第39話 恋愛伝道師霞美
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『ぷちぷちドロリス』の勝負が終わった後、思った以上に疲弊していた零音達は小休止も兼ねて紅茶タイムに入っていた。
「久しぶりにあんなにいい勝負をしたわ」
「アタシもー。スポーツなら負ける気しないけど、やっぱりゲームって難しいね」
「私もハル君以外の人と一緒にゲームしたのは久しぶりな気がします」
「わ、私はゲームするの事態がほとんど初めてで……すごく楽しかったです」
「ふふ、いいじゃない。その調子でこちらの領域に落ちてきなさい。歓迎するわよ。あなたの才能は素晴らしいものがあったわけだし」
「人の友達をゲームの道に引き込もうとしないでください」
「そうだよ。めぐちゃんまで先輩みたいになったら責任とれるの?」
めぐみの才能に惚れ込んだ雫は、めぐみを自身と同じゲームの道に引き込もうとするが、隣に座っていた零音と雪がそれを拒否する。
「まぁもちろん無理にとは言わないわ。興味が出たらいつでも連絡して頂戴。あと朝道さん、そんなに心配しなくてもあなたの友達を盗ったりしないわよ」
「べ、別にそんな心配してるわけじゃ……ただめぐみが先輩みたいになったら嫌なだけです」
「素直じゃないわね」
「ホントは先輩にめぐちゃんとられたくないだけのくせにー」
「ち、違うってば!」
ニヤニヤとからかうように言ってくる雫と雪に対して、顔を真っ赤にして否定する零音。その反応が零音の気持ちを何よりも如実に表していた。
「……あの、どうして私までこの空間にいないといけないの?」
わいわいきゃっきゃと話し続ける零音達の間に割って入る霞美。そう、ゲームが終わった後、零音達に紅茶とお菓子の追加を渡そうとした霞美だったのだが、雫に引き留められてこの場に残ることになったのだ。
「私まだ仕事残ってるんだけど」
「あなたの主である私よりも優先するべき仕事なんてないでしょ。私がここにいろといったらそれがあなたの仕事になるのよ。後でちゃんと奏にも言っておくから安心しなさいな」
「いやでも……」
「まぁまぁいいじゃん。大っぴらに仕事サボれるんだから儲けもんでしょ」
「そういう問題じゃないんだけど……」
そもそも霞美としては零音達と一緒にいるということ自体が嫌だったのだが、零音達はそんな霞美の心情など気付いていないかのように霞美のことを逃がそうとしない。
「ちょうどいい機会だし、このメンバーでしかできない話でもしましょうか」
「このメンバーでしかできない話?」
「あるじゃない、私達に共通する話題が一つ」
「日向君のことですか?」
「その通り。大なり小なり晴彦に好意を抱いてるもの同士、たまには腹割って話しましょうってことよ」
「ちょっと待ちなさいよ!」
「何かしら?」
「日向晴彦に好意を抱いてるって、勝手にそっちに分類しないでよ!」
勝手に好意を抱いてることにされてはたまらないと霞美が声を上げる。零音達が晴彦に好意を抱いていることはもちろん把握している。しかし霞美は違う。霞美のとって晴彦は自分が作ったゲームの主人公でしかなく、それ以上でもそれ以下でもないのだから。
「あんな優柔不断でなよなよしい奴のことなんて好きになるわけないでしょ! 変なこと言わないでよ!」
「は?」
「え?」
「ん?」
「……」
霞美がそう言った瞬間、四人の目がスッと細くなる。凍るような殺気が霞美の肌を刺す。思わず喉を引きつらせる霞美。
「聞き間違いかしら」
「きっとそうだよねー」
「まさかハル君のこと悪く言うはずないもんね」
「…………」
「いや、あの……ごめんなさい。あと無言は止めて、怖いから」
何気に一番怖い雰囲気を出しているのが黙ったままのめぐみだった。そんな四人の迫力に押された霞美は思わず謝ってしまう。
「まぁ、冗談はさておき。霞美は本当に晴彦のこと好きじゃないのよね」
「だからそうだって言ってるじゃない」
「こっちとしては助かる話だけどね、これ以上ハルっちの競争倍率は増やしたくないし」
「私は今でも十分多いと思うけどね。ハル君を好きなのは私だけでいいのに」
「わ、私はそのぅ……ふ、深くは言わないでおきます」
「私に、雪に先輩にめぐみに……そして姫愛」
「先輩達の中にも怪しい人いるよねー、双葉先輩だっけ?」
「それだけじゃないわ。最近は花音も……私の後輩とも仲良くしてるみたいだし……」
「日向君優しいですからねー」
はぁ、と揃ってため息を吐く四人。零音達のあずかり知らぬ所でドンドンと広がる晴彦を取り巻く輪をどうすることもできないのだから。
「なんでハル君をあんな性格にしたのよ霞美」
「いやそこで私を責められても……というか、ゲームの晴彦は確かに私が設定した性格だけど、今の晴彦の性格は小さい頃から一緒にいた零音の影響が大きいと思うんだけど。私が設定した以上にお人好しな性格になってるし」
「そんなこと言われても。私は『朝道零音』として生きてきただけだし」
「っていうかさっき零音達にも言った気がするけどさそんなに日向晴彦のことが好きならさっさと告白すればいいじゃん。何をそんなに気にしてるわけ?」
「それはその……」
霞美に言われた零音達はそっと目を逸らす。
「今はそのタイミングじゃないっていうか……」
「そうそう、急に告白とか変な感じだし」
「晴彦が私のことをどう思ってるかもわからなわけだし」
「こ、ここここ告白なんて、そんな、とてもとても……」
告白、という直接的な言葉が出てきた途端に引け腰になる四人。それを見た霞美が机をバンッと叩いて立ち上がる。
「甘いこと言ってんじゃないわよ! あなた達恋愛を舐めてるの!」
「か、霞美?」
「いい、恋愛ってのは仲良しこよしで進めるもんじゃないの。よーいドンで始めるレースじゃないの! 常に早い者勝ち、ルール無用、相手の心を奪ったものだけが正義! それが恋愛なの! そうやってグズグズしてるしてるうちに、虎視眈々と晴彦を狙ってる奴はあなた達と距離を離して、晴彦の心に近づいてるのよ! わかってるの!!」
「「「「ご、ごめんなさい……」」」」
突然気迫に満ちた表情で語り始めた霞美に気圧される四人。
「恋愛は勝ったものが正義! 復唱!」
「「「「れ、恋愛は勝った者が正義」」」」
「声が小さい! もう一回!」
「「「「恋愛は勝った者が正義!」」」」
急にスイッチの入った霞美による恋愛談義はそれからしばらく続いたのだった。
元シナリオライター霞美は恋愛ガチ勢。
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次回投稿は7月20日21時を予定しています。