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第16話 零音の動揺

ブックマークが100件突破しました!驚きです、衝撃です!嬉しいです!

たくさんの方にこの作品を読んでいただいて感謝です!

これからも精一杯頑張ります!


 私と晴彦は、生まれた病院が一緒だったらしい。私が9月15日で晴彦が9月17日。2日違いで生まれた私達はその縁もあって親同士が仲良くなり、その後引っ越した先が偶然日向家の隣であったそうだ。これはゲームでも語られてない部分だったから普通に驚いた。

 そんなわけでホントに私達は生まれた時から一緒だった。晴彦は覚えてないだろうけど、赤ちゃんの時のことも覚えてる。晴彦が初めて寝返りをうった時のことも知ってるし、初めての離乳食は一緒に食べた。こいつにおしっこをかけられたことまで全て覚えてる。

 子供の時は今よりも理性がきかなくて、喧嘩したこともあった。

 だから、晴彦のことで知らないことはほとんどないと思う。何かに悩んでる時は相談に乗ったし、解決するために手助けしてきた。

 それもこれも、将来晴彦とエンディングを迎えるために必要なことだと思ってたし、そのかいもあって私の存在は晴彦の中で大きいものになっていたと思う。

 そして、それはこれからも変わらない。そう思っていた。






□■□■□■□■□■□■□■□■



「悪い零音。これもって先に行っててくれ!」

「え、ちょっとハル君!?」


 焦った様子の晴彦は私に教科書を預けてそのまま走り去ってしまった。

 いきなりのことに驚いてしまったけど、私も慌てて晴彦を追いかける。

 しかし、曲がり角の先にすでに晴彦の姿はなかった。


「なんだ日向のやつ、なんかあったのか?」


 いきなりのことに驚いているのは私だけではない。

 友澤も、夕森も、井上さんも何事かと後を追ってきていた。


「なんかあったんですか朝道さん」

「ごめん。私もわからないな。ハル君どうしたんだろ」

「でもこのままじゃ授業に遅れちゃうんじゃ……さ、探さなくていいんですか?」


 なんとも真面目な井上さんらしい意見だ。でも、探そうにもどこを探せばいいのかわからない。


「そうだけど、そしたら私達まで遅刻しちゃうよ」

「アタシは別にいいけど」

「何人も遅れるわけにはいかないよ。ハル君も後で戻ってくるだろうし、先に行こ」


 本当は追いかけたいけど、今の状況じゃあまりに無策すぎる。これで晴彦と入れ違いになってもしょうがないし、あとで教室に戻ってきてから聞けばいいだろう。


「そっか、んじゃ行こっか」


 晴彦を探すのを諦めて教室に向かっていると、夕森が近づいてくる。


「ねぇねぇ、レイちゃん」

「どうしたの?」

「ハルっちのことホントに知らないの?」


 先を歩く二人に聞こえないようにか、小さな声で話しかけてきた。ちゃんと『夕森雪』としての口調を崩さないのは周りに人がいるのを警戒してのことだろう。


「うん、知らない。わからないよ」

「……イベントじゃないよね」

「違う……と思う」


 こんなタイミングで起こるイベントは無かったはず。その可能性はちょっと考えたけど、夕森も知らないとなったらその可能性は限りなく低いはずだ。


「だよねぇ。何なんだろ」

「あとで何があったか聞くしかないよ」


 その後、晴彦が戻ってきたのは四限目の授業が始まってからだった。

 戻ってきた晴彦は無言のままで、うつむいていた。

 ん? 何だろ。何か様子が変だな。


「おい日向、何やってたんだ。もう授業始まってるぞ」

「……すいません」

「ったく、次はないからな。さっさと座れ」


 先生に怒られても上の空といった様子の晴彦。

 そのまま席までやってくる。


「ハル君、これ教科書」

「あぁ、ありがと」


 やっぱり反応が薄い。いつもの晴彦とは違う感じだ。

 これがいつもの晴彦なら、もっと焦った様子で教室に入ってくるだろうし、入ってきてすぐに先生に遅れたことを謝るはずなのに。

 教科書を開いた晴彦はそのまま考え事を始めてしまった。

 何があったか聞きたいけど、授業中だし無理か。

 結局晴彦は授業が終わるまで、いや、終わった後もそのままだった。

 ジッと考え事をしたまま動かない。


「なぁ、これもしかして授業終わったのにも気づいてないのか?」

「そうみたい」

「どうするの?」

「みんなは先に帰ってて。私が後で連れてくから」

「え、でも——」


 何かあったのか聞くならこのタイミングの方がいいだろう。

 夕森の方を見て目で合図すると、理解してくれたようで頷いてくれた。


「そんじゃアタシ達は先に戻ろっか。じゃあレイちゃん任せたよ!」


 何かを言おうとした井上さんを夕森が遮り、井上さんと友澤を連れて教室へと戻っていった。

 これでこの教室に残ってるのは私と晴彦の二人だけになった。

 晴彦はまだ考え事をしたままだ。とりあえず声をかけようか。


「ハル君」

「…………」

「ハルくーん」

「…………」


 反応がない。ただの屍のようだ。

 ってやってる場合じゃない。


「…………はぁ」


 あ、ため息ついた。今ならいけるかも。


「ねぇハル君。ハル君ってば!」

「え? あぁ、どうかしたのか?」

 

 少し語気を強めると、ようやく反応があった。


「どうしたもこうしたもないよ。さっきから呼んでるのに全然返事しないから。もうみんな教室に戻ったよ」

「あ、そっか。昼休みか。悪い」


 やっぱりどこか元気がない。原因はもうわかりきってる。絶対にさっき何かあったんだろう。まぁ、その何かはわからないんだけど。


「……ねぇ、どうしたの?」

「どうしたって、何がだよ」

「授業には遅れてくるし、授業中も上の空だし……さっき何かあったの?」


 晴彦が何かに悩んでいるのは珍しいといえば珍しい。だいたい何かあってもそこまで気にしない性格をしてるし。それでも悩むことがないわけじゃないけどさ。そういう時は聞けば教えてくれる。

 だから今回も聞けば答えると思ってたんだけど、


「……いや、何もないよ」

「でも」

「昨日ちょっと夜更かししてさ、眠くなってただけだよ」


 チクリと胸の奥が痛む。しかし私はそのことに気付いていなかった。それ以上に胸を占めていたのは動揺。

 今だけは『朝道零音』として生きていることが役に立った。十数年被り続けている仮面はそう簡単には外れない。

 晴彦は私がそんな嘘に騙されることがないことはわかってるはず。

 しかし、それでも嘘を吐いたということは、それは明確な拒絶だ。

 初めて、晴彦から拒絶された。そのことが私をどうしようもなく動揺させていた。なんでそんなことで私が動揺しているのか、それを考える余裕すらなかった。

 別におかしいことじゃない。ただ嘘を吐いただけ。なにも珍しいことなんかじゃない。必死に自分にそう言い聞かせる。


「……そうなの?」

「あぁ、だからあんまり心配しなくていいって。それよりも教室に戻ろうぜ。昼休みが終わるしな」


 教えて欲しい。そんな思いを込めて晴彦を見ても、返ってくるのは無言の拒否だけだった。

 不意に、晴彦の視線が私の横にずれる。

 好感度ゲージを見てる?


「どうかした?」

「いや、なんでもない。教室に戻るか」


 今度こそ晴彦は教室に向けて歩き出す。

 わかってる。晴彦が話さないってことはその悩みには私が関わっているってことだ。私が関係してるから話したくない。私に迷惑をかけたくないからと。晴彦はそういう人だ。

 でも、それでも……。

 頭では理解しているのに、なぜか納得できない。その理由もわからない。

 私の心には、晴彦に拒絶されたという思いが澱のように残っていた。


零音視点から見た晴彦でしたー。

晴彦の苦悩の裏で、その影響は零音にも及び始めていたのです。


今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

もし気に入っていただけたならブックマークよろしくお願いします! 私に励みになります!

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は8月23日9時を予定しています。




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