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第52話 放課後勉強会 6

誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 結局、ハルトは秋穂がどんな秘密を書いたのかわからないままにめぐみの作った模擬テストを受けることになってしまった。秋穂が書いた秘密は全部で十五個。なのでそれに合わせてめぐみも全部で十五個の問題を作った。レベル一からレベル三まで。問題のレベルが上がるごとに暴かれる秘密も大きくなるシステムだ。つまり、晴彦は秘密をバラしたくなければ全力で問題を解かなくてはいけないということだ。


「なるほど、こりゃプレッシャーだ」


 問題を間違えれば秋穂の書いた晴彦の秘密がめぐみにバラされる。想像しただけで晴彦は胃が痛くなりそうだった。その緊張感はまさにテスト本番に勝るとも劣らない。


「一応問題は数学と現代文、英語から出してるよ。レベル一と二が基礎問題。レベル三がちょっと捻った応用問題だよ。でもきっと解けるよ」

「解けなくても秘密バラされるだけだしね。気楽にいきなさい気楽に」

「うるせっ! っていうか母さんはいつまでいるんだよ!」

「まーまー、固いこと言わないの。ほらほらめぐみちゃん、晴彦が問題解いてる間こっちでお話しましょ。え、テスト勉強? 大丈夫よ少しの間くらい。勉強勉強じゃ煮詰まっちゃうしね。それより晴彦のこと……知りたくない?」

「そ、それは……」


 晴彦に模擬テストを受けさせておきながら自分だけ休憩するわけにはいかない、そう思っためぐみだったが、秋穂にコソっと晴彦の情報を引き合いに出されてその決意がグラっと揺らぐ。それに目敏く気付いた秋穂はニヤリと笑ってダメ押しの一言を発する。


「零音ちゃんだけしか知らない昔の晴彦の秘蔵写真とか……見たくない?」

「行きます」


 あえなく陥落するめぐみ。晴彦への申し訳なさも、秋穂の垂らした餌の前では無情にも打ち砕かれた。晴彦の秘蔵写真につられためぐみはホイホイと秋穂について行く。


「それじゃあ晴彦、テスト頑張ってね」

「あぁ……っていうか、井上さんに変なこと言ったりするなよ母さん」

「大丈夫大丈夫。変なこと言ったりしないから」


 写真を見せるだけだから、と小さく晴彦に聞こえないように付け足す秋穂。いい時間潰しになりそうだと内心ほくそ笑む。


「ん? ならいいけど……」

「ご、ごめんね日向君」

「いや、いいよ。井上さんはずっと勉強してたんだし、ちょっと休憩するべきだと思うしさ。それじゃあまた後で」

「テ、テストが終わる頃には戻って来るから」

「あぁ、わかった」


 自分の私欲に負けてしまっためぐみは申し訳なさそうな顔をしつつも秋穂に手を引かれまがら部屋を出て行く。残された晴彦は一人目の前の模擬テストへと取り組むのだった。






□■□■□■□■□■□■□■□■□


一方その頃、雪もまた晴彦とは違う形で追い詰められていた。雪に勉強を教えると言って教科書を片手ににじり寄って来る零音の姿はまるで悪魔を従えるサタンのようであり、僅かな時間の間にジリジリと雪の精神を削っていった。


「この悪魔め……」


 机に突っ伏した状態で雪は小さく呟く、しかしその言葉はしっかりと零音にも届いていた。


「失礼な。こんなに優しく教えてあげてるんだからむしろ天使でしょ?」

「…………」


 そう言って笑う零音の表情は確かに天使のように可愛らしかった。何も知らない者が見ればまさに天使の微笑みであり、もし男子が一度こんな笑顔を向けられようものなら人魚の歌に誘われる船頭達のようにフラフラとついて行ってしまうこと間違いなしだ。

 しかし雪は違う。雪は零音の正体を知っている、その本性を知っている。それでも少しドキドキとしてしまうあたり、零音の笑顔の破壊力は高い。


(いつもこの笑顔向けられて平気でいられる晴彦ってもしかして相当精神強いんじゃねぇか?)


 そんなことを思いつつ雪は運動をした時とはまた別種の疲労を訴える体に鞭を打って無理やり起こす。


「今日のノルマまでまだあと半分ぐらい残ってるけど」

「数学はもう無理……公式公式でもう頭がおかしくなりそうだから」

「情けないなぁ……ヒメ、そっちはどう?」

「えぇ、こちらは順調ですわ零音さん」

「じゅん……ちょう?」


 零音が雪に勉強を教えていたのと同じように姫愛は若葉に勉強を教えていた。順調に教えれたと嬉しそうに笑う姫愛だったのだが、その隣に座る若葉の表情を見て雪は頬を引きつらせる。


「あは……あはは……年号が……年号が頭の中をグールグル……はは……」

「あら椿さん、しっかりしてくださいまし」


 感情の消えた瞳、ハイライトの消えた死んだ瞳で頭上を見上げ続ける若葉。まるで生気を感じられないその様子にこの僅かな時間の間に何をされたのかと雪はゾッとする。


「うん、確かにいい感じだね」

「どこが!?」

「ちょっと疲れてるみたいだけど、あそこまで言ったらちゃんと覚えてると思うよ」

「覚えてるってそれもうトラウマとして刻まれてるだけじゃん!」


 雪はここに来て確信した。零音と姫愛の勉強はどこか人とずれているということに。今さらな話ではあるのだが。教える立場に立った途端にその加減が上手にできない類の人間なのだと。しかしたちが悪いのは、二人とも加減を知らないだけで教えること自体は上手であるということだ。事実、雪も精神を削られはしたものの覚えてはいるのだから。


「委員長……大丈夫?」

「これが大丈夫に見える?」

「見えない」

「ならそういうことよ……まさか、東雲さんがこんなめちゃくちゃな教え方する人だったなんて。予想外だったわ。もしかしてそっちも?」

「まぁ、似たようなもんかな」


 互いに同情の目を向けながら話していた雪と若葉。そんな二人をよそに何事かを話し合っていた零音と姫愛が再び雪達に近づいて来る。

 そして二人は天使のような悪魔の笑顔を浮かべて言うのだ。


「それじゃあ、休憩はこれくらいにして勉強再開しよっか」

「え? いや、今日はもうちょっと……」

「何言ってますの。まだまだこれからですわ。時間はまだありますもの」

「そういう問題じゃなくて、私達の精神の問題というか……」

「うん、わかってるよ。つまり二人は……今度は別教科の勉強がしたいってことだよね」

「「違うからっ!」」

「今度は私が夕森さんに世界史を、零音さんが椿さんに数学を教えますわ」

「頭使った後は暗記系、暗記系の後は頭使ったほうが覚えやすいしね。気分転換にもなるし」


 問答無用と言わんばかりに二人は教科書を手に今度は零音が若葉に、姫愛が雪へと近づいて来る。雪と若葉に逃げ場などあるはずもなく、二人は自分の命は今日ここで終わるのかもしれないと覚悟を決めるのだった。


今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク&コメントしていただけると私の励みになります!

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は9月4日21時を予定しています。

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