第93話 手を繋ぐ温もり
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
アイスクリームを食べ終えた零音と雷華は、再び雷華の家族を探していたのだが……。
「ねぇ、零音。あれは何?」
「あぁ、あれはクレープって言って薄く焼いた生地にバナナとか生クリームとか乗せたりして食べるの」
「あれは?」
「あれはたこ焼きだよ。大阪の名物なんだけど、文字通りタコが入った食べ物だよ」
「あっちは?」
「……ベビーカステラって言ってね。カステラみたいな生地を球みたいにして焼いたお菓子だよっていうかさっきから食べ物ばっかりだね」
「探求心ゆえに」
「食欲ゆえにじゃないかなぁ」
そんなことを続けているうちに、気付けば零音と雷華の手には多くの食べ物が握られていた。雷華の様子を見ていると良くないとわかりつつもついつい買い与えてしまうのだ。
「もうそのベビーカステラで終わりね。早く探さないと、向こうも探してるだろうし」
「むぅ、わかった。そもそも私はお金を払っている立場ではない。零音がそう言うのであれば私に拒否権はない」
「そんな難しい物言いしなくても……というか、まだ食べれるの? 結構食べてるけど」
「ん、問題ない。私のお腹にはまだ余裕がある」
「すごいね。私なんかもう見てるだけで胸焼けしそうっていうか。ちょっと羨ましいな」
最初のうちには雷華に付き合って食べていた零音だったが、途中からは流石に食べなくなった。零音よりも小さな体なのに、どこに入っているのだろうと思わず首を傾げてしまう。
「さ、それじゃあ今度こそ行くよ。はい」
立ち上がった零音は雷華に向かって手を差し出す。それを見て首を傾げる雷華。
「?」
「手繋ごう。これだけ人が多いわけだし。私達まではぐれちゃったらダメでしょ」
「……ん、わかった」
少しの沈黙の後、雷華は零音の手を握る。
「それにね、私じゃ雷華ちゃんの家族の代わりにはならないかもしれないけど。人の温もりって、不安な気持ちを和らげてくれるものなんだよ」
「……確かに、そうかもしれない」
「でしょ?」
「零音の手、温かいね」
「そう言ってくれると嬉しいな。それじゃあ行こっか」
「ん」
零音は優しく笑うと先導して歩き出す。雷華はそれについて歩きながら、繋がれたままの手をジッと見つめていた。
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一方その頃、姫愛と雷茅も雷華のことを探していた。
「見つかりませんわね。やはり迷子センターの方に行った方が良いのでは?」
「……それは無い。雷華の性格的に迷子センターには絶対行かない」
「どうしてわかりますの?」
「私なら行かないから。私と雷華は二人で一つだもの。考えてることくらいわかる」
「まぁ、さすが双子ですわね」
雷華とはぐれてしまったのは不運な事故が原因だった。雷華と雷茅に連れられてショッピングモール内を歩いていた時に集団客の波に飲み込まれ、あれよあれよという間に雷華の姿が見えなくなったのだ。幸い遠くはぐれなかった姫愛と雷茅はすぐに再会し、元居た場所に戻ったのだがそこに雷華の姿は無く。こうして探すことになってしまったのだ。
「…………」
「心配ですわよね」
「? なぜ?」
「顔に出てますわ。お二人ともずっと一緒でしたもの。心配して当然ですわ。ましてやお二人とも愛らしいですもの。もし良からぬことを考える人がいたら——っと、こんなことは言うべきではありませんわね。申し訳ありません」
「別にいい。可能性は多く考慮しておくべきだもの」
そうは言いつつも、雷茅は無表情の中にも少しだけ不安気な色を宿していた。そんな雷茅を見た姫愛は安心させるように笑顔を浮かべて言う。
「大丈夫ですわ」
「え?」
「この東雲姫愛が、持てる全力を尽くして雷華さんのことを探します。ですから雷茅さんも大船に乗ったつもりでいてくださいまし」
「……ん、そうする」
「さぁ、それでは探しに行きましょう。お手をどうぞ」
「?」
「私などでは雷華さんの代わりにはなりませんが、人の温もりというのは確かに不安を和らげてくれるものですわ」
「……ん、ありがとう」
おずおずと、少しだけ恥ずかしそうにしながら雷茅は姫愛の手を握る。姫愛の言う通り、少しだけ雷華のいない不安が和らいだような気がした。
「どうですか?」
「どう……と言われても困る」
「ふふ、そうですわね。ちなみに、先ほどの言葉は昔私が言われた言葉ですわ。転校してきて、一人だった私に声を掛けてくれた人の……」
少しだけ過去を懐かしむような表情をした姫愛は、頭を振りかぶると雷茅を連れて歩き始める。
「どこに行くの?」
「とりあえずは迷子センターですわね。雷茅さんの言う通り、迷子センターには行ってないかもしれませんが放送をかけてもらうことはできたはずですわ。そこで雷華さんの特徴を伝えて探してもらいましょう。雷華さんも聞いているかもしれないですし」
「なるほど。その考えは無かった」
「できることからしておきましょう。取れる手段は一つでも多い方が良いですわ。いよいよとなれば東雲家の人員を総動員してでも見つけ出して見せますけれど」
「それは流石に大がかりすぎる」
「それで雷華さんが見つかるのなら安いものですわ」
使用人を多く雇う東雲家ならではの解決方法を提示しつつ、二人は迷子センターへと向かう。
「あ、見つけましたわ。あそこが迷子センターですわね……え?」
「あ、雷華ちゃん。あったよ。あそこが迷子センターで……って、え?」
「朝道……さん?」
「東雲さん……」
なんの偶然か、なんの運命か。多くの人が行きかう中、二人は出会うのだった。
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次回投稿は2月8日21時を予定しています。