第94話 雷華と雷茅の狙い
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周囲の喧騒から切り離されたように零音と姫愛は固まっていた。まさかこんな所で出会うとは夢にも思っていなかったからだ。
零音が雷華を連れて迷子センターにやって来たのはもしかしたら雷華の家族も探しに来ているかもしれないと思ったからだ。
「東雲さん……久しぶり……だね。終業式以来かな」
「え、えぇ……そうですわね」
どこかぎこちなく会話を交わす二人。しかし零音はふと姫愛の隣にいる少女が雷華と非常に似ていることに気づく。
「その子!」
「え? 雷茅さんがどうかしましたの……って、あなたの隣にいるのは雷華さんじゃありませんか!」
零音はまさかの事態に驚きを隠せない。まさか雷華の探し人が姫愛と共にいるなど想像もしていなかったからだ。そしてそれは姫愛も同じだった。雷華を探して迷子センターにやってきたら、零音と遭遇しただけでなく雷華まで一緒だったのだから。
「雷華ちゃん、一緒に来たのって……あの東雲さん?」
「ん、間違いない」
驚き、ぎこちなくなっている零音と姫愛とは対照的に雷華と雷茅はどこまでもマイペースだった。二人は握っていた手を離すと、一目散にお互いに走り寄る。
「雷茅」
「雷華」
「心配しました。どこにいったのかと」
「心配しました。どこに消えたのかと」
無表情のままひしっと抱き合う二人。普通であれば見つかって良かったと安堵する所なのだが、衝撃的なことが起こり過ぎて零音の心境はぐちゃぐちゃだった。
「えーと……良かった……うん、良かったね」
「え、えぇ。そうですわね。こうして見つかったのですもの。喜ぶべきことですわ」
「ん、」
「二人には、」
「感謝している」
「うわぁ……二人揃うとどっちがどっちだか……えと、雷華ちゃん?」
「違う、」
「私は雷茅」
「一緒に喋られるとわからないよ!?」
雷華と雷茅は二人揃ったことでいつものペースを取り戻したのか、二人一緒に話し始める。
「東雲さんこれいつもなの?」
「えぇ。最初は戸惑いましたけど、慣れれば普通に話せますわ」
「そうなんだ……見分けはつくの?」
「申し訳ないですけど、私も見分けはつきませんわ。髪型に変化でも持たせたらわかるのでしょうけど」
「二人は髪型は弄りたくないの? 変化持たせたらわかりやすくなるし、もっと可愛くなるんじゃないかなって思うんだけど」
「私は、」
「別に弄りたくは、」
「「…………」」
「どうしたの?」
「少し待って欲しい」
「待って欲しい」
雷華と雷茅は少しだけ互いの顔を見合わせると目を閉じて額を付き合わせる。しばらくして目を開けると、二人は何事もなかったかのようにスンとした表情で零音に向き直る。
「もう問題ない、」
「これで大丈夫」
「えーと……どういうこと?」
「少し一人でいたから、」
「意思疎通に問題が起きただけ」
「よくわからないけど……」
「私達の問題だから、」
「気にすることはない」
些細な意思の違い。それは本当に小さな意思の齟齬だったが、確かな歪みだった。それが今後にどう影響してくるのかこの時の二人はまだ気づいていなかった。
「髪型に関しては、」
「善処するとだけ言っておく」
「そ、そう……この二人っていつもこんな感じなの?」
「えぇそうですわね。何度も言いますけど、慣れれば慣れるものですわ」
「ユニークな親戚の子だね。よく一緒にいるの?」
「え、親戚? なんのことで——」
「そう、」
「姫愛お姉ちゃんには、」
「いつもお世話になってる」
姫愛の言葉に割り込むようにして雷華と雷茅が発現する。それで姫愛はなんとなく、雷華が零音にどういう説明をしているのかを理解した。
「……えぇそうですわね。この子はよく家に遊びに来ますの。今は夏休みということで私の家に遊びに来てますの」
「そうなんだ」
「私達は、」
「あなたに会いたいと思っていた」
「え、私に? でもそんなこと雷華ちゃん言わなかったけど……それにどうして私のこと知ってるの?」
「あの時は、」
「それどころではなかったから、」
「あなたの話は、」
「姫愛お姉ちゃんから聞いた」
「東雲さんから?」
「が、学園でのことを話した時に興味を持たれたのですわ」
「そう……なんだ」
「今日は何をしに、」
「ここに来たの?」
「今日ここに来たのは水着を買いに来たからだけど」
「水着、」
「誰かと海にでも行くの?」
雷華と雷茅は知っていながら、会話を誘導するように話す。姫愛は二人が何をしようとしているのかわからず、怪訝そうな顔をするしかない。
「うん。学園の友達とね。今度海に旅行に行くの」
「それは羨ましい、」
「私達も行きたい」
「えぇ!? そう言われてもなぁ……」
雷華と雷茅にそうねだられる零音だが、こればかりは零音の一存で決めれることでもない。しかし雷華と雷茅の子供の純粋な瞳で見つめられると、どうにもはっきり断ることもしずらかった。
「ダメなの?」
「の?」
「いやその、ダメっていうか……」
「ダメですわよ二人とも、零音さんを困らせるようなことを言っては」
「でも、」
「私達は海に行ったことが無い」
「それなら私が連れていって差し上げますから……」
「私は、」
「零音とも一緒に行きたい」
そう言って雷華が零音の手をギュッと握る。それでも断ることはできたが、そこで不意に零音の脳裏に占い師の言葉が蘇る。
(過去は私を逃がさない……過去ってもしかして、東雲さんのことなのかな。だとしたら私は……)
「……わかった」
「朝道さん!?」
「約束はできないけど、みんなに聞くことはできるから。後で聞いてあげる。もしいいよって言われたら。東雲さんも……一緒に行かない?」
「あなたは……」
乗り越えるべき過去。目を逸らしてはいけない過去。その一つが姫愛のことだと思った零音は、思い切って姫愛のことを海に誘う。それこそが雷華と雷茅の狙いであることにも気づかずに。そうなれば後は姫愛の気持ちだけだ。
雷華と雷茅の本当の狙いがわかった姫愛は、軽く嘆息しながら頷く。
「わかりましたわ」
姫愛にもある種予感めいたものがあった。このチャンスを逃せば、きっと前に進めなくなるという予感が。だからこそ、残された答えは一つしかなかった。
「もし許可が取れたのであれば、私も同行しますわ」
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次回投稿は2月12日21時を予定しています。




