第99話 朝の一幕
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零音が晴彦の部屋から抜け出した後、零音は何事もなかったかのように晴彦の家へと朝食を作りにやって来ていた。しかし、起きた直後の一件があったせいか零音も晴彦も若干ぎこちなかった。
冷静になってみれば、零音も相当恥ずかしかったのである。
「ご、ご飯入れたよハル君」
「お、おう。ありがと」
「んん~~?」
露骨にぎこちない二人の様子を見て秋穂が訝し気に眉をひそめる。
「二人とも何かあった?」
「「はぇっ?!」」
「な、何かってなんだよ母さん!」
「そ、そそそそうですよ秋穂さん。別に何もありません!」
「いやいや、その反応は絶対何かあったでしょ。なになに? 何があったの? 教えてちょうだいよ」
二人の反応で確実に何かあったことを悟った秋穂はグイグイと零音に詰め寄って聞き出そうとする。もちろん零音は何があったかなど言えるはずもない。しかしこの状態の秋穂が生半可な言葉で納得してくれるとも思えない。
「母さん! 零音が困ってるだろ!」
「じゃああんたが教えてくれるの? 何があったか」
「いや、それは……言えるわけないだろ!」
「なるほど。言えるわけないってことはやっぱり何かあったんだね」
「っ! 嵌められた!?」
「いや勝手に自爆しただけでしょ。まぁでもそうねぇ遅い遅いと思ってたけど、ようやく進展があったのね。長かったわぁ」
しみじみと呟く秋穂。そこには積年の思いのようなものが込められていた。秋穂からすればずっと小さな頃から見守ってきた二人なのだ。進展があったと聞いて嬉しくないはずがない。
「晴彦もとうとう大人の階段をのぼったのね」
「っっっ!!! ちが、違いますから! 秋穂さんが想像してるようなことはまだありません!」
「まだ、なのね。それじゃあ今後は期待してもいいのかしら?」
「はえぁっ?!」
喋れば喋るほどにボロが出る。ドツボにハマるとはまさにこのことだ。
「母さん。もうその辺にしといてくれって」
「ふふ、はいはい。わかったわよ。ごめんね零音ちゃん。からかっちゃって」
「もう、意地悪ですよ秋穂さぁん」
「だって二人があんまりに初々しい雰囲気を出してるんだもの。お父さんと付き合い始めた頃を思い出したわぁ。そろそろあの人の顔も見たくなってきたわね」
「あ、そういえばもう少しでお休み終わりなんですよね」
「えぇ。奇跡的にもらえた長期休暇も残すところあと僅か。そしたらまた仕事仕事の日々へ逆戻りよ」
「大変ですね……」
「えぇ大変よ。零音ちゃんも大人になればわかるわ。あ、でも零音ちゃんは莉子みたいに永久就職希望かしら?」
「それは、別にそんなことは……それは状況に合わせて決めていけたらなぁと」
「へぇ……ですって晴彦」
「なんで俺に言うんだよ!」
「べっつにぃ、他意はないわよ」
「嘘吐け!」
言い合う親子を尻目に、零音は巻き込まれないようにご飯の準備を進める。親の直感というものはすさまじいとあらためて知らしめられた零音なのであった。
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朝食を食べ、一段落着いた後零音は晴彦と一緒に夏休みの宿題をしていた。旅行前に終わらせられる物は終わらせておく、そう決めたからだ。零音自身は一人でも宿題を進めるが晴彦はそうではない。毎年夏休みが終わるギリギリまで放置し、零音に泣きつくことになるのだ。今年はそうならないよう、口で言うだけではなく一緒にすることにしたのだ。
「ふぁ……ねむ……」
「ダメだよハル君。ちゃんとしないと。今日は数学の宿題終わらせるって約束したでしょ」
「そうだけど……零音はあと何ページなんだ?」
「三ページ」
「早くねっ!?」
「私が早いんじゃなくて、ハル君が遅いの。毎日やってたらこんなもんだよ。内容だって特別難しいものじゃないし。一学期の復習だけ。これも元をただせばハル君が普段から真面目に勉強してないから——ってちょっと聞いてる?」
「きーてるきーてる」
「絶対聞いてないじゃん。わかった、ハル君がそういう態度ならこっちにも考えがあるよ」
「考え?」
「宿題見せてあげない」
「はっ?!」
「どうせハル君、ピンチになったら私が見せてくれるとか考えてたでしょ。うん、今までの私ならそうしてたよ。ハル君が宿題提出できなくて怒られるのは嫌だからって。でもね、私も反省しました。私が甘やかしてたからハル君が宿題しなくなったんじゃないかって。だから、絶対に見せてあげません」
「そ、そんな……」
「やっぱり私の宿題見せてもらうつもりだったんじゃん! もうホントに見せてあげないからね。その代わりじゃないけど、問題解く手伝いはしてあげるから。ほら、頑張って」
「頑張るしかないのかぁ」
「今日はちょっとした買い物にも行きたいし。頑張ってハル君」
「買い物って、夜ご飯の買い出しか?」
「違わなくはないんだけど……ほら、前に言ったでしょ。秋穂さんもうすぐ仕事に戻っちゃうから最後にパーティみたいなことしようと思って。ちょっと豪華なご飯を作りたいの」
「別にそんなことしなくても……」
「ダーメ。次いつご飯を一緒に食べれるかわからないんだよ。だからほら、あとちょっとだけ頑張ろ。ハル君の好きな物作ってあげるから」
「俺は子供かっ!」
とはいいつつも零音のその言葉に少しだけやる気が出た晴彦はしばらくの間勉強を頑張り続けるのだった。
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次回投稿は2月29日21時を予定しています。