第58話 そして迎えるテスト当日
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
そして迎えたテスト当日。このテスト期間を乗り切れば夏休みを迎えることができるというだけあって気合いの入っている生徒が多い。
しかし、もちろん例外はいる。その例外のうちの一人が晴彦だった。晴彦は夏休みのことなど考える余裕はなく、テストが憂鬱で仕方ないという表情をしていた。
「テスト……したくねぇ……」
「もう。まだそんなこと言ってるの?」
「だってなぁ」
「昨日やった模擬テストの結果が悪かったのそんなに気にしてるの?」
「この一週間あれだけ勉強したのに全然取れなかったらそりゃ落ち込むだろ」
「うーん……ちょっと難しめに問題作ったんだけど……逆効果だったかな」
「え、そうなのか?」
「先輩から去年の問題用紙もらってね。今回も問題作る先生が同じだったみたいだからこれくらいの難易度かなぁって想像しながら、それにさらに応用を付け加えて問題作ったの」
「お前……ホントに器用だな」
「えー、そんなことないよ。これくらい誰でもできるって」
「いや、誰でもは無理だろ。少なくとも俺にはできない」
「とにかくね、そういうのがあったからハル君に少しでも自信をつけてもらおうと思って昨日やったんだけど……ごめんね」
「気にするなって。問題解けなかったのは俺が悪いんだし。それにあれが難しめだっていうなら本番はあれより簡単ってことだろ? そう思ったらちょっと気が楽になった」
「私が想像で作っただけだから、もしかしたらもっと難しいかもしれないけどね。まぁ、あの先生なら大丈夫だと思うけど。まだもう少し時間はあるし、最後の追い込みだけしとく?」
「あー、そうだな。それぐらいはしとくか。最初のテストってなんだっけ?」
「今日は英語、現代社会、家庭科だよ」
「英語はまぁ。捨てるとして……家庭科はノリでやるとして。やる必要があるのは現代社会くらいか」
「いや、英語を捨てないでよ。あと、家庭科ノリでやるってなにそれ」
「英語は今さらだろ。付け焼刃で変な知識つけてもこんがらがりそうだし。だったら今持ってる知識だけで立ち向かうのがいいだろ。そんで家庭科は……なんかノリでいけそうな気がしないか? あの先生優しいし、テストも簡単にしてくれそうだろ」
「白鳥先生ね……」
晴彦達の家庭科を請け負っている家庭科教師の白鳥はつき。彼女は晴彦の言う通り優しい先生だ。優しいというよりも抜けている、という感じの先生だが。まだ若く、可愛いということもあって生徒からの人気は非常に高い。
「確かにあの先生の作るテストならそんなに難しくはないかもしれないけど……」
「だろ? もう時間もないんだし、だったら教科一つに絞ったほうがいいって。そういうわけで俺は現代社会を勉強することにする」
「もう、しょうがないなぁ。それじゃあ教科書だして」
「あいあい」
「う~ん、おはよぉ……」
「あ、雪。おはよう」
「おは~、二人ともなにしてんのぉ?」
「今から最後の追い込みかける所だけど……どうしたの? 随分疲れてるみたいだけど」
「いや、昨日は鈴ちゃんと勉強してたんだけど。なんでか知らないけど昨日に限って鈴ちゃんすっごく厳しくて。そのせいでもう疲れちゃって……レイちゃんかよって言いたくなるレベルだったよ」
「そりゃ大変だったな」
「ちょっとハル君、それどういう意味?」
「あぁいや、別に他意はないから。ホントにないから」
「そういうわけもあってアタシは今かなりグロッキーモードだよ。できれば文字もみたくないくらい」
「相当重症だね。テストまで休んでたら?」
「うん、そーする」
ノロノロとした動きで自分の席へと向かい、座るやいなや机に突っ伏して寝始める雪。連日のテスト勉強で疲弊していた所に、鈴との勉強で止めをさされたのだろう。鈴が今回に限って雪に厳しくしたのは、端的にいってしまえば嫉妬の気持ちからだ。雪が他の人と一緒にテスト勉強をしているのが羨ましかったのだ。その八つ当たりの気持ちが前日のテスト勉強の時に出てしまったのだ。
「あれでテスト大丈夫なのか?」
「まぁ大丈夫なんじゃない? っていうか、ハル君は雪の心配するまえに自分の心配して」
「はーい……」
「お、なんだなんだ。朝道さんも日向も何してんだ?」
改めて現代社会の教科書を開こうとすると、元気よく教室の扉が開かれ、友澤と山城が教室に入って来る。
「おう、二人とも、おはよう」
「あ、友澤君に山城君。おはよう」
「あぁ、おはよう」
「あぁ、朝から美少女に挨拶される幸せ……これだけで一日頑張れる気がする」
「おい、俺のことは無視か」
「野郎からの挨拶なんて嬉しくねーんだよ」
「あはは、友澤君は相変わらずだね。でも二人揃って一緒なんて珍しいね。どうしたの?」
「下駄箱の所であってな。一緒に来ただけだ」
「聞いてくれよ朝道さん! こいつ下駄箱の所で彼女とイチャイチャしてんだぜ。人目を考えろよって感じだぜ全く」
「別にイチャイチャしていたつもりはないのだが……」
「うるせぇ! 彼女がいるだけで大罪なんだよ! 言い訳無用だ!」
「そういえば山城君は彼女さんがいるんだっけ」
「あぁ、クラスは別だがな。また今度紹介しよう」
「うん、楽しみにしてるね」
「それよりも二人とも勉強中だったんじゃないのか? 邪魔をしてしまったんじゃ」
「今からしようとしてた所だけど、気にしなくていいよ。なんだったら二人も一緒に勉強する?」
「いや、俺は遠慮しておこう。テスト前は一人で集中したいのでな」
「そっか。友澤君は?」
「勉強? 是非ともって言いたいところだけど、オレもパスかなー」
「お前が零音の誘い断るなんて珍しいな」
「ふっ、オレは今回のテスト……とある賭けをしてるのさ」
「賭け?」
「そう。テスト勉強を一切せずにテストを受けて赤点を回避できるかどうかという賭けをな!」
「「「…………」」」
「前回の中間テスト。オレは勉強をした結果赤点があった。つまり勉強の効果が出せなかったんだ。そこでオレは思いついた! まさに逆転の発想だ。勉強して赤点を取ってしまうなら、勉強しなければ赤点回避できるのではないかと! ……ってなんだよその、バカなんじゃねぇのかこいつって言いたげな目は」
「バカなんじゃねぇのか」
「実際に言ってんじゃねーよ!」
「いやだってお前……バカだろ。ホントに勉強してないのか?」
「あぁ」
「全然?」
「一分もな」
「さよなら友澤。お前のことは忘れない」
「なんでだよ! 朝道さん、行けると思うだろ」
「えーと……(ニコッ)」
「笑顔で誤魔化さないでくれ! 山城!」
「日々精進しないものに未来はない。それだけだ」
「ちっくしょぉおおおおおっ! 今に見てろ! オレはやってやるからなぁ!」
「あ、友澤君!」
「ほっとけ零音。あいつはもうしょうがない」
「うむ。優しさばかりが必要なわけではないからな」
「いやでも……もうすぐテストだよ?」
半泣きになりながら教室を飛び出した友澤だが、テストの時間は刻一刻と迫っている。つまり飛び出したとしてもすぐ戻ってこないといけないのだが……それはなんとも恰好のつかない話だろう。
「み、みんな。友澤君が泣きながら飛び出して行ったけど……どうかしたの?」
「めぐみ、おはよう。友澤君のことは……まぁ、気にしないで」
「おはようめぐみさん」
「あ、おはようひな……は、晴彦君」
「めぐみ……まだ慣れないの?」
「だ、だってぇ……」
めぐみが晴彦のことを名前で呼ぶようになって数日。しかしめぐみは未だに晴彦のことを名前で呼ぶことに慣れてはいなかった。顔を赤くし、どもってしまうことも少なくなかった。
「まぁ、ゆっくり慣れてけばいいよ。そんなに焦るようなことじゃないし」
「う、うん。ありがとう晴彦君」
「そうだ。めぐみも一緒に勉強しない? あとちょっとだけど」
「いいの?」
「もちろん。ね、ハル君」
「あぁ、断る理由がないしな」
「それじゃあ、せっかくだしお邪魔しようかな」
「それでは俺はもう行こう」
「おう、それじゃあテスト頑張ろうな山城」
「うむ。お互いにな」
それだけ言い残して離れていく山城。
それから零音達はテストが始まるギリギリまでテスト勉強に勤しんだのであった。
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次回投稿は9月25日21時を予定しています。