第41話 友達=ライバル
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夕方近くなり、零音達は帰宅することになり玄関までやって来ていた……のだが、その直前で零音達は雫に引き留められていた。
「本当にいいの? せっかくなんだからうちで夜ご飯食べて帰ればいいのに」
「さすがにそこまでお世話になるわけには……それに夜ご飯の用意しないといけませんから」
「私もお母さんがもう夜ご飯作ってると思うので」
「アタシは別にどっちでもいいんだけどー。さすがに二人とも帰るのにアタシだけ残るってのもねぇ」
「……そう。それならしょうがないわね。無理強いするわけにもいかないし」
「お嬢様、そんなに残念がらずといも大丈夫ですよ。何も今日でお別れというわけではないのですから。また次の機会があります」
「べ、別に残念がってるわけじゃないわよ! 奏、あなたは黙ってなさい」
「ふふふ、わかりました」
「みんなも奏が言ったことは気にしないで。別に全然残念とか思ってるわけじゃないもの」
そう言う雫だが、実際どう思っているかということは誰の目にもわかるほどだった。
「えーと、今日は無理ですけど、また来るときは夜ご飯をごちそうになってもいいですか? 今度はハル君も一緒に」
「だから別に気にしてないって言ってるのに……でもそうね。それじゃあまた今度は晴彦も呼んで遊びましょうか」
「そだね。でも今度来るときはちょっとは手加減して欲しいなー」
今日一日でトラウマになりそうなほどゲームのやり方を叩き込まれた雪はさすがに疲弊していた。もうしばらくはゲームをしたくないと思っているほどだ。
「では、今日は改めてありがとうございました。今日はホントに楽しかったです」
「えぇ、私もよ。こんなに楽しかったのは本当に久しぶりだったわ。また今度一緒に遊びましょう。まぁ、その前にもうすぐ期末試験があるけどね」
「うぐぁ、期末試験……そのことは思い出したくなかった……」
「私の……そうね、私の友人がテストで赤点なんてことになったら生徒会長として恥ずかしいもの、ちゃんと勉強はしておくことね」
「そうですね。私がちゃんと勉強させます」
「えっ!?」
「雪が赤点を取ることのないように、それはもう厳しくビシバシとやっておきます」
「そういえば朝道さんは成績良かったわね。それなら安心できそうね」
「いやいやいやいやいや! アタシは全然安心できないんだけど!」
「大丈夫だよ雪ちゃん。零音ちゃん優しいから。今度はきっと優しく教えてくれるよ」
「それ希望的観測すぎない? めぐちゃんは勉強できるからそれでいいかもしれないけど、下手したら今日の先輩のゲームと同じくらいあれトラウマだから!」
中間テストの時の勉強会を思い出し、ブルっと身震いする雪。いまだに夢に見るほどに厳しい勉強会だったのだ。それがもう一度などたまったものではない。
「それじゃあ、今日はこの辺で」
「えぇ、また今度。何かあったらいつでも生徒会室にいらっしゃい」
「はい。ありがとうございます」
「あ、あの。今日はありがとうございました。その、とても楽しかったです」
「そう言ってくれると嬉しいわ。今度は一対一で勝負しましょう」
「はい!」
「うぅ、勉強会やだよぉ」
「そんなに嫌なら私が教えてあげてもいいわよ?」
「え、マジ? いや、でもそれもいいや。なんか先輩はレイちゃんと同じ匂いがする」
「そう? なら自分で努力することね」
「……ねぇ」
それぞれと言葉を交わした後、今度こそ帰ろうとした零音達をそれまでずっと黙っていた霞美が呼び止めた。零音達が振り返ると、霞美が何かを言おうとしている姿が目に入る。
どうしたんだろうかと首を傾げる零音達の中で、奏だけが霞美が言おうとしていることに気付いたのかふふっと笑う。
言おうとしては口を閉じ、言おうとしては口を閉じを何度も繰り返し、しかしやがて腹を括ったのか、キッと目つきを鋭くして零音達のことを見る。
「その……悪かったわよ。それだけ。じゃあ、私先に戻ってるから」
零音達の返事を聞くこともなく、そそくさと霞美は屋敷の中へと戻ってしまう。残された零音達はポカンとするしかない。
「まぁまぁ赤点すれすれといったところでしょうか」
「なんだったの?」
「それは私の口から語ることではありません。あくまで霞美自身が皆様に告げなければいけないことです。その一歩を踏み出せたということだけ認識しておいていただければ」
「……わかりました」
そして零音達は雫と奏に見送られ、今度こそ帰路に着いた零音達。零音達三人は駅まで一緒に帰ることになった。
「いやー、今日は大変だったね」
「大変だったは雪だけだと思うけど」
「私は楽しかったよ」
「そりゃアタシだって楽しかったけどさー。それ以上に先輩のあのしごきが……思い出しただけでもトラウマものなんだけど」
「私の勉強会に続いてまたトラウマが増えたんだ」
「あはは、そのうちトラウマだらけになって何もできなくなったりして……なんて笑えないよ!」
「自分で言って自分でツッコまないでよ」
「私、こういう風に休日に友達と過ごすのとか憧れてたから……今日はホントに、すっごく楽しかった。これも零音ちゃん達のおかげだよ!」
そう言って笑うめぐみは本当に心の底から嬉しそうで、その笑顔を見た零音達もつられて思わず笑顔になってしまう。
「私達のおかげなんかじゃない。めぐみがいたからこそだよ」
「そーそー、めぐちゃんがいなかったら今日という日はなかったかもしれない……なーんてね、でも感謝してるのはアタシ達も一緒だよ。まさかこんなことになるなんて今年の四月ごろは思ってもなかったし」
「……そうだね。めぐみがいなかったらきっと……こんな風に笑えてなかったかも」
「うぅ、そこまで言われるとちょっと恥ずかしいよぉ」
「ま、だからって二人にハルっちは渡さないけどね!」
「雪……今それ言う? まぁ、そこに関しては私も同じ気持ちだけど」
「…………ふふっ」
零音と雪が笑い合いながら挑発し合ってると、その隣でめぐみが突然笑い出す。
「どうしたのめぐみ急に笑い出して」
「なんか面白いことでもあった?」
「ううん、ごめんね。でもちょっと嬉しくて」
「「嬉しい?」」
「その、私達は友達で」
「うん」
「でも同じ人が好きなわけで……」
「そうだね」
「だから私達は友達で、恋敵ってことだよね」
「まぁそうなる……のかな? うん、そうだね」
「だからこの状況は、友達と書いてライバルと読むって奴だよ!」
「「………は?」」
突然目をキラキラと輝かせて力説し出しためぐみに、零音と雪は揃ってぽかんとした表情を浮かべる。しかしめぐみはそれに気づくこともなく、上がったテンションそのままに話し続ける。
「私、昔から本でよくあるこういう状況にずっと憧れてて。友達だけどライバル同士みたいなそういうの大好きで……あぁまさかでも自分がそんな状況に置かれることになるなんてまるで夢みたい! 楽しむっていうのもちょっと違う気がするけど、でもでも興奮しちゃう気持ちは抑えられないっていうか……って、二人ともどうしたの?」
めぐみが力説していると、二人があからさまにニヤニヤとした表情で見てきていることに気付く。やがて二人も堪えきれないといった様子で笑い出す。
「……ふふ、あはははは!」
「あはははは! だって急に何言い出すかと思ったら……友達と書いてライバルって……あははははは!」
「そ、そんなに笑わなくても……私変なこと言ったかなぁ」
「……ふふ、ごめんねめぐみ。馬鹿にして笑ってるんじゃないの」
「そーそー。いつもあんまり主張しないめぐちゃんが急に言い出したからびっくりしちゃっただけで。うんそうだね友達か。いいんじゃないかな。アタシは気に入ったよ」
「うん、私も。そうだね。私達は確かに友達だね」
「だよね、そうだよね!」
「それじゃあこれからアタシ達は友達として切磋琢磨しないといけないってわけね」
「先輩も含めて……ね」
「うん!」
そして友達になった零音達は心底楽しそうに笑い合いながら、夕暮れに染まりつつある街を歩いて駅まで向かうのだった。
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次回投稿は7月27日21時を予定しています。