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第103話 秋穂への言葉

誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 秋穂のための焼肉パーティをした翌日の午後。零音と晴彦は秋穂を送るために空港へとやって来ていた。

 

「うぅ、まだ二日酔いが……さすがに飲み過ぎたわ」

「秋穂ちゃんずいぶん飲んでたものねぇ」

「同じくらい飲んでたはずなのになんで莉子は平気なのよ」

「うふふ~」

「お母さんも秋穂さんも私達がいなくなった後も飲んでたんでしょう? それはさすがに飲み過ぎだよ」

「いくらなんでも嵌め外しすぎだ」

「だってぇ……」

「嬉しかったのよね、秋穂ちゃん。晴彦君からまさかあんなサプライズがあるなんて思ってもなかったものねぇ」

「バッ、違うわよ。別にそれが嬉しかったわけじゃ……ただ最近飲んでなかったからちょっと飲み過ぎちゃっただけで」

「うふふ、そういうことにしておいてあげるわぁ」


 含みを持たせた笑みで莉子は言う。秋穂は顔を少し赤くして否定しているが、どれも説得力の無い言葉ばかりだった。


「ほらほら飛行機の時間が近づいてるわよ」

「あ、ホントだ。もう行かないと」


 なんだかんだと気付けば飛行機の出発の時間が近づいてきていた。


「あ、もう行っちゃうんですか?」

「うん。そろそろ搭乗手続きしないとね」

「……寂しくなっちゃいますね」

「なぁに、嬉しいこと言ってくれるじゃない。あーあ、晴彦もこれくらい可愛げがあったらなぁ……チラッ」

「な、なんだよ」

「べっつにぃ、なんでもないけどぉ」


 なんでもないとは言いつつ、秋穂は意味ありげな視線を晴彦に向ける。


「ハル君、ちゃんと言わないと」

「何をだよ。言うことは昨日ちゃんと言っただろ」

「昨日は昨日、今日は今日だよ」

「なんだよその他所は他所、家は家みたいな言い方」

「秋穂さんだってハル君に何か言って欲しいんだろうし。後で後悔しても知らないよ」

「後悔って言われてもなぁ……」


 これが根性の別れというわけでもないと思ってしまう晴彦だが、そんな言葉では零音が納得しないのはわかり切っている。それに晴彦自身、別に言いたい言葉がないわけではなかった。ただ思春期の男子高校生として少し気恥ずかしい気持ちを持ってしまっているだけで。

 

「ハル君」

「……あぁもう、わかったよ。言うよ、言えばいいんだろ」


 窘めるような零音の声に背中を押されて晴彦は秋穂の前に立つ。親子の語らいを邪魔するまいと零音と莉子は後ろに下がる。


「……どうしたの晴彦。何か言いたいことでもあるのかしら?」

「あー……えっと……俺は大丈夫だから。心配しないでくれ」

「……それだけ?」

「それだけっていうか……父さんにもよろしく言っといてくれっていうのと。昨日も言った気がするけど、あんまり無茶はしないでくれ。これでも一応は心配してんだから」

「ほんっとあんたは素直じゃないよねぇ。あぁやって零音ちゃんに背中押してもらわないとそのくらいのことも言えないんだから」

「うっせ」

「誰に似たんだか。きっとお父さんだね」

「零音は母さんに似てるって言ってるけどな」

「素直じゃない所はあたし似って? あはは、かもね。そんなことないと思ってたけど……もしかしたらそうなのかも。あんたはあたしの子だからね」


 そう言って秋穂は乱暴に晴彦の頭を撫でる。


「うわっ、な、なんだよ!」

「いいから、黙って撫でさせなさい」

「いや意味わかんねぇよ!」

「……あんたもちゃんと成長してんだね。この間まではこーんなに小さかったのに」

「そのサイズだとミジンコじゃねーか! そこまで小さくねーよ!」

「あはは! あんたも零音ちゃんも。すっかり大きくなって。子供だ子供だって思ってたけど……まぁ、すぐに素直になれない所はまだ子供かな」

「余計なお世話だ!」

「まぁあたしからあんたに言うようなことなんてほとんどないけどさ。強いていうなら、ちゃんと勉強しなさいってこととゲームしすぎないようにってことと、お小遣いの無駄遣いをしないようにってことと——」

「けっこうあんじゃねーか」

「言おうと思ったら案外出てくるものね。まぁでも、一番言いたいことは……零音ちゃんのこと、大事にしなさいよ」

「え?」

「あんたみたいなダメ男のこと、ずっと面倒見てくれてるんだから。あんな子、他にいないわよ? 普段からもっと感謝して接しなさい。じゃないといつか愛想尽かされちゃうわよ」

「それはわかってるけど……」

「わかってるだけじゃダメなのよ。女の子は特にね。言葉にしなくても伝わるなんて思っちゃダメ。論外」

「うぐっ」

「あんたが誰とどうなるかなんて自由よ? あたしも強制したりしない。でも、どんな答えを出すとしてもちゃんと向き合いなさい。それが礼儀よ」

「……わかった」

「ならよし。あたしからはそれくらいよ。今度はお父さんも連れて帰って来るわ」

「あんまり父さんに無茶させるなよ」

「わかってるわかってる。大丈夫よ」

「どーだか」

「お話は終わったかしらぁ?」


 晴彦達の話が一段落したと判断した莉子と零音が近づいて来る。


「えぇ。ありがとね二人とも。気を使ってもらっちゃって」

「いえ。せっかくですからちゃんと話さないとですし」

「零音ちゃんはほんとにいい子ねぇ。あたしの嫁にしたいくらい」

「あはは、秋穂さんのお嫁さんにならなってもいいかもしれませんね」

「あらびっくり。あたし達相思相愛? 結婚しちゃう?」

「なにアホなこと言ってんだ。ほら、もう行かないと遅れるんだろ」

「……そうね。もう行きましょうか。それじゃあまたね晴彦、零音ちゃん。それに莉子も」

「秋穂さん」

 荷物を持って歩き出そうとする秋穂のことを零音は呼び止める。そして零音は晴彦達に目配せして、声を合わせて言う。


「「「行ってらっしゃい」」」

「……うん、行ってきます」


 そして零音達は秋穂のことを見送るのだった。


今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

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それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は3月14日21時を予定しています。

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