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第70話 思いもよらぬ遭遇 前編

誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 人には誰しも隠し事というものがある。それは友人との関係を変えてしまうようなレベルの隠し事もあれば、言えば鼻で笑ってしまうようなような些細なレベルの隠し事もある。

 しかし、例え人から見れば些細な隠し事であっても当人にとっては知られたくないような隠し事であるということもある。ましてやそれが容姿のことであれば特に。

 これはそんな隠し事に巻き込まれることになってしまった晴彦の話である。




□■□■□■□■□■□■□■□■□


 七月も終わりに近づいてきた夏休みのある日のこと晴彦は一人で遠くのショッピングモールへとやって来ていた。遠くといっても雨咲市から一時間程度の場所だ。しかし雨咲学園の生徒はほとんどやって来ることは無い。雨咲市にも雨咲市の近くにも大きなショッピングモールがあるため、大抵のものはそこで揃ってしまうからだ。

 しかし、今回晴彦の欲しかったものが近場では売り切れていたため、仕方なく遠出することを決意したのだ。


「はぁあの漫画ホントにどこにも売ってないな。アニメ見て面白そうだと思ったから買おうと思ったけど、皆考えることは似てるもんだな」


 電車に揺られながら晴彦は一人呟く。夏の暑い日に出かけたくなどなかったが、欲しい物が手に入らないと気になってしまうのが人間というものだ。


「さっさと買って帰るか」


 いつもなら晴彦についてくる零音も今日は雪や雫、めぐみと共に水着を買いに行っているために今日はいない。一人というのも気楽といえば気楽なのだが、どこか寂しさを感じてしまっていることも否めない。


「子供かよって話だよな。っていうか……零音以外に一緒に遊んだりする奴がほとんどいないのってヤバくないか? 今さらだけど。友澤は補習だし。山城は……夏は修行で山籠もりするって言ってたな。俺の数少ない男友達は遊びに誘えないんだよなー」


 こんなことならもっと積極的に友達を増やすべきだったかと若干後悔する晴彦。

 二学期になったら友達を増やす方向で頑張ってみようと、そんなことを考えているうちに目的の駅へと着く晴彦。人の流れに押されながら進む晴彦。目的のショッピングモールは駅と隣接しているため、着くまで五分もかからない。


「あー、やっと人の流れが落ち着いた。久しぶりに来たけど、夏休みだと一段とすごいな」


 少し周囲を見渡せば晴彦と同じ高校生とおぼしき人が多く見受けられる。夏休みになったということもあってか解放感と共に髪を染めている人もいた。晴彦はさすがに髪を染めたりするつもりはないが、クラスメイトの中にはそういう人もいるかもしれないと思った。


「まぁ、俺の知り合いで髪を染めそうな奴なんていないけどさ」


 そんなことを考えていると、不意に晴彦の背中に人がぶつかる。晴彦にとってみれば軽い衝撃だったが、ぶつかってきた人はそれでバランスを崩してしまったようでその場に転んでしまった。


「きゃっ! いったぁ……」

「あ、ごめん! 大丈夫?」

「ちょっと、こんな所で立ち止まらないでよ。前見てなかった私も悪いけ……どぉ?!」


 派手な見た目をした少女は長い髪を金髪に染めていて、その両目はカラーコンタクトを入れているのか、青と赤のオッドアイになっていた。黒を基調にところどころに毒々しい花の模様が描かれた服を着ており、ホットパンツから覗く綺麗な長い脚が目に眩しい。思った以上に露出度の高いその恰好に晴彦は眼のやりどころに困ってしどろもどろになってしまう。

 しかし、困っている晴彦以上に目の前の少女は混乱の極みにあった。口をパクパクとして晴彦を指さしたまま固まっている。


(どうしたんだろ。知り合いってことはないと思うんだけど……いや、でも待てよ。この子……どっかで)


 記憶の片隅に引っかかるものを感じた晴彦。しかしどれほど記憶を探っても目の前の少女に出会った記憶など無い。そもそもこんな派手な少女に出会ったことがあれば忘れるはずなどない。

 さすがに気のせいかと晴彦が思いかけたその時、目の前の少女がジッと見つめてくる晴彦から視線を逸らそうと長い前髪を留めている髪留めをほどいて顔を隠す。晴彦から顔を隠すためだ。

 しかし、それが悪手であることに少女は気付いていなかった。顔を覆ってしまうほどに長い髪。それが晴彦の記憶にある一人の少女の姿とシンクロした。


「え、えーと……ま、まぁお互い悪かったってことで。私はこれで——」

「……病ヶ原さん?」

「っっっ!!!???」


 思い出した名を晴彦が呟くと目の前の少女がまるでガキンッとまるで氷ついてしまったかのように固まってしまう。


「……ナンノコトデスカ? ヒトチガイデスヨ」


 まるでロボットのような片言で否定する少女。その額にはダラダラと汗が流れていた。明らかに動揺していた。


「あ、そうだよな。こんな場所で知り合いに会うわけないし」

「ソ、ソウデスヨー。イヤダナー、ハハハー」

「ところで病ヶ原さん」

「はい。なんです? ……ハッ!?」

「やっぱり病ヶ原さんなんだ」

「しまったぁ……ついいつもの癖で名前を呼ばれたから。あぁもうそうですよ。私です。病ヶ原弥美です」


 名前を呼ばれてつい反応してしまったことを激しく後悔する派手な少女——病ヶ原弥美。

 夏休み、多くの人が行きかう中で晴彦と弥美は遭遇した。そして晴彦は新たな厄介事へと巻き込まれてしまうのだった。



今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

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それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は11月9日21時を予定しています。

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