第73話 弥美とのデート 前編
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
一日限定という条件で弥美の彼氏になることを了承した晴彦は、当初の予定を変更してショッピングモール内を弥美とデートしていた。
「良かったですね晴彦さん、これで彼女いない歴=年齢という不名誉を脱しましたよ」
「その発言は色んな人を敵にまわしそうだから止めてくれ」
「ふふ、冗談です。さて、それじゃあ晴彦さん。今日は私のお願いを叶えてもらいますからね」
「それはいいけど、お手柔らかに頼むよ」
「そんな無茶なことは言いませんよ。ただ晴彦さんは私の彼氏らしくしてくれたらいいんです。とりあえず、一回私の名前を呼んでください。さっきから全然呼んでくれないじゃないですか」
「いやだってなぁ。さすがにちょっと恥ずかしいっていうか」
「幼なじみさんの名前は普通に呼んでるじゃないですか」
「零音は零音だし」
「言い訳は聞きません」
「えぇ……」
弥美の態度はかたくなで、晴彦が名前を呼ぶまでは決して妥協しないであろうことはわかりきっていた。弥美自身が名前で呼ぶことを望んでいる以上、仮にも彼氏である晴彦がその要求を呑まないわけにはいかない。
ようは気持ちの問題なのだ。晴彦が恥ずかしがるのを止めさえすればそれで解決する話。
(呼べない理由があるわけじゃないし……今日は病ヶ原さんのお願いを聞くって決めたしな。よし、俺も腹を括るか)
不慮の事故であったとはいえ、晴彦が弥美がひた隠しにしていたことを知ってしまったのは事実だ。そんな申し訳なさも手伝って、晴彦は弥美のことを名前で呼ぶ決意を固める。
「えっと、それじゃあ……弥美さん?」
「さん?」
「……弥美?」
「はい、なんですか晴彦さん」
「思ってた以上に恥ずかしいなこれ」
「すぐに慣れますよ。私もまだちょっと恥ずかしいですけど」
(っていうか、もしこれが零音に知られでもしたら大変なことになりそうだな)
「む、今他の女の人のことを考えましたね」
「え、なんでわかったんだ?」
「ふふ、女の直感は鋭いんですよ……っていいたい所ですけど。先輩は顔にですぎです。めっちゃわかりやすいですよ」
「そうなのか?」
顔に出すぎ、と言われて晴彦が自分の顔をペタペタと触るがそれでわかるはずもない。
「とにかく、今日は他の女の人の事を考えるのは禁止です。温厚な私でも怒りますよ」
「それは怖いな。ちゃんと気を付けるよ。ところでさデートって結局何するんだ?」
「えっと、それは……何しましょう」
「決めてなかったのか」
「だってこんなことになるなんて全然思ってませんでしたから。もしこんなことになるってわかってたらちゃんと事前に雑誌とかで調べてましたよ。っていうか、こういうのは先輩の方が経験あるんじゃないですか? いつも幼なじみさんと出かけたりしてるんですよね」
「いやまぁ、確かに出かけることは多いけど……いつもあいつ主導だからな。俺はそれについてくばっかりだし」
「はぁ、頼りにならない彼氏ですね」
「頼りにならなくて悪かったな。まぁでも、これも経験だろ。お互い不慣れ同士、頭悩ませて動いてみるのもいいんじゃないか?」
「なるほど……それも一理あります。それじゃあ、初心者同士考えましょう。確か晴彦さん、今日は本屋に行くつもりだったんですよね?」
「あぁそうだけど」
「じゃあまずはそこに行きましょう。先輩がどんな本を買いに来たのか私知りたいですし」
「まぁそれでいいなら。じゃあ行くか。ここから近いし」
「はい」
晴彦が歩き出すと弥美は当たり前のように晴彦の腕に自分の腕を絡める。
「今日は一日これで行きましょう。さっきは恥ずかしかったですけど、今はドキドキする気持ちの方が勝ってます。街とかで腕組んで歩いてるカップルとか見て、何がいいのか全然わかりませんでしたけど……なんとなくですけど理解しました。これはいいものですね」
「俺は恥ずかしいけどな」
「そこは我慢してください。私の彼氏、なんですから」
そして二人は腕を組んだまま本屋へと歩き出す。
浮かれる弥美と、恥ずかしがっている晴彦は気付いていない。人通りの多いショッピングモールの中、人目もはばからずイチャイチャしているようにしか見えない二人がこの上なく目立っていたということに。
初々しいカップルのやりとりを微笑ましそうに見つめる人、リア充爆発しろと念じながら睨みつける人。多くの好奇の視線にさらされていることに気付かないまま、晴彦と弥美はその場を立ち去るのだった。
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次回投稿は11月20日21時を予定しています。