第87話 占い 雫編
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
雪の次に占い師の元へとやってきたのは雫だった。占い師は部屋の中へとやってきた雫のことを楽しそうに迎え入れる。
「やぁ、次は君かい? さぁどうぞ座って」
「…………」
「どうかした?」
「雪がずいぶんと不機嫌な表情で戻ってきたものだから。あなたが何か言ったんじゃないかって思ったのよ」
「あははっ! 可笑しなことを言うね。私は占い師だよ? 占った結果を彼女に伝えただけさ」
「本当にそれだけ?」
「もちろん。占いの結果が気に入らないものだと不機嫌になる子もいるのさ。彼女もきっとそうだったんだろうね」
「……どうかしら」
「なんであれ、君もここに来たってことは占いに来たんだろう? だったら彼女のことは今は置いておこう」
「……そうね。今は雪のことは置いておきましょう。私も占いに興味があることは事実だし」
「ふふ、どうぞどうぞ~」
フードを目深に被っているせいで表情は見えない占い師だが、はっきりそれとわかる楽し気な表情をしながら雫に座るように促す。雫は疑う様な表情をしながらも促されるままに椅子に座る。
「はは、そんなに警戒しないでよ。信頼関係って大事だよ?」
「初対面の人のことを信頼するほど軽い人間じゃないわ」
「これは手厳しい。ま、それはそれでいいけどね。疑ってくれるのも私に興味があるからだしね。一番困るのは無関心さ。自分に対して無関心な人間に興味を持たせるのはそう簡単なことじゃない疑われているだけならやりようはいくらでもあるからね」
「よく喋るわね」
「無口でいる理由もないだろう? 君の話も聞かせて欲しいな。君の情報も知りたいんだ」
「私から何か話すようなことはないわ。知りたいなら質問してみればいいじゃない」
「うーん、そうだな。それじゃあ……君の名前は?」
「昼ヶ谷雫。16歳よ」
「へぇ16歳なんだ。思ったより若いね」
「老けてるっていいたのかしら?」
「大人びてるって言いたいんだよ。言われたりしない?」
「……まぁ、なくもないわ」
「だろうねー。ちなみに私は現代文が一番の得意教科だったんだけどさ、君の得意教科は?」
「特にないわ。強いて言うなら全部かしら」
「全部!? へぇ、それはそれは。相当優秀だね。いいなー。私も学生時代に言ってみたかったよ。「得意教科は?」「全部よ」ってね」
「茶化さないで」
「別に茶化してるつもりはないって。これも私の本心だからさ」
「それよりも占いは始めないのかしら? まだ後二人いるから早く終わらせたいのだけど」
「はは、冷たいなー。でもそうだね。待たせるのもよくない。占いを始めようか」
占い師はそう言って雪の時と同様に水晶を取り出して机の上に置く。
「さぁこの水晶に君の意識を集中させて。この水晶が、君の過去と未来を映し出す」
「過去と未来……」
「そうそう。その調子。だんだん見えてきたよー。それじゃあいくつか質問するから答えてね」
「えぇ、わかったわ」
「それじゃあまず一つ目、家族のことは好き?」
「……いいえ」
「ふーん。それじゃあ二つ目、好きな人はいる?」
「……えぇ」
「青春だねー。いいことだ。それじゃあ最後の質問、自分のことは好き?」
「……嫌いよ。大嫌い、でも……今は昔より好きになることができそうだわ」
「なるほどね……うん。視えたよ。君の過去と未来が」
「聞かせてもらおうかしら」
「君の人生のターニングポイントは……四つだね。これまでに二つのターニングポイントを経験してる。覚えはあるかな?」
「一つは……」
言うまでもなく、ターニングポイントの一つは『昼ヶ谷雫』になったことだ。しかしもう一つについて雫には覚えがなかった。
「もう一つは何かしら?」
「お母さん」
「っ!?」
「当たりかな。君のお母さんは……」
「黙りなさい!」
「ふふ、ごめんごめん」
突如声を荒らげる雫。しかし、占い師はどこ吹く風で全く気にした様子はない。
「それじゃあ君が自分の『過去』を再認識したところで、今度は『未来』の話をしよう」
「私の未来に何があるっていうの?」
「私が視るのはキーワードだけ。垣間見た未来を断片的に伝えてあげる」
「垣間見た未来?」
「『家族』『結婚』そして『自由』」
「? 意味がわからないのだけど」
「これから先、君は大きな決断を迫られる時が来る。その時に大事になるキーワードさ。私からいえることはそうだな……自分にとって大事なことは何か。それをしっかりと考えておくといいよ」
「大事なこと?」
「君には様々なしがらみがある。捨てれるもの。捨てられないもの。きっとあるんだろうね。でも……その中にある大事な物を見逃がしちゃダメだよ。自分にとって本当に必要なものをね」
「…………」
「さて、こんなところかな」
「もう終わりかしら?」
「うん。どうだったかな?」
「誰にでも言えそうなことを言っただけのように感じたわ」
「はは、これは手厳しい」
雫の言葉を聞いても占い師はケラケラと笑うだけだ。
「もう終わりなら行くわよ」
「うん、お疲れ様。さっきと同じように次の人連れてきてね」
「わかったわ」
「それじゃあ、君の未来に幸多からんことを」
ひらひらと手を振る占い師を一瞥し、部屋を後にするのだった。
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次回投稿は1月18日21時を予定しています。