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第64話 姫愛の出会い

誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 姫愛が雷華と雷茅に出会ったのは夏休みに入った直後のことだった。


「はぁ……退屈ですわね」


 ポツリと姫愛は呟いた。空調の効いた快適な部屋で一人宿題を進めていた姫愛だったが、急に退屈に襲われ宿題を進める手が止まってしまう。


「クラスの皆様は長期休暇ということで喜んでましたけど……」


 夏休みに浮かれるクラスメイト達と姫愛には少し温度差があった。まだクラスに編入してきて日の浅い姫愛にとってすれば、仲良くなり始めた所で時間が空いてしまうのだ。それは面白くない話だ。


「予定が無ければ夏休みという期間はあまりにも長すぎますわ……はぁ、せめて誰かと遊ぶことさえできればこれほど悩むこともないのですけど」


 まだ姫愛に遊びに誘えるほど仲良しなクラスメイトはいない。それは今後の課題として捉えている姫愛だが、今考えるべきはそれではなくこの退屈な夏休みをどう過ごすかということだ。


「あの子も今はお父様たちと一緒に海外に行っていますし」


 姫愛の言うあの子とは弟のことである。姫愛の弟は夏休みに入り、両親と共に海外に行っていて夏休みの間は帰ってくるかどうかも怪しいレベルだ。姫愛がついて行かなかったのはそういう気分ではなかったからだが、こうして広い家に一人で——といっても使用人はいるが——残されると、ついて行った方が良かったのではないかと思ってしまうほどだ。


「……晴彦様に会いたいですわ。でもきっと晴彦様に会いに行けばあの人にも会うことになってしまう……それは嫌ですわね」


 夏休みやることが無い、晴彦に会いに行きたくてもそれには障害が付きまとう。姫愛にとって今年の夏休みはとても楽しめるものではなさそうだった。


「この退屈を壊してくれる何かが欲しいですわ」


 と、叶わない望みを呟いたその瞬間だった。姫愛は不意に誰かの気配を部屋の中に感じた。しかし、周囲を見渡しても誰もいない。


「……誰かいますの?」


 不安気に呟く姫愛。しかし、返事など帰ってくるはずがない。使用人達は仕事をしているはずで、姫愛が呼ぶことがない限り部屋に近づかないようにとも言ってある。言いようのない不安が姫愛の心を襲う。

 おそるおそる使用人を呼ぶための呼び鈴に手を伸ばす姫愛。


「いるのはわかっているんですのよ。もし出てこないというのであれば、人を呼びますわ」


 本当なら声をかけずにすぐに使用人を呼んだ方が賢明だということは姫愛にもわかっていたが、そうしなかったのは気配の主にそれほど悪意を感じなかったからだ。

 少しの沈黙の後、何かが動いたことに姫愛は気付いた。


「っ!」

「まさか気付かれるとは、」

「思いませんでした」

「女の……子?」


 陰から現れたのは小さな女の子が二人。鏡に映したようにそっくりな子達だった。完成された愛らしさと、無表情が相まってまるで人形のようだと姫愛は思った。

姫愛は突然現れた彼女達のことを不気味に……思うようなことはなく、むしろキラキラと目を輝かせていた。


「まぁ、まぁまぁまぁ! なんて可愛らしいのでしょう!」

「「?」」

「まるでお人形さんですわぁ! いえむしろそれ以上! このように愛らしい方が存在するなんて!」

「むぐ、」

「苦しいです」


 現れた少女、雷華と雷茅に飛んで抱き着く姫愛。あまりの速さに雷華と雷茅は反応もできず、姫愛の腕の中におさめられてしまう。


「可愛い可愛い可愛いですわぁああああっ!」

「この反応は、」

「想定外です」

「あなた達はどこからいらしたのかしら? それともこのお屋敷に住む妖精? きっとそうですわ。こんなに愛らしいのですもの」

「はな、」

「離して欲しいです」

「あらごめんなさい。少し興奮しすぎましたわ」

「……決して少しでは、」

「ないとは思いますが」


 姫愛の腕の中から解放された雷華と雷茅は若干恨みがましい目で姫愛のことを見つめる。


「まぁいいです、」

「改めて自己紹介するのです」

「妖精さんですわよね」

「残念ながら、」

「私達は妖精ではないです」

「違いますの?」

「違います」

「……そうですの……」


 雷華と雷茅が妖精ではないということを知って、落ち込む姫愛。それを見た雷華と雷茅は若干の罪悪感を覚えてしまう。


「よ、妖精ではないですが、」

「私達はもっとすごい存在なのです」

「もっとすごい存在? なんですの?」

「……それは、」

「秘密というものです、」

「私達がここにいるということが、」

「特別な存在である証だと思って欲しいです」

「確かに、私の家の警備を潜り抜けて入ってこれるのはすごいことですわ」


 姫愛の家の警備は両親の心配もあって生半可なものではない。それこそ敷地内に入ることすら不可能に近いレベルだ。それを容易く潜り抜けただけでなく、こうして姫愛の部屋にやってくるなど超常の存在でなければ考えられない。


「そう、つまり私達は、」

「すごい存在なのです」


 えへん、と胸を張る雷華と雷茅。しかしその直後、二人のお腹がくぅ、と可愛らしい音を鳴らす。


「もしかして……お腹空いてますの?」

「あぅ、」

「失敗なのです」

「もしよかったら、このお菓子をどうぞ」

「っ、」

「よいのですか?」

「えぇ、私はあまり食べませんから。お好きなのをどうぞ」

「感謝するのです、」

「お菓子うまうまです」


 姫愛から渡されたお菓子をもくもくと食べ始める雷華と雷茅。その愛らしさに姫愛は頬を緩める。


「そういえばあなた達、お名前は?」

「私は雷華、」

「私は雷茅です」

「雷華さんに雷茅さん……覚えましたわ。私は姫愛、東雲姫愛ですわ」


 これが、姫愛と雷華、雷茅の出会いだった。この出会いが後にもたらすものを、この時の姫愛はまだ何も知らなかった。


今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

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それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は10月16日21時を予定しています。

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