第19話 狐の伝説を調べよう 後編
オチって難しい。いつもいつもそう思うのです。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
そもそも、なぜ俺が井上さんと図書館に来ているのかというと、この間放課後に一緒に図書室に来てもらったのがきっかけだった。
狐の伝説について調べたいと思った俺は、井上さんに協力してもらって本を探すことにした。
俺はまだこの学園に来てから図書室を使ったことがなかったし、一人より二人の方が早いと思ったからだ。理由を素直に伝えるわけにはいかないからぼかしたけどさ。
しかし。学園の図書館では目的の本は見つからなかった。司書さんに聞いても、狐の伝説に関わるような本はないと言われた。でも、その時に司書さんが雨咲市の図書館になら探してる本があるかもしれないと教えてくれたのだ。
それでその時一緒にいた井上さんが一緒に来てくれると言うので、頼んだわけだ。井上さんの提案はこっちとしてもありがたいものだったし。
そんなわけでこのゴールデンウィーク初日、俺は図書館にやって来ているわけなんだけど……。
「見つからねぇ」
図書館に着いてからすでに一時間ほど経っているけど、なかなか見つからない。
このあたりの歴史について書いてある本は見つかったりしたけど、その中に目的の記述は見つからなかった。
「井上さん、そっちはどう?」
「うん、さっきから伝説とか、そういう本も読んでみたりしてるけど……雨咲学園に伝わる狐の伝説に関係するような本はないかも」
「うーん、学校にも無くて図書館にも無いってどういうことなんだろうな」
「そうだね。でも、狐の伝説なら私も昔聞いたことあるんだけど……どこで聞いたんだっけ?」
「俺は零音から聞くまで全然知らなかったけどな。そんなに有名だったんだ」
「ゆ、有名だって言ってもたぶん女の子の間でだけだと思うけどね」
この間まで雨咲学園の伝説なんて聞いたこともなかったしな。っていうか、学園外にまで伝わる伝説ってすごいと思うんだけど。普通そういう伝説とか七不思議みたいな奴って学園内でだけで収まるような気がするんだけど。
「ちなみに、井上さんの聞いてる伝説ってどんな感じなの?」
「私が聞いたのは、天気雨の日にお狐様の像を見つけてお願いすると、そのお願いが叶うって話だよ」
「でも、学園にはそんな狐の像はないんだよな」
「そうだよ」
零音から聞いた話とほとんど同じだ。やっぱり大きな違いみたいなのはないのかな。あ、でもそうだ、零音から聞いた話には夜野みたいな女の子の話はいなかったけど、どうなんだろうか。
「なぁ井上さん、その話に女の子とか出てきたりする? 白髪の女の子」
「女の子? そういうのは聞いたことないけど……」
「うーんやっぱりそうか」
「あ、でも。白髪の女の子については聞いたことあるかも」
「っ!? どんな話?」
「これは狐の伝説とは関係ないと思うけど……」
「いいから!」
「う、うん。私が聞いたのはね、学園に白髪の女の子がいるんだけど、誰もその子のクラスを知らなくて、そもそも先生はそんな子はいないって言ってるらしくて……でもね、その女の子を見たって人が絶えないの。私は見たことないんだけど……」
「……その子って何かしたりするの?」
「ううん。特になにかされたって話はきかないけど」
その白髪の女の子、俺が探してる夜野である可能性が高い気がする。というか、そうだと思っていいだろう。
「どこで見つかるかとかわかる?」
「それは知らないけど……どうしてそんなに気になるの?」
「いや、ちょっと気になっただけだよ。ごめん」
「あ、べ、別に謝らなくてもいいよ、ごめんね。変なこと聞いちゃって」
少しがっつき過ぎたかもしれない。これで井上さんを怖がらせたら意味がない。
「少し休もっか。もう長い時間探して疲れてるだろうし」
「そうだね」
俺もいったん休んで気持ちを落ち着けよう。
俺達は近くの椅子に座った。
ふぅ、いつもは漫画とかしか読まないし、文字ばっかりの本を読んだのは久しぶりな気がする。
「井上さんはいつも本を読んでるけど、どんな本読んでるの?」
「私は……いつもはミステリーとか、恋愛とか……なんでも読んでるよ」
「本好きなんだね」
「うん」
「俺はあんまり本読んだりしないからさ。本は嫌いじゃないんだけど」
「わ、私、友達がいないから。グズだし、人と喋るの得意じゃないし。気づいたらずっと本読んでる生活になっちゃっただけだよ」
「友達いないって、今はそうじゃないだろ?」
「え?」
「零音は井上さんのこと友達だって言ってたし、俺だって井上さんのこと友達だと思ってるけど……迷惑かな?」
「そ、そんなこと……でも」
「雪さんだって、友澤だって井上さんの友達だよ。だから、友達がいないなんて言わないで欲しい。それに喋るのが得意じゃないって言うけどさ、今俺と普通に話せてるだろ?」
「あ……う、うん」
井上さんが顔を赤くして俯く。さすがに今のはちょっとカッコつけすぎたかも。
でもまぁ嘘ついたわけじゃないし勘弁してもらいたい。
ふと気になって井上さんの好感度に目を向けると前よりも上がって『55』になっていた。
やっぱり井上さんは他の人よりも好感度が上がりやすいみたいだ。
「また井上さんのおすすめの本があったら教えてよ」
「う、うん。いいよ」
うーん、それにしてもこれからどうしようかな。この図書館にもめぼしい本がないとすると、いよいよ探すための手掛かりがない気がする。
今回のことで何か進展があるかと思ったけど、結局何かがわかったわけでもないし。何も解決していないままだ。
卒業までに彼女ができないと殺される。荒唐無稽だと笑い飛ばしたいけど、夜野の言葉には真実味があった。
「おや、そこにいるの日向じゃないか」
「え?——風城先生!?」
突然声を掛けてきたのは学園の保険医である風城先生だった。
今日は白衣ではなく普通の私服姿だ。
「おいおい、日向。図書館で大きい声を出すのは感心しないぞ」
「あ、すいません」
「今日はどうしたんだ? そっちの子は……彼女か」
「違います! この子はクラスメイトの井上さんです」
思わず大きな声が出そうになるが、なんか押しとどめる。
「い、井上めぐみです」
「保険医の風城彩音だ。うんいいな。君、なかなかにそそる顔をしている。好みだぞ」
「えぇ!!」
「大きな声を出すなと言ってるだろう」
「あ、ご、ごめんなさい」
「それにしても日向、お前は妙に女と縁があるんだな。朝道といい、夕森といい。それも私好みの可愛い子ばかりだ」
「何言ってるんですか」
「そんなに可愛い子ばかりと縁を持って、いつか刺されないように気をつけろよ」
「……変なこと言わないでください」
今は状況が状況なだけにありえないと言えないのが怖い。笑い飛ばせたらどれだけらくだろうか。
「まぁなんだ。そうなる前に彼女作るんだな」
「余計なお世話です。先生こそ何してるんですか」
「図書館に来てすることなんて一つだろう。本を読みにきたんだよ」
そう言って先生は手に持った本をひらひらと降る。
「意外か? 私だって本くらい読むさ。日向達こそなぜここに? テスト勉強にはまだ早いだろう」
「ちょっと探したい本があったんですけど。見つからなくて」
「ほう。どんな本だ?」
「雨咲の学園に伝わる狐の伝説って知ってますか?」
「あぁ、知ってるさ。私が学生だった頃から有名だからな」
「え、先生って学園の卒業生だったんですか?」
「そうだぞ。それで、その狐の伝説がどうかしたのか?」
「少し興味があったんで調べようと思ったんですけど、資料が見つからなくて」
「そうか。残念だったな」
「もう少ししたらまた探そうと思います」
「さっきから雨が降り始めてる。本格的にひどくなる前に帰るんだな。それで風邪を引いたらせっかくのゴールデンウィークが台無しだからな」
「え、ホントですか。全然気づかなかった」
まだ降らないだろうと思ってたから傘持ってきてないし。どうやって帰ろうかな。
「日向」
「何か?」
「……いや、やっぱりいい。気を付けて帰れよ。井上もな」
「はい」
「わ、わかりました」
それだけ言い残して、先生は俺達から離れていく。
まさかここで先生と会うとは思わなかった。
「どうしようか? 井上さんが大丈夫ならもう少し探したいんだけど」
「う、うん。いいよ。探そっか」
それからしばらく、狐に関わるような本を探したけど結局見つからなかった。
さすがに雨も強くなってきたし、これ以上は井上さんにも迷惑だろう。
「井上さん、雨もひどくなってきたし、そろそろ帰ろう」
「そうだね」
「でも、見つけられなかったな」
「ごめんね、あんまり役に立てなくて」
「いや、助かったよ。俺一人だったらもっと時間かかってただろうし」
実際、井上さんがいなかったら本を探す気にもならなかっただろうし。
図書館の入り口まで着くと、思った以上に雨が強くなってるのがわかった。
うげ、さすがにこの雨の中を傘なしで帰るのはしんどそうだな。
「うわ、すごい雨だね」
「ホント、どうしよっかな。大丈夫だと思ってたから傘持ってないし……走って帰るか」
「あ、あの!」
井上さんが顔を真っ赤にしながら声を掛けてくる。
「どうかした?」
「あ、あのね、もしよかったら私の傘に——」
「おーい、ハル君!」
何かを言いかけた井上さんを遮るようにして遠くから誰が声を掛けてくる。
あれは、
「零音!」
「ハル君、傘持って行ってなかったでしょ」
「いや、そうだけど……なんで知ってるんだよ」
「出かける時に雨降ってなかったら傘持っていかないじゃない」
「そうだけど……いや、正直助かったけどさ」
「だからいつも傘持ってくようにって言ってるのに……井上さんもごめんね。今日はハル君に付き合ってもらったみたいで」
「え、いや……全然大丈夫だよ」
「そういえば井上さん、何か言おうとしてたけど何だったの?」
「あ……ううん。なんでもないよ」
「それじゃあハル君も井上さんも帰ろっか」
「あぁ」
「う、うん。そうだね」
「そういえば井上さん、ハル君何か失礼なこととかしなかった?」
「そんなこと全然、むしろ……」
「失礼なことってなんだよ、するわけないだろ」
「ふーん……まぁ、それならいいけどね」
まぁ、零音が高校生になってからできた友達の一人だから心配するのはわかるけど……そこまで警戒しなくてもいいだろうに。俺をなんだと思ってるんだ。
「あ、そういえば井上さん、今度ね——」
零音と井上さんが俺の前を歩きながら話している。
あれ、そういえばなんで零音は俺が帰る時間がわかったんだろう。今日は特に時間も伝えてなかったはずなのに。
まぁ、偶然か。たまたま持ってきた時間と被っただけだろ。
それよりも、夜野をどうやって見つけるかまた一から考え直さないとな。
ふと頭によぎった疑問を隅に置いて、俺はこれからどうするかについて考えるのだった。
いわゆるチョロインな井上さん、そして風城先生再びという回でした。
もっと井上さんとの絡みを増やしても良かったかもしれないですね。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
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それではまた次回もよろしくお願いします!
次回投稿は8月27日9時を予定しています。