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第96話 二人の帰り道

誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 零音が姫愛を連れて雫達と合流してから時間は過ぎ、零音は一人家へと帰っていた。途中までは雫達も一緒だったのだが、駅で解散したのだ。

 日暮れの太陽に照らされる道を歩きながら、零音は雫から言われたことを考えていた。


「心の底から楽しめる旅行……そのために東雲さんとの関係を改善する……か。口で言うのは簡単だけど……難しいよね」


 小さくため息を吐く零音。そう、口で言うのは簡単なのだ。しかしそれは零音からすれば何よりも難しい問題だった。喧嘩した友達に謝ってはい終わり、ではないのだ。零音と姫愛の間にある溝は想像以上に深く大きい。


「ううん、でも、それでもやらないと。私がまいた種なんだから」


 グッと手を握りしめて決意を呟いてみても、心の中に浮かんだ不安は消えない。いっそ姫愛のことを嫌ってしまえたらどれだけ楽だろうと心の奥底で訴える自分がいる。

 そんな時だった。不意に零音は後ろから声をかけられる。


「……零音?」

「え? って、えぇ!? ハル君!? なんで、どうしてここに?」

「なんでって、家に帰ってる途中だからなんだけど。先輩達と出かけてた帰りか?」

「う、うん。そうだよ。ハル君も?」

「あぁそうだよ。俺もちょうど帰りだ。あんまり遅くなると誰かさんに怒られるからな」

「ちょっと、何その言い方」

「なんだよ、俺は別に零音のことなんて言ってないぞ。自覚でもあるのか?」

「もーっ! もーっ!!」

「あはは、悪い、悪かったって。そんなに怒るなよ」

「あんまり意地悪なこと言うと夜ご飯ハル君の嫌いな物ばっかりにするからね」

「それは勘弁してくれ。まぁ零音が作ったものならなんでも食べるけどさ」

「嫌いなものでも?」

「もちろん。作ってもらってる側なのに文句言えないからな」

「ふふ、殊勝だね。そう言ってくれるなら美味しいって言ってくれるように頑張って作ろうかな」


 不思議なもので、晴彦と一緒に話しているだけで零音の心の中に澱のように溜まっていた不安感が溶けるように消えていくのを感じていた。

 晴彦の隣にいるだけで、晴彦が隣に居てくれるだけで零音はなんでもできそうな、そんな気すらしていた。

 こうして隣にいて、他愛のない話をしているだけでも晴彦への想いが溢れそうになる。晴彦のことが心から好きなのだと再認識できる。

 

「あ、そうだハル君。今度皆で旅行に行くでしょ?」

「あぁ。今日はそのための買い物に行ってたんだろ」

「うん。そうなんだけど。実は今日そこで東雲さんにあったの」

「姫愛に?」

「それで、その時に東雲さんの親戚の子達も一緒にいて。雷華ちゃんと雷茅ちゃんって言うんだけど——」

「え、ちょっと待った」

「どうしたの?」

「今なんて言った? 雷華ちゃんと雷茅ちゃん?」

「うん、そうだよ。小さくて可愛い双子の女の子だった」

「小さくて可愛い女の子で雷華と雷茅……間違いないよな。あいつら最近よくどっか行くと思ったら何やってんだ……」


 最近晴彦のもとに現れたり消えたりを繰り返していた雷華と雷茅。晴彦はその所在を思いもよらぬ形で知ることになった。何かしているだろうとは考えていたが、まさか姫愛の所に行っているなどとは想像もしていなかった。そして何がどうなれば雷華と雷茅が姫愛の親戚ということになるのか。晴彦にはわからないことだらけだった。


「ハル君?」

「あぁいや、ごめん。なんでもない。それで、それがどうかしたのか?」

「雷華ちゃん達に海に行くって話をしたら一緒に行きたいって言い出して。東雲さんも一緒ならって条件で一緒に行くことになったんだ。だから海に行く人が三人増えたことになるね」

「マジか」

「うん。マジだよ」

「えっと……俺が言うことじゃないけど、いいのか? その……姫愛のこととかさ」

「……うん。ハル君の言いたいことはわかるよ。でも……いつまでも過去から逃げてるわけにはいかないから。私のしちゃったことだから、私がちゃんと終わらせないと」

「……そうか」


 零音が零音なりに過去を受け入れて前に進もうとしているのだということを晴彦は理解した。それだけに雷華と雷茅が何を考えているのかわからなくて不安になるのだが。


「それじゃあ、頑張ろうとしてる零音に俺から送りものだ」

「え?」


 そう言って晴彦が差し出したのは小さな袋。それは弥美と一緒に居た時に零音に買っておいた物だった。

 急にそんなものを渡された零音は目を丸くしていた。驚きと嬉しさで上手く言葉も出てこない。


「こ、これ……開けてもいい?」

「もちろん。零音にあげたもんだしな。好きにしてくれ。ただセンスとかはあんまり信用しないでくれよ。自信ないから」


 零音はゆっくりと袋を開き、中に入っていた物を取り出す。それは小さな髪留め。夏らしい淡い青色の装飾が施された髪留めだった。キラキラと輝く装飾が零音の目を引く。


「綺麗……」

「気に入ってくれたか?」

「うん……うんっ!」


 零音はプレゼントされた髪留めを大事そうに抱える。


「ありがとね、ハル君っ! ずっと、ずっと大事にするから!」

「そんな大層なもんでもないんだけどな……まぁ、喜んでくれたならよかったよ」


 晴彦はそう言って照れくさそうに笑い、零音は心の底から嬉しそうな笑顔を浮かべるのだった。


今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

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それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は2月19日21時を予定しています。

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