第15話 晴彦の憂鬱
今回も晴彦メインのお話でございます。
もっと字数を増やして、内容を濃くしていきたいですね。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
「卒業までに彼女できなかったら、君、死ぬから」
「…………は?」
今なんて言った?
死ぬ? 俺が?
「おいそれどういうことだよ!」
「正確には殺される、かな」
「だからそれってどういうことなんだって!」
「彼女ができなかったら殺される。それだけの話。嫌なら頑張って彼女達を攻略、することね」
それだけ言うと、夜野さんの姿が風にさらわれるようにして消える。
「じゃあね」
「おい、ちょっと待て!」
屋上には最早俺以外の姿はない。そして、直後に授業の開始を告げるベルが鳴る。
「……くそっ」
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「…………はぁ」
四限目の授業が終わった。もっとも、ほとんど身が入らなかったけどな。
夜野さん、いや夜野と会ってわかったこともあった。でも、それ以上にわからないことが増えた。
何で彼女ができなかったら殺されるのか。誰に殺されるのか。そもそも世界の意思ってなんだよとか。まぁそれは狐の時点で今さらかもしれないけど。
ダメだ。頭の中がこんがらがる。まともに考えられない。
「ねぇハル君。ハル君ってば!」
「え? あぁ、どうかしたのか?」
「どうしたもこうしたもないよ。さっきから呼んでるのに全然返事しないから。もうみんな教室に戻ったよ」
「あ、そっか。昼休みか。悪い」
「……ねぇ、どうしたの?」
「どうしたって、何がだよ」
「授業には遅れてくるし、授業中も上の空だし……さっき何かあったの?」
零音が心配そうな顔で訪ねてくる。……言ってしまった方がいいのか?
でも何から言えばいい。狐の話も、彼女ができなかったら殺される話も荒唐無稽すぎる。
それに何よりも、零音にいらない心配をかけたくない。
「……いや、何もないよ」
「でも」
「昨日ちょっと夜更かししてさ、眠くなってただけだよ」
「……そうなの?」
「あぁ、だからあんまり心配しなくていいって。それより教室に戻ろうぜ。昼休みが終わるしな」
何かを言いたげな零音。俺の嘘はわかってるだろう。でも、それ以上話を追及してくることはない。
ふと、零音の横に映る好感度に目を向ける。そこに映る数値は『68』。見えるようになった時から変わってない。
夜野の話を信じるなら、零音は俺の運命の相手の一人ってことになる。まぁ、幼なじみだし。物心ついた頃からずっと一緒だし。確かに運命の相手って言えるかもな。
入学式の時に零音も言ってたけど、俺と零音には縁もあるみたいだしな。
「どうかした?」
「いや、なんでもない。教室に戻るか」
でもだからこそ、俺のことで零音に迷惑はかけたくない。
少なくとも、今はまだ何もいうべきじゃないだろう。
俺達が教室に戻ると雪さんや友澤が待っていた。
「ねぇ、ハルっち大丈夫? さっきなんか変だったけど」
「あぁ、大丈夫だよ。心配かけてごめん」
「大丈夫ならいいんだけどさ」
雪さんは高校に入ってできた友達だ。入学式の時の一件がなかったらここまで話すようになってたかどうかはわからない。あの時に俺と雪さんの間に縁ができたとでもいうんだろうか。
「あ、そういえば今日は生徒会長と一緒に食べるって言ってたんだっけ。ごめん、俺行ってくるよ」
「あ、うん。はいこれ、お弁当」
珍しい。いつもなら少し渋るのに。まぁもう何回か行ってるし、そんなに気にしなくなったんだろうか。
「でも早く戻ってきてね。あんまり遅くなるようなら迎えに行くから。次の時間、ハル君たぶん当てられるし、勉強しといた方がいいでしょ」
「あ、そうだった。アタシも危ないんだ。ねぇねぇレイちゃん。アタシにも教えてね」
「うん、いいよ」
「俺も後で頼むな。それじゃ」
「行ってらっしゃい」
零音達に見送られて生徒会室へ向かう。
少し遅れてるし、走って行った方がいいだろう。
なんていうか、さっきから移動してばっかだな。
移動中にも頭をよぎるのは、さっきの話ばかりだ。今考えてもしょうがないことだとわかっているけど、頭から離れない。
「すいません、遅れました」
「少し遅かったみたいだけど、何かあったのかしら」
「四限目が移動教室だったんです」
「そうだったの。ごめんなさいね。無理に来させたみたいで」
「いえ、全然いいですよ」
生徒会長の昼ヶ谷先輩。部活動紹介の時に出会った。その後、職員室での再会があって、なぜか友人になった。話を聞いてる限り先輩は友達が少ないみたいだ。なんでかは知らないけど。先輩は色んなことを教えてくれるし、話も面白い。最近ではちょっとした冗談なんかも言ってくれるようになった。わかりづらいけどさ。
そんな先輩も俺の運命の人ってことらしい。正直、俺には高嶺の花すぎる気がするけど。世界はいったい何を基準に選んでるんだろうか。
「どうかしたの?」
「え」
「お箸も進んでいないようだし。さっきから何か考え事……いえ、何か悩んでいるようだったから」
「あ、すいません」
「別に怒ってるわけじゃないわ。もし私でよかったら話を聞くわよ?」
「いえ、大丈夫です」
「私じゃ頼りないかしら?」
「そういうわけじゃないんです。でも……これは、自分で考えるべきことだと思うので」
「……そう。なら、無理には聞かないわ。でも、話したくなったらいつでも話してちょうだいね。私達は友人なのだし」
「そうですね。そうします」
結局、俺はまた心配をさせてしまったみたいだ。なにしてんだか。
ホントなら相談するべきなのかもしれないけど、零音や雪さん、先輩には話しにくいしな。友澤あたりにでもさりげなく相談してみようかな。
まぁ、とにかく今は先輩とのご飯に集中しよう。
「そういえば、日向君のゴールデンウィークの予定は決まったのかしら?」
「いえ、まだですね」
「そう。前にも言ったけど、もし予定が空いてるようならいつでも連絡して頂戴」
「大丈夫なんですか?」
「何のことかしら?」
「先輩、校外学習の準備で忙しかったりとか」
「あぁ、それなら大丈夫よ。もうほとんど終わってるもの」
「そうなんですね。じゃあ、また時間ができたら連絡します」
「えぇ、待ってるわ」
ゴールデンウィークか……どうするべきなんだろうな。ここでの行動がこの先に影響を与えるかもしれないわけだ。何もしないのは良くないのかもしれないけどさ。
あーもう、ダメだ。いきなり考えることが増えて頭が痛くなってきた。
でもとりあえずは放課後だ。もう一度、夜野を探してみよう。もしかしたらいるかもしれない。
いや、絶対に見つけないといけないんだ。
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まぁ、それで簡単に見つかるわけがないんだけどさ。
「どこにいるんだよ」
放課後、零音には用事があるからといって先に帰ってもらい、俺は夜野を探していた。一番最初に会った場所、今日会った場所。他にもいそうな場所は探したけど見つからなかった。そもそも、この学校の制服を着てはいたけど、本当にうちの学生なのかどうかもわからない。
「はぁ、せめて手掛かりでもあればいいんだけどな」
何の手掛かりもなしに見つけるほうが難しいのかもしれない。
「何か知ってる人とかいないかな」
「あれ、日向君?」
次に探す場所を考えていたら、突然声を掛けられた。聞き覚えのある声。
「……井上さん」
「ど、どうしたのこんなところで。朝道さんと帰ったんじゃ……」
「いや、ちょっと探し物しててさ。零音は先に帰ったよ」
「そうなんだ」
「井上さんは?」
「わ、わたしは、図書室に行ってて、借りたい本があったの」
本か。もしかしたら、この学校の伝説についての本とかもあったりするかな。
そうだ、その方向で探してみよう。
「井上さん」
「は、はい!」
「ちょっと……話を聞いてもらっていいかな」
この何気ない決断が、後に引き起こす出来事をこの時の俺は知らなかった。まだ気づいていなかった。
俺の行く末を示すように、空には暗い雲がかかり始めていた。
ラストに出会った晴彦と井上さん。そして露骨な伏線。いつ回収されるのかはわからない!
いや、嘘ですけどね。ちゃんと回収します。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
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それではまた次回もよろしくお願いします!
次回投稿は8月22日9時を予定しています。