第40話 お互いを知るために
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
「その……なんかごめん」
恋愛の話になった途端に急にスイッチの入った霞美は、しばらくしてから正気を取り戻し。ソファの隅に縮こまって座っていた。零音達にはあまり関わらないようにしたいと思っていたのにこの様だ。そんな自分のことが情けないやら、どの口が恋愛のことを語っているのやらと色んな感情がないまぜになって今までにないほど霞美はへこんでいた。
「ううん、確かに驚いたけど……でも霞美があんなに恋愛について熱いとは思ってなかったかな」
「ホントホント、急に語りだして「復唱!」とか言うんだもん。びっくりしちゃった」
「あぁ……もう! そのことは言わないでってば!」
「でも話してた内容自体は納得させられるものも多かったね。めぐみもそう思うでしょ?」
「う、うん。私、恋愛とか本でしか知らないから、勉強になったよ」
「悲しいことにここにいるのは恋愛経験のない四人だものね」
「ホントに悲しくなるんでそれをここで言わないでください」
「あはは……」
零音も雫もこの世界ではもちろんのこと、元の世界でも恋愛経験など全くありはしなかった。零音の場合はちょっとイイ感じかなーと思ったとしてもその子はだいたい零音の親友だった冬也のことを好きになってしまうのだから。雫の場合は少し事情は違う、元の世界でも名家の生まれだった雫に言い寄って来る女性は少なからずいたものの、その人達はほとんど雫自身ではなくお金や家が目的だった。そんな人ばかりで恋愛など考えられるわけがなかったのだ。
めぐみは言わずもがなだ。子供の頃から本、本、本、という生活を送ってきたせいで恋愛は空想上のものでしかなく、自分が恋をするなど晴彦と出会うまで考えもしたことがなkった。
しかし、一人だけ全く違う反応をする者がいた。
「ちょっと、アタシまで勝手に一緒にしないでよ」
「「「えぇっ!」」」
「な、なんでそんなに驚くわけ?」
「雪……今自分が何言ったかわかってる?」
「何って、だからアタシまで恋愛経験がないことにしないで……って、あ! ち、違うから! 違うからね! この世界での話じゃないから! 元の世界での話だから! 晴彦以外の男とかマジで興味ないし!」
自分に発現が他の三人にどのようにとられたのかということを理解し、慌てて否定する雪。その誤解だけはなんとしても訂正しておきたかった。
「さ、さすがにそうだよね。それでもちょっと驚いたけど」
「あなたは元の世界でもリア充だったというわけね」
「いやー、そうとも言い切れないけどさ。恋愛経験あるとは言ったけど、何人か告白してきた人と付き合ったことがあるってだけだし。どれも長続きはしなかったけどね」
「それでも十分じゃない」
「リア充爆発しろ」
「む、昔の話だからいいじゃん。はい、もうこの話終わり! って、どうしたのめぐちゃん、何か考え込んでるけど」
「あ、いやその……」
気になることはあるけど言い出しにくい、そんな表情でめぐみがパクパクと口を動かす。
「大丈夫だよめぐみ。私達何を聞かれても気にしないから。今さらだしね」
「零音ちゃん……あの、そのね。さっきの話聞いてて思ったんだけど、零音ちゃん達って元々全員男だった……んでしょ?」
「うん、そうだよ。前にもちょっとだけ話したと思うけど」
霞美の事件の後、零音達は巻き込んでしまった霞美に自分達の事情について大雑把に説明していた。最初に話を聞いた時はそれはもうそれはもう驚いためぐみだったが、普段から様々なジャンルの本を読んでる影響か、受け入れるまでにそれほど時間はかからなかった。
「それでその……」
そこで一瞬言葉を詰まらせるめぐみ。言葉が出てこないというよりは、聞きたいことがいっぱいありすぎて、でも聞いていいのかわからなくて困ってると言った様子だ。少しの空白の後、めぐみは意を決したように口を開く。
「その、みんなが日向君のことを好きなのは知ってるんだけど、女の子が気になったりしたことってないの?」
「それは……ねぇ」
「うん」
「そうね」
めぐみの質問を受けた三人は顔を見合わせて頷く。それに関しては答えはもう決まっているようなものだった。
「ないかな」
「ないね」
「ないわね」
「え? そうなの?」
「まぁ確かに私達は元男だったわけだけど……正直言っちゃえば私はそんなこと気にしてる余裕もなかったし」
「自分の体の変化に慣れるのに必死だったしねぇ」
「役得だと思ったことはあるけどね。その程度のものよ」
「そういうものなんですね」
「思っていた返答と違ったかしら?」
「あ、もしかしてめぐちゃんてばアタシ達がめぐちゃんを不埒な目で見るんじゃないかとか心配してるわけ?」
「え……そうなのめぐみ?」
「ち、ちちち違う、違うから、違いますぅ! ホントに、ホントに違いますからぁ!」
零音に悲しそうな目で見つめられためぐみは目を白黒させ、顔を真っ赤にしながら慌てて否定する。もちろんめぐみはそんな意図があって質問したわけじゃない。そしてもちろん零音達もそんなことはわかっている。わかっていてからかっているのだ。
そんなめぐみの反応を見た零音達は笑いをこらえ切れずに吹き出してしまう。
「……ぷっ、あははは! めぐちゃん慌てすぎ!」
「あはは、ごめんねめぐみ」
「……っ、も、もぅ! 酷いよぉ」
「だってめぐちゃん面白いんだもん。赤くなったり青くなったりあわあわ慌てたり。ほんとめぐちゃんって反応いいよね」
「そういえば、井上さんの話を聞いていてふと気になったのだけれど……霞美、あなたはどうなの?」
「……んぇ? 何が?」
自分のらしくない姿をさらしたことに現実逃避を続けていた霞美が、雫に話を振られたことで現実に戻って来る。その目はまだ若干死んだままだったが。
「だから、あなたは元の世界での話。『アメノシルベ』を作った作者だとかその辺は聞いたけれど、どういう生活をしてたの?」
「…………」
雫がそう問いかけると、霞美はあからさまに嫌そうな顔をする。
「話したくないの?」
「嫌に決まってるでしょ。元の世界のことが嫌いだから私はこの世界にいるんだから」
「……そう。それは悪かったわね」
「別に、気にしてないけど……」
「それでかすみんは元の世界ではどんな人だったの?」
「嫌だから話すの嫌だって言ってんじゃない、わかんないの!」
「わかってるから聞いてんじゃん」
「性格悪っ!」
「知ってるよーだ。先輩みたいな陰キャ男だったの?」
「違うから!」
「さらっと私のことまでバカにしたわねあなた」
「とにかく、私元の世界のこと話す気はないから。そっちの二人も聞き耳立てても無駄だからね」
「あ、バレた」
「バレるに決まってるでしょ。まったく、人のことなんて気にしてないで自分のことだけ考えてればいいのに」
「そりゃ気になるよ」
「……なんでよ」
「霞美のことを知りたいから」
「私のことを?」
「私達はお互いのことを知らなさ過ぎたから。めぐみにゲームの才能があるのも知らなかったし、先輩があんなに負けず嫌いなのも知らなかった。雪がちゃらんぽらんなのはいつものことだけど、いつもと違う一面は見れた。今こうして話してるのも私達自身のことを知るため。だから私は霞美のことも知りたり。知ったらきっと私達は今よりも前に進めるから」
「…………ふん、ばっかみたい。何が知りたいよ。知らない方がいいことだって世の中にはあるのに」
「そうかもね。でも……きっと後悔はしない。だから、今じゃなくてもいいから、いつか……いつかきっと霞美の話も聞かせて欲しいって思うのは……ダメかな?」
そう言った零音の目は真剣で、優しくて。霞美を見る目に一抹の嫌悪すら混じっていなかった。そしてそれは他の三人も同じだった。その目がどうしようもなく霞美の心をかき乱して、わけのわからない感情が胸中に湧きおこって。その気持ちから目を逸らすように霞美が零音から顔を背ける。
「……考えとく。それじゃあもうホントに私仕事に戻るから」
そそくさと部屋から出て行った零音達は、揃って顔を見合わせて苦笑する。
「かすみんも素直じゃないねぇ」
「まだ警戒をとけというには早すぎるのよ」
「で、でもきっといつかわかってくれますよ」
「……そうだね。だといいな」
「さぁ、私達もまだ時間があることだし。話すのもいいけど他の遊びもしましょうか」
「お、いいねぇ。他の遊びって何があるの?」
「『メイジカート』とか『貝乱闘大戦』だけど」
「全部ゲームじゃん!?」
「ごめんなさい、私陰キャだから。遊べるようなものをゲームしか持ってないのよ」
「根に持ってる、さっき言ったこと根に持ってるよこの人!」
「そんなことないわ。さぁそれじゃあゲームをしましょう。大丈夫、私が優しく教えてあげるから」
「目が笑ってない、笑ってないよ先輩! 助けてレイちゃん! めぐちゃん!」
「私とめぐみはもう少し休憩してますね」
「……」
雫に連れていかれそうになり、とっさに零音とめぐみに助けを求める雪。しかし現実は非情だった。零音は雪の言葉を無視し、めぐみはツイっと視線を横に逸らした。この場に雪を助ける者はいなかった。
「ノォオオオオオオッ!!」
それから帰るまでの間、零音達は喋ったりゲームしたりと思い思いの時間を過ごしたのだった。
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次回投稿は7月24日21時を予定しています。