第60話 テスト終了後の元男達によるガールズトーク
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
10月1日18時頃に『聖剣乙女』という短編を投稿しますので、もしよろしければ読んでください。
テスト終了後、喫茶店にて。
零音、雪、雫の三人は喫茶店へとやって来ていた。めぐみは用事があるらしく先に帰り、晴彦は山城と共にテストで轟沈した友澤を慰めるためにゲームセンターへと向かった。その結果として、零音達は久しぶりに三人で集まることになったのだ。
「とりあえず、テストお疲れ様」
「お疲れ様でした」
「おつかれー」
「とりあえず聞くけれど、テストはどうだったの? まさか赤点なんて取るはずはないと思うけど。特に夕森さん」
「え、アタシ? アタシは大丈夫だよ~。たぶん」
「たぶんって……やっぱり私が勉強を見てあげたほうがよかったのかしら」
「人に勉強見てもらうのはもう勘弁って感じだよ」
「それで赤点取ってたら意味ないでしょう」
「そうなんだけどさぁ」
「朝道さんは? どうだったの?」
「私はいつも通りです。今回も問題はないと思います」
「そう。まぁ、あなたに関しては元から心配してなかったけど」
「そういう先輩こそどうなのさー」
「逆に私に問題があると思う?」
「うぅ、ないけどさー」
雫の成績の良さはもちろんのことながら雪も知っている。雫がテストで赤点を取るなど、友澤が突然女の子にモテモテになるのと同じくらいありえないのだ。
「……っていうかそういえば、今日はアタシ達しかいないんだよね?」
「そうだけど? それがどうかしたの?」
「じゃあたまには前みたいに喋るかぁ。オレオレアタシ、オレアタシってな」
「「…………」」
「んだよその顔。変なもの見る目しやがって」
「いや、別に変だって思ってるわけじゃないんだけど。そういえばその話し方するの聞くの久しぶりだなって思って」
「そりゃ最近は気を付けてたからな。オレだってこの話し方するのは久しぶりだっての」
「晴彦も私達が元男だってのは知ってるんだから、普通に話せばいいのに」
「別に無理してあの話し方してるわけじゃねーよ。むしろ晴彦とか他の奴といるときはあっちの方が普通の話し方だしな。ただ……」
「ただ?」
「たまにはこうやって話しとかないと、オレが男だった時のことを完全に過去のことになっちまいそうで……それが嫌なんだよ」
「雪は……昔のことを忘れたくないの?」
「当たり前だろ。オレはまだ元の世界に帰ることだって諦めちゃいない。晴彦とのことはあるけどな……それでも、オレは元の世界に戻れるチャンスがあるなら戻りたいと思ってる。あんたはどうなんだよ」
「私は……ボクはもう元の世界に執着はないよ。この世界に骨を埋める覚悟もある。今は……だけどね。元の世界も、今の世界も……ボクにとっては一緒だ。違いは晴彦がいるかどうか。ならボクは晴彦のいる方を選ぶ。君は?」
「っ!」
雪と雫の視線が零音に向けられる。話の流れ的にこちらにも振られるだろうと思ってはいたが実際に話を振られると思わずビクッとしてしまう。
「私は……晴彦の傍にいたいよ。でも……」
「……お前さ、前に晴彦のこと道連れに死のうとしただろ」
雪が言っているのは以前に零音と霞美が起こした事件のことだ。あの時確かに零音は晴彦と共に死のうとしていた。
「オレ達さ、霞美から話を聞いたんだよ。一応な。お前から直接聞いたこと以外にも。悪いとは思ったけどな」
「もしまた同じようなことを起こす可能性を考慮してね。君のことを信用していないわけではないけど……知っておく必要があると思ったんだ」
「…………」
「あっちに親友がいる……いや、いたんだろ。死んだって聞いたぞ」
雪は言葉を飾らない。聞きたいことを直球で投げてくる。その言葉は零音が塞ごうとしていた過去の傷を容赦なく抉る。その痛みに耐えながら、零音は言葉を発する。
「そう……だね。いたよ。一番仲の良かった……親友。間違いなく一番の……友達」
「そいつが、お前が元の世界に戻りたい理由だったのか?」
「……うん。あいつの……冬也のいる場所が私のいる場所だと思ってたから。でも……今はもう違う。冬也のことは今でも親友だと思ってるけど……私はそれでも前に進むって決めたから」
「じゃあ元の世界に戻りたいってわけじゃないのか?」
「晴彦の傍にいたいっていうのが一番だよ。元の世界に戻りたいとは思わない。でも……」
「でも?」
「謝りたい人はいる……かな」
「ふーん、ま、どうでもいいんだけどな」
「……は?」
それまで真剣な眼差しで零音の心を暴いていたというのに、急にあっけらかんとした表情で言い放つ雪。同じく真剣な表情をしていた雫も頷きながらケーキを食べている。
「お前がその冬也って奴のことをどう思ってよーがオレ達には関係ないってことだよ。いや、むしろその冬也って奴のことに囚われて晴彦のこと諦めてくれた方がオレとしては助けるけどな」
「確かに、ボクも同じ意見です。現状一番厄介なあなたが勝手に脱落してくれるならそれに越したことはないですから」
「なっ……」
零音の頭にカッと血が上る。それは二人にどうでもいいと言われたからではない。自身の晴彦への気持ちを軽んじられたからだ。
「冗談じゃないっ! 私が晴彦以外の誰かを好きになるなんて、天と地がひっくりかえってもないから!」
ガタン、と激しい音と共に立ち上がる零音。周囲にいた客が何事かと零音達の方を見るがそんなことにも気付いていない。それほどまでに零音は憤っていた。
しかし、そんな怒りの感情をぶつけられた雪達だったが、全く気にした風ではなく、むしろそんな零音の反応を見て楽しそうに笑う。
そんな姿がさらに零音の怒りの炎に油を注ぐ。しかし、零音がさらに言い募ろうとするよりも前に雪が口を開く。
「それでいいんだよ」
「え?」
「お前最近、オレらに変な遠慮してるだろ」
「それは私も感じていました。確かに交わした約束はありますが、それを差し引いてもあなたはボク達に……ひいては、晴彦に遠慮しすぎている」
「あ……」
「事件のこと引きずり過ぎなんだよ。いい加減うぜぇんだよ。オレらは気にしてねぇ。晴彦もそうだ。気にしてんのはお前だけなんだよ」
「前までなら邪魔してきた場面でも出てくることなく、遠慮していた……それがボクにはどうも気がかりでした」
「忘れろとは言わねぇ。でもな、そうやって遠慮して、心に変なもんため込んで、また爆発させられる方がオレらには迷惑なんだよ」
確かに雪達の言う通りだ。たとえ嫉妬の気持ちが湧いたとしても、どこか遠慮してしまっていた。それを雪達に見抜かれていたのだ。先ほどまでの怒りはすでに消え去り、自分の気持ちを見抜かれていたことへの恥ずかしさが勝っていた。
「たっくお前はよぉ。こんなこと何回も言わせんじゃねーよ」
「……ごめん。でもどうして?」
「あ、何がだよ?」
「どうして私に助言をしてくれるの?」
「「……はぁ?」」
「え? え?」
気になったから聞いた零音だったが、雪と雫は心底バカを見る目で零音のことを見る。
「お前って……バカだったんだな」
「頭の良いバカ……というやつですか」
「な、なんでそんなこと言われないといけないの! っていうか、私バカじゃないし!」
「一回言われたことを覚えてないならバカだろ」
「言われたこと?」
「以前、井上さんがあなた達に言ったことを忘れましたか?」
「めぐみが? ……あ」
それは雫の家で遊んだ日の帰りに。めぐみが言ったこと。
『だから私達は友達で、恋敵ってことだよね』
たしかにめぐみはそう言った。
「つまりオレ達は敵同士だけど、友達だろ」
「そういうことです。友達が間違っていたら指摘するものらしいですから。ボクは友達がいないので参考資料は本になりますけどね」
「オレはそう思ってたけど、お前は違うのか?」
「……ううん。ううん。違わない、違わないよ」
「なんだお前、泣いてんのか?」
「ちが、泣いてなんかないから!」
今まで零音達の間にあったのは晴彦を巡る敵同士という関係だけだった。めぐみはこの零音達の関係を『友達で恋敵』だと評したが、雪が本当にそう考えているとは思っていなかった。そうあってくれればと思いはしたものの、自分の願望にすぎないとそう諦めていた。しかし違ったのだ。雪も雫も真実、零音のことを友達として認めてくれていたのだと知って胸が熱くなる。
「ま、せっかくこうやって集まったんだしよ、夏休みの計画立てようぜ。高校生の夏休みは忙しいらしいぞ?」
「ふふ、そうですね。時間は有限、有意義に使わねば意味がないものです」
「……うん、そうだね。そうしよう」
こうして、少し仲の深まった三人は夏休みの計画を立て始めるのだった。
「ところで、少し気になったんですけど。どうして先輩が私達のあの会話について知ってたんですか?」
「あぁ、それはですね。ボクの家の前で話してたじゃないですか」
「はい」
「あの様子を奏は隠し撮りしてまして」
「はい?」
「後で映像を見せてもらったんですよ。できればボクもあの会話に混ざりたかった……なんですかあれ、まさしく青春じゃないですか。ボクのいない所で羨ましい妬ましい……」
「……とりあえず、これから先輩の家の近くで話し事をするのは止めることにします」
ぶつぶつと呟き続ける雫を見ながら、零音はそう固く誓った。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
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次回投稿は10月2日21時を予定しています。