第21話 零音の追跡 後編
睡眠不足には気を付けたい今日この頃。たまに寝ぼけてよくわからない文章を打ってることがあるのです。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
金髪DQN達を追い払った後、私は少し離れた場所で井上さんのことを見ていることにした。幸い、それから晴彦が来るまでの時間に井上さんに声をかけるような輩は現れなかった。流石にもう一度井上さんの所に行くのはリスクが高すぎるからすごく助かった。
井上さんは約束の三時間前に現れるという驚異の早さだったけど、晴彦も予定の三十分前にはやって来ていた。
うーん、さすがにこの距離だと何を言ってるかは聞こえない。今度から後をつける時には盗聴器でも用意するべきかな。
二人は何事かを話した後に歩き出す。向かう先は図書館のはずだ。……でも、いったい何のために図書館に行くんだろう。
晴彦の悩みと関係あると思うんだけど……まぁ、今はいいか。二人について行けば晴彦の悩みも分かるかもしれない。
そしたら明日の計画は意味がなくなるけど、晴彦の悩みの内容を知るのが優先だ。
「見失わないようにしないと」
人も多いからバレることもないだろうけど、一定の距離は保っているべきだろう。
前を行く二人は楽しそうに話している。井上さんも、思った以上に晴彦に気を許しているみたいだ。
また自分の知らないところで晴彦は何かしてたんだろうか。全く、晴彦にも困ったものだ。それでいつも苦労するのは私なのに。晴彦は知らないだろうけど。
晴彦がそんなだから、中学の時にも——って違う。そうじゃない。今はちゃんと二人の後をついていかないと。
「……ついたみたい」
二人が入って少し時間を空けてから図書館に入る。
二人がどこにいるかわからないし、鉢合わせないように気を付けないと。
図書館の中にもそれなりに人がいる。それに広いから気を付けていればバレるようなこともないと思うけど。
「そういえば、最近新しい本読んでないな」
もともと本は好きだった。元の世界にいた時はそれこそ本の虫って言われるくらいに読んでたりもした。そういう点だと、井上さんと私は似てるところがあるかもしれない。でも、この世界に来てからはたまに時間があるときに買って読むくらいのペースになっているけどね。昔の自分が知ったらきっと驚くだろう。
「って、そうじゃない。二人を探さないと」
それから少し探していると、二人の姿が見えた。
「ここは歴史や地理の本が置いてある場所……だけど、なんでこんなところに」
耳を澄ませていると、二人の会話が漏れ聞こえてくる。
「井上さん、そっちはどう?」
「うん、さっきから伝説とか、そういう本も読んでみたりしてるけど……雨咲学園に伝わる狐の伝説に関係するような本はないかも」
「うーん、学校にも無くて図書館にも無いってどういうことなんだろうな」
狐の伝説? もしかして私が入学式の時に話した学園の伝説だろうか。というか、それ以外には考えられないか。確かにあの伝説は晴彦と関わり深いものではあるだろう。その狐が晴彦に力を与えたんだから。
でもだからって、なんで今になってその伝説について調べようとしてるんだろう。
そういえば、あのゲームの中でも狐の伝説については詳しく語られてなかったっけ。
それが晴彦の悩みと関係があるっていうんだろうか。でもゲームでは悩むことなんてなかったはずなのに。
「どういうこと?」
二人の会話は進む。
「なぁ井上さん、その話に女の子とか出てきたりする? 白髪の女の子」
「女の子? そういうのは聞いたことないけど」
白髪の女の子? 誰だそれは。そんなキャラはいなかったはずなのに。
でもこの感じは間違いなくその白髪の女の子が晴彦の悩みと関係してるとみていいはずだ。
「あ、でも。白髪の女の子については聞いたことあるかも」
「っ!? どんな話?」
「これは伝説とは関係ないと思うけど……」
「いいから!」
井上さんの話は要約するならクラス不明、存在不明の白髪の女の子が存在するというもの。
そういえばクラスの子がそんな話をしてるのを聞いたことがある気がするけど……大した話じゃないと思ってちゃんと聞いてなかったな。
もう少しちゃんと聞いておくべきだったかも。
晴彦はその女の子に会ったんだろうか。
もう少し話を聞いていたかったけど、その前に二人が離れていってしまう。
「ついて行かないと」
二人の後に続こうとした時、不意に角から人が出てきてぶつかってしまう。
「あ、すいませ——っ!?」
「久しぶりだな、朝道」
「風城先生っ!?」
「あまり大きな声を出すなよ。気づかれるぞ」
はっと口を隠す。
よりにもよってこんな場所でこの人と会うなんて。私の危険な人リストに初対面で入れるべきだと判断した人だ。
いや、そういえばこの人は今なんて言った?
「き、気づかれるってどういうことですか?」
「別に隠さなくてもいいさ。朝道が日向達のことを隠れるようにして観察してたのは知ってるからな。なかなか面白かったぞ」
「……」
「あぁ、心配するな。別に彼らに話すつもりはないからな。それよりも私が気になるのは、どうして君がこんなことをしているのかということだ」
何が話すつもりは無いだ。暗に、理由を言わないなら話すぞと言ってるようなものじゃないか。
「……ハル君が井上さんに変なことをしないか心配してるだけです。ハル君の両親から留守の間のことは任されてますから」
「嘘はよくないなぁ」
「……嘘じゃありません」
この目だ。風城先生のこの全てを見透かそうとするような目が私にはどうしても受け入れられない。無遠慮に、私の心を覗こうとしているようで。
「ふむ。初めてあった時から気になっていたんだが……君は何をそんなに恐れている」
「何の話ですか」
恐れている? 私が? 別に私は何も恐れてなんてない。
でも、風城先生の目が。あの目が私を、『オレ』を引きずりだそうとする。
「無自覚か。たちが悪いな君は。自分の心すら嘘で覆い隠しているわけだ」
「だから何の話をっ!」
思わず声を荒らげてしまう。
ハッと晴彦達の方を見る。幸い、こちらに気付いた様子はない。
「……とにかく、私は何も恐れてなんかいません」
「危ういな、君は……まぁ、それでいいならいいさ。だが、後悔するなよ」
「後悔?」
「自分の心にすら正直になれない者に掴めるものなんてありはしないさ」
「……失礼します」
これ以上ここにいたくない。そう思った私は先生に背を向けて歩き出す。
だからこそ、先生が最後に呟いた言葉は私には届かなかった。
「まぁ、せいぜい頑張ることだな。『朝道零音』として」
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先生から逃げるようにして私は図書館の外に来ていた。
まだ、心が落ち着かない。
先生の言ったことが頭から離れない。
「私は自分の心に嘘なんかついてない。晴彦とエンディングを迎えて、元の世界に戻る。そのために必要なことをしてるだけなんだから」
それから少しして、ようやく自分の心を落ち着けることができた。
「そろそろ中に戻らないと……」
その時、パラパラと雨が降り出してくる。
「雨だ」
傘持っててよかった。この雲の様子だとまだまだ降りそうだし。
やっぱり天気予報ってあてにならな……あ。
そういえば晴彦は傘を持ってるんだろうか。晴彦は降水確率が低かったり、家を出る時に雨が降ってなかったら傘を持っていかないことが多い。
だからいつも折りたたみ傘くらい持って行けと言っているけど……今日も持ってない可能性が高い気がする。
「……これで傘を持ってなかったら」
井上さんはおそらく傘を持っている。二人に対して一つの傘しかないなんて状況になったら……間違いなく相合傘になる。
いやいやいや。それはダメだろう。相合傘なんて認められるわけがない。
私だって子供の時にしかしたことな——じゃなく、晴彦が邪な考えを抱かないとも限らないし、井上さんと距離を詰められるのは良くない気がする。それにそのままの流れで井上さんが晴彦の家に行くことになるかもしれない。それは阻止するべきことだ。
「晴彦の傘取りに帰ろう」
目を離すのは不安といえば不安だけど、あの様子ならまだ大丈夫だろうし。なにより風城先生のいるあの空間に少し戻りづらい。
家から図書館までは30分ほどだ。急いで帰ればあの二人が帰るまでに十分間に合うだろう。
それからしばらくして私が図書館に戻ってきた時、入り口に二人の姿が見えた。
「やっぱり傘持ってなかったんだ。はぁ、いつも言ってるのに」
ん? 井上さんが何か言おうとしてる。
直感的にそれを言わせてはいけないと思った私は大きな声で晴彦のことを呼ぶ。
「おーい、ハル君!」
よし、止まった。
私の声は無事に届いたみたいだ。
井上さんは自分の言おうとしていたことを思い返して、顔を真っ赤にしている。
「零音!」
「ハル君、傘持って行ってなかったでしょ」
「いや、そうだけど……なんで知ってるんだよ」
「出かける時に雨降ってなかったら傘持っていかないじゃない」
「そうだけど……いや、正直助かったけどさ」
「だからいつも傘持っていくようにって言ってるのに……井上さんもごめんね。今日はハル君に付き合ってもらったみたいで」
この様子だと朝に私と駅前で会ったことはちゃんと秘密にしてくれてるみたいだ。まぁ、話すような子じゃないのはわかってたけど。
「え、いや……全然大丈夫だよ」
「そういえば井上さん、何か言おうとしてたけど何だったの?」
「あ……ううん。なんでもないよ」
ごめんね井上さん。きっと勇気を出して言おうとしたんだろうけど、言わせるわけにはいかないから。
「それじゃあハル君も井上さんも帰ろっか」
そうして帰路についた私達。
井上さんとは駅前で別れることになった。
「それじゃあ井上さん。今度はハル君じゃなくて私と一緒に遊ぼうね」
「うん、そうだね」
「なんかビミョーに嫌な言い方な気がするのは俺だけか?」
「気のせい気のせい。またね井上さん」
「今日はホント助かったよ。また何かお礼するから」
「私こそあんまり役に立てなくてごめんね。それじゃあ、またね二人とも」
井上さんが行くのを見届けてから私達は歩き出した。
「どうだったの?」
「何が?」
「探し物。見つかった?」
「あー、いや、ダメだった」
「そう」
「…………」
「…………」
そこで会話が途切れ、雨の傘を打つ音だけが響く。
いつもなら話題なんていくらでも思いつくのに。今日はなぜか出てこない。
「ねぇ」
「なぁ」
声が被る。
「何?」
「いや、そっちこそなんだよ」
「ハル君から言ってよ」
「あー、いやさ。いつもありがとな」
「え?」
なんでいきなりお礼なんか。何かしたっけ。
「今朝莉子さんに会ったんだけど。そん時に言われたんだよ。お礼は零音に言ってくれって。そういえば、あんまりちゃんと言ってなかったからさ」
「…………」
「今日のお昼ご飯も美味しかったよ」
……嘘だ。今日のお昼ご飯なんて、晴彦の嫌いなもので作ったのに。
気付いてないはずがない。わざとそういうのを作ったんだって。
「ホントに美味しかった?」
「あぁ、当たり前だろ。ちゃんと全部食べたよ」
これは嘘じゃない。ホントに全部食べたんだ……きっと、時間をかけて、それでも食べてくれたんだ。
「……ふふっ」
「? 何笑ってるんだよ」
「ううん。何でもない。でもそんなに美味しかったんなら、今日の夜ご飯もオクラで作ろっかな」
「うげっ! いや、それはちょっと勘弁してほしいというか」
「ダーメっ!」
零音のストーキング後編でした。
今回でゴールデンウィーク初日の話は終わりです。
次回はゴールデンウィーク二日目。雪や雫も関わる話にする予定です。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
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それではまた次回もよろしくお願いします!
次回投稿は8月29日9時を予定しています。