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第71話 思いもよらぬ遭遇 後編

誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 晴彦と弥美が出会ってから十分後、二人はショッピングモール内にある人気の少ないカフェへとやって来ていた。飲み物だけ頼んで向かい合う二人は他の客たちのように談笑することはなく、ただただ黙ったまま。飲み物にさえ手を付けずに座っているだけだった。俯いたままの弥美は話し始める様子もない。

 意を決した晴彦は思い切って一番気になっていたことを弥美に聞く。


「えーと……その、病ヶ原さんのその恰好は?」

「っ!」

「あぁいや。言いたくないなら別にいいんだけど」


 以前見た姿とはあまりにも違うその姿に気になることだらけではあったが、無理に聞き出すほど晴彦も鬼ではない。誰しも黙っておきたいことというのはあるものなのだから。

 気まずい沈黙に晴彦が頬をかいていると、おずおずと弥美が口を開く。


「やっぱり……気になりますか?」

「まぁそりゃ……イメージと全然違うし」

「はは……そうですよね。私もそう思います」


 晴彦の言葉を聞いてシュンと俯く弥美。しかしその姿は派手なギャルそのままなのでどこかちぐはぐな印象になってしまう。


「あ、あの! 勘違いして欲しくないんですけど、この髪とかは私が望んでしてるわけじゃないですから!」

「当たり前です! ま、まぁちょっとこういう恰好に憧れがあったことは否めませんけど……」

「じゃあなんでいつもは顔隠したりしてたの?」


 派手な恰好に憧れがあると言いながら、学園で見かけるその姿はいつも長すぎる前髪で顔を隠していた。顔を隠すほどの前髪という派手さはあるものの、それを除けば言い方は悪いが地味な恰好をしていた。何かと目立つ花音の傍にいることもある程度は影響していたのかもしれないが。

 そんな晴彦の何気ない質問に、弥美は迷いを見せながらも答える。


「誰にでも……コンプレックスってあるんですよ。私の場合はそれがこの目でした」

「目?」

「日向先輩もさっき見ましたよね、私の目。っていうか思いっきり目が合いましたし」


 そう言われて晴彦は先ほど弥美とぶつかった時のことを思い出す。その時見た弥美の瞳は赤と青であったことを。


「え、あれカラーコンタクトとかいうのじゃないの?」

「違います。髪は染めてますけど、あの目だけは生まれつきです。私、生まれた時から赤と青のオッドアイなんです」

「オッドアイ……」


 晴彦も聞いたことはあった。アニメや漫画、ゲームでは見たことがある。現実では猫などに多くみられるというオッドアイ。しかし現実にオッドアイの人がいるというのは晴彦にとっては驚きだった。


「それじゃあもしかしなくても病ヶ原さんが顔を隠してたのは、そのオッドアイを見られたくなかったから?」

「……はい。その通りです。本当なら卒業まで……ううん、死ぬまでずっと隠しておくつもりだったのに」

「そこまで……いや、でもそんなに嫌だったならそれこそカラーコンタクトとかで誤魔化したらよかったんじゃ」

「それも試してみましたけど……ずっとつけてられるわけじゃないですし、何より私の目にカラーコンタクトは合わないみたいで。お医者さんから貰ったものでも三十分が限界でした。ホント、もし神様がいるなら意地悪だなって思いますよ。どうして私をこんな目に……って」


 その呟きには弥美が長年に渡って積もり積もった切実な想いが込められていた。

ゆっくりと前髪をかきあげ、その瞳を露にする。その目は不安と緊張に揺れていた。


「大したことないって思ってますか? そんなことでって」

「いや、そんなことはないけど……」

「誤魔化さなくてもいいですよ。親でも私に向かって言いますから。いい加減目のことくらいで変な恰好するなって。今回のこの恰好も、親に嵌められたんですよね」

「どういうこと?」

「実は、この近所で親戚の人が美容院やってて。渡して欲しいものがあるのーって言われて持ってきたらあれよあれよという間にこんなことに……しかもご丁寧に服まで用意されちゃってて。流石にずっとこのままってわけにもいかないんで、一週間もしたら元の髪色に戻しますけど」


 そして、髪を染められ髪型も変えられ、服も奪われた弥美は誰にも会わないように帰ろうとしていたまさにその時、晴彦と出会ってしまったのだ。


「あんまり似合ってないですよね?」

「いや。そんなことはないよ。確かにびっくりはしたけど、でも……うん、全然変には見えないよ」

「そう言ってくれると少し嬉しいです」

「それに……俺は変だとは思わないよ。病ヶ原さんのその瞳の色。すごく綺麗だと思う。猫みたいっていうと失礼かもしれないけど……俺は好きだな」

「っ!?」


 弥美の目をまっすぐに見つめて晴彦は自分の思ったことを伝える。そこには嘘も偽りもない。紛れもない晴彦の本音だった。

 晴彦と目を合わせていたからか、それが心からの言葉であることは弥美にもしっかりと伝わっていた。

 それを感じた瞬間、なぜかそれまでと違う緊張が弥美を襲う。顔が赤くなるのを隠すように、晴彦の視線を遮るように弥美は前髪で顔を隠す。


「せ、先輩は誰にでもそういうこと言ってそうですよね。もしかして先輩って女たらしだったりしますか?」

「いや違うから!」

「えー、ちょっと怪しいです。そういえば先輩っていつも女の人と一緒にいますし、なんだかんだ花音とも仲いいですしね」

「いやそれはその……そんなことないとは言えないけどさ。とにかく女たらしとかは絶対にないから。まだ彼女だってできたことないのに」

「え、先輩まだ誰とも付き合ってなかったんですか?」

「え、あぁ……恥ずかしながらというか……まだ彼女はいません、はい」

「へぇ……そうなんですね」


 すると少し考え込んだ後、弥美は口を開いた。


「それじゃあ先輩に少しお願いがあるんですけど……いいですか?」


 そう言って弥美は蠱惑的に笑うのだった。



なんと、なんと皆様のおかげでブックマーク件数が500件を超えました!

ありがとうございます! これからも粉骨砕身の想いで頑張ります!

これからも晴彦と零音達の物語を応援してくれると嬉しいです!


今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク&コメントしていただけると私の励みになります!

Twitterのフォローなんかもしてくれると嬉しいです。

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は11月13日21時を予定しています。

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