私はこの学園に来たばかりで——」
「あー、そうやって言い訳するんだ。いいけどね。別にいいけどね。それで東雲さんの心が慰められるなら」
「あなたという人は……性根が悪いことは知ってましたが、そこまでとは思いませんでしたわ。ならいいですわ。次のテストは必ずあなたよりも上の順位を取ってみせますわ!」
「それができるならやってみてよ。私も絶対負けないけどね!」
「私が本気で勉強すればあなたなど一瞬で超えれますわ!」
「でた。いるんだよねー、そう言うこと言う人。絶対超えさせないから」
その後も二人はやいのやいのと言い合いを続け、さきほどまでの静かさが嘘のように騒がしくなるのだった。
そんな二人の様子を見ていた雫はホッと息を吐く。
「あの二人、やっと話始めたみたいね」
「話し始めたというより……喧嘩してるだけな気もしますけど」
めぐみは言い合いを続ける二人を見て心配そうな表情をするが、雫はまったく心配していないようだ。
「全く会話無しなら私も心配したけど、話すってことはそれだけ相手に関心があるってことよ。好きの反対は無関心って言うでしょう? あぁして喧嘩しているうちは大丈夫よ。あとは、二人が素直になれるきっかけでもあればいいんだけど……そればっかりは、二人自身で見つけるしかないわね。私達にできるのは状況づくりまでよ」
「……そうですね」
二人がこの旅行の中で和解できることを、めぐみは離れた位置からひっそり祈るのだった。
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次回投稿は4月8日21時を予定しています。