第18話 狐の伝説を調べよう 前編
今回からゴールデンウィーク編です。
楽しんでいただけるように頑張ります!
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
ゴールデンウィーク初日、俺は朝の十時に目を覚ました。
もうこんな時間か……おかしい。いつもなら零音が休みの日でも遅くまで寝ていないようにと九時には起こしに来るのに。なんていうか、三日前から少し機嫌が悪い気がする。いや、表面上はいつもと変わらないんだけどさ。
気のせいだと思うんだけど……もしホントに怒ってたなら好感度が下がったりするんだろうし。
それよりも今日は井上さんと図書館に行く日だ。約束は一時からだけど、準備は早めにしといた方がいいだろう。
「ふぁああ。まだ眠いけど、さすがにこれ以上寝るわけにはいかないよな」
服を着替えて一階に向かうと、リビングから掃除機の音が聞こえてくる。
なんだ、零音来てたのか。掃除してたから起こしに来なかったのかな。
「おは——って、莉子さん!?」
リビングにいたのは零音ではなく、零音の母親の莉子さんだった。
なんていうか、零音が大人になったらこうなるんだろうなって感じの人で、今でもすごく若く見える。零音と並んで姉妹と言われても違和感がないくらいに。年齢の話は厳禁。絶対にしてはいけない。俺もまだ命は惜しい。
「あらぁ、おはよう晴彦君。起こしちゃったかしら」
「お、おはようございます莉子さん。今日はどうしたんですか?」
「零音ちゃんが用事で出かけちゃってね。代わりにお昼ご飯を届けて欲しいって言われたの。だから届けに来たんだけど……」
用事があったから起こしに来なかったのか。それで零音の作ったご飯を届けに来たと。そこまではいい。そこまではいいんだけど、なんでそこから莉子さんが掃除することになるんだろうか。
「この部屋、零音ちゃんが掃除したのよねぇ?」
「そうですね。昨日掃除してくれましたけど……」
「ダメねぇ、60点。掃除に心が入ってないわ。ごめんなさいね晴彦君。ちゃんと言っておくから」
「いえそんな。いつも助かってますし。昨日は疲れてたんじゃないですか?」
正直俺にはこの掃除の何がダメなのか全然わからないけど、莉子さん的にはアウトらしい。
「そうそう、最近どうかしらぁ?」
「どうって……何がですか?」
「学校の事とか零音ちゃんの事とかよ」
「そうですね、学校はもう慣れてきましたよ。友達もできましたし。零音の事ってのは……まぁ、いつも助けてもらってますよ。ご飯とか勉強とか。感謝してます」
「そう、それはよかったわねぇ。でもぉ……」
何か言いたげな様子の莉子さん。
俺なんか変なこと言ったかな。
「どうかしました?」
「ううん。なんでもないの。こういうことは私が言うことでもないしねぇ」
「はぁ、そうですか」
何のことか全然わからない。でもまぁ、言わないなら気にしなくても大丈夫……だと思おう。
「それよりもぉ、どこか出かけるの?」
「あ、はい。今日は昼からクラスメイトと図書館に行く約束してるんです」
「もしかして女の子かしら?」
「そうですけど」
「あらぁ、あらあらぁ。晴彦君も隅に置けないわねぇ」
「そういうのじゃないですから!」
「ふふふ、でもあんまり仲良くし過ぎると零音ちゃんが嫉妬しちゃうから、ほどほどにしてあげてね?」
「まさか、零音が嫉妬するわけないじゃないですか」
零音が嫉妬してる姿なんて見たことがないし、そもそも俺が誰と遊んだところで気にしないだろう。
「うーん、この様子だと零音ちゃんも前途多難ねぇ」
「どういうことですか?」
「晴彦君、鈍感すぎるのも考えものよ」
「??」
俺が鈍感ってどういうことだろうか。そんなことないと思うんだけど。
それに、今のこの目の力がある限りは他人が自分のことをどう思ってるのかわかるわけだし、鈍感ではないだろう。まぁ、そういうとこの目に頼ってるみたいで嫌だけどさ。
「いつかわかるわ。それじゃ、お昼ご飯は机の上にあるからね」
「はい、ありがとうございます」
「お礼なら零音ちゃんに言ってあげて。作ったのは零音ちゃんだから」
「でも、莉子さんも部屋の掃除してくれたみたいですし」
「これくらいなんでもないわ。また来るわね」
「はい」
莉子さんが部屋を出ていき、玄関の鍵を閉める音がする。
「まさか莉子さんがいたとは……普通にびっくりした」
まぁいいか。ご飯を食べるにはまだ早いけど……お腹空いてるし、先に食べてもいいか。後でまたお腹が空いたらパンでも食べよう。
さて、今日のご飯はなにかな。
「うっ……」
机の上に置いてあるご飯を見て思わず声が出る。
オクラの肉巻き。オクラのおひたし。納豆玉子焼き。そしてダメ押しのオクラ納豆などなど……俺の苦手なもののオンパレードだ。
これを俺に食えというのか……。って、ん?
よく見るとメモが机の上に置いてあった。零音からのようだ。
拾って見てみると、
『ハル君へ。今日のお昼ご飯は私がハル君の為に一生懸命料理しました。一つ一つ丁寧に作りました。もし、ありえないと思うけど、もしも残されたりなんかしたら私悲しいなー。泣いちゃうかもなー。だから、ちゃんと食べきってね?』
これは……残せない。こんな風に書かれて残せるわけがない。
しょうがない、腹をくくるか。
まさか出かける前にこんな敵が待っているとは……よし、食うぞ!
俺は意を決して、お昼ご飯という名の戦場へと挑んだ。
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「あぁ、なんかまだネバネバしてる気がする」
オクラ納豆、お前はなかなかに強敵だったぜ。
お昼ご飯に勝利した俺は、井上さんとの待ち合わせ場所へと向かっていた。
まだ時間には余裕があるけど、早めに行っておいた方がいいだろうし。
一緒に出掛けることの多い零音とは家が隣だから待ち合わせなんかしないしなー。なんか新鮮な感じだ。
ふと空を見ると、空は雲に覆われていた。
天気予報では雨が降る確率は低いって言ってたけど……折りたたみ傘くらい持っといたほうがよかったかも。まぁ、帰るまで降らないことを祈ろう。
なんて天気の心配をしながら歩いていると、待ち合わせ場所の駅前に近づいてきた。
「って、あれ?」
駅の銅像の前に立っている人は……井上さん!?
嘘だろ、まだ待ち合わせまで30分以上ぐらいあるのに。
何事かを手に書きながら飲むという動作を繰り返している井上さん。こちらに気付いた様子はない。
慌てて走り寄って声を掛ける。
「井上さん!」
「うへぇあ! ひ、ひひひひひ日向君! ど、どうして、まだ時間には早いはずなのに」
「いや、それはこっちの台詞だよ。まだ30分以上あるのにもう来てるなんて思わなかった」
「だ、だって待たせちゃいけないと思ったし、家にいても落ち着かないし……だったらもう早く行っちゃえと思って」
「だからって早すぎだと思うけど」
「ごめんね」
「いや、別に謝らなくていいよ。こっちこそ待たせたみたいでごめん」
「それは私が早く来たからで、悪いのはこっちだよ」
「そんなことないよ、悪いのは俺だって」
「日向君は悪くないよ。悪いのは私だって」
「……井上さんって意外と強情だね」
「日向君だって」
「……ってこんな言い争いしてる場合じゃないよ。今回は二人とも悪かったってことにしよう」
「そ、そうだね」
まさか井上さんがこんなに譲らないとは思わなかった。
なんていうか、新しい一面を知った感じだ。
「それじゃちょっと早いけど行こっか」
「うん」
合流した俺達は図書館へと向かうことにした。
学園に伝わる狐の伝説について調べるために。
零音ママの莉子さん登場。怒ると怖いお母さんなのです。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
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それではまた次回もよろしくお願いします!
次回投稿は8月26日9時を予定しています。