第38話 零音&めぐみvs雫&雪
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
「はぁ、めんどくさ」
奏に渡された追加のお菓子も持ち、霞美は雫の部屋へと向かっていた。正直に言ってしまえばいくら仕事であるとはいえ、零音達に会うのは嫌だったのだ。今さらどんな顔をして零音達と接しろというのか。先ほど飲み物を持って行った時には努めて平静を装ったものの、その胸中は複雑だった。
霞美と話す零音達の様子はどこまでも普通で、変わりなくて、それが霞美には理解できなかった。いっそ顔など見たくないと責められた方がどれだけ楽だったか。
「その辺がわかって私に行かせるんだから奏ってやっぱり性格悪い」
奏が何を望んでいるのか。それは霞美にだってわかっている。それでも一歩踏み出せないのは、霞美に勇気が無いせいだ。
「今さらどの面さげて言えってのよ」
ふん、と一つ鼻を鳴らした霞美はさっさとお菓子だけ置いて戻ろうと決めて雫の部屋のドアをノックする。しかし、どれほど待っても返事はない。
「?」
霞美が再度ノックするが返事はなし。不審に思った霞美がドアを開けると、そこにはいまだかつて見たことがないほどに真剣な表情でゲーム画面を見つめている零音達の姿があった。
「あー、なんだ。ゲームに集中してたのね」
零音達は真剣にゲーム画面を見ていて、霞美が部屋に入って来たことにすら気付いていない。さすがにゲームの邪魔をするのはよくないと思った霞美はそっとお菓子を置いて出て行こうとするが、つい少しだけ気になってゲーム画面に目をやる。そこにはある意味衝撃的な光景が広がっていた。
「できました十二連鎖です!」
「めぐちゃんのそれは読めてるよ!」
「その程度で沈めれると思わないことね」
「それだけじゃないですよ先輩! 追加の十連鎖です!」
目の前で繰り広げられるのはとてつもない勢いでくみ上げられる『ぷちぷち』と『ドロリス』。霞美も元の世界でプレイしたことがあるからこそわかる、目の前で繰り広げられるのが高度なプレイであるということが。
「うわ、十二連鎖から十連鎖でしかもそれを相殺とか。どんなエグいプレイングしてるのよ」
繰り広げられる激しい攻防、一つのミスも許されない状況だ。しかし、一見すれば互角に見える攻防だが、趨勢は徐々に雫と雪へと傾いていた。
「アタシのデータドロリスの前にはいくら連鎖したって無力なんだよ!」
「夕森さんのデータドロリスと私の音速ドロリスの前には連鎖の力は無力なのよ」
「くっ……このままじゃ」
「零音ちゃんっ」
「落ち着いてめぐみ、慌てたらそれこそあっちの思うつぼ。私達は私達のプレイングを続ければいいの。いつか必ず勝機はある」
「う、うん!」
徐々に零音達を追い詰めていく雫と雪。焦っては良くないと理解しつつも押されている現状に零音もめぐみも少しずつ余裕を失っていく。
そんな切羽詰まっていく二人の様子を見ていた霞美は、
「いや、なんでそんなガチなの?」
あまりにも真剣すぎる四人い若干引いていた。今の零音達はまるで命のやり取りをしているかのような真剣さすら醸し出している。しかし霞美のそんな疑問に答えるものはこの場にはいない。
「その調子でいつまで粘れるかしらね。もういっそ楽になってしまった方がいいんじゃないかしら?」
「まだまだ、諦めるには早いんですよ!」
「そうやっていつまで粋がれるかな? 二人の勝率は刻一刻と下がってる。もう二人の勝率は30%をきったよ」
「逆に言えば、まだ勝てる可能性が30%もあるっていうこと。それなら私達が諦める理由にはならない! めぐみ!」
「うん、できてるよ!」
「いくわよ、私達の十連鎖ダブル!」
攻めてくる雫達の隙を見て作りあげた零音とめぐみの十連鎖。この戦いの中において、めぐみが才能を見せたように零音もまた成長していた。それまでは七連鎖をするのが限界だった零音だったが、狙って十連鎖まで組めるようになっていたのだ。
「夕森さん、わかってるわね」
「もち! 絶望を教えてあげるよ」
しかし、零音とめぐみの渾身の連鎖も雫と雪には通用しなかった。二人の動きを読んでいた雫達が相殺していく。
「そんな、これさえも通らないなんて」
「ふふん、二人の勝率がさらに下がったね」
「零音ちゃん、これ以上はもう……」
「まだよ。二人の勝率はゼロになってない。それなら私は攻撃の手を緩めない。絶望を知りなさい」
雫は相殺するだけでなく、さらに追撃の手を加える。レンからのT-スピン。絶え間ないコンボが零音達に襲い掛かる。
先ほどの連鎖に全力を注いでいた零音達は反撃する手段を講じることができておらず、追い詰められてしまう。
「終わりよ」
いよいよ終焉を迎える……かに思われたが、そうはならなかった。
「まだ……まだ終わってない! 少しでも可能性があるのなら、私は諦めない!」
「零音ちゃん……」
「めぐみ、私達の一時間の練習はこんなものじゃない。まだ先がある。もっともっと強く、私達は先へ行ける!」
「……うん!」
その瞬間、諦めなかった二人に奇跡が舞い降りた。
「これは……まさか!」
「そんな……こんなのはデータに無いよ!」
零音とめぐみの動きが明らかに変わる。それまでよりも格段に速く、そう、まるで呼応しあっているかのように。
「これは……【共鳴】!」
「『ぷちぷちドロリス』のチーム戦においてのみ起こるっていう奇跡の……まさか二人がその領域にまで足を踏み入れるなんて」
驚愕に目を見開く雫と雪。そうしている間にも零音達はお邪魔を消し、反撃へと転じようとしてた。
「いや【共鳴】ってなんなのさ。そんな常識みたいに言われても困るんだけど」
その場で唯一雰囲気に呑まれることなく平静を保っている霞美には困惑しかない。しかしそんな霞美を放って状況は進んで行く。
零音とめぐみが【共鳴】状態に入ったことで再び状況は五分五分に戻った。連鎖をすれば相殺し、レンやT-スピンで仕掛ければ相殺する。まさに死力を尽くした攻防。お互いに一歩も引かぬ殴り合いだ。
「あ、しまっ……」
極限の集中状態の中、さきに集中が崩れたのは雪だった。一時間という短い時間の中での過酷な練習、それは少なからず雪にダメージを与えていた。そのダメージが今になって表面上に現れてしまったのだ。しかし、限界を迎えたのは雪だけではなかった。
「……あっ!」
雪とほぼタイミングを同じくしてミスしてしまったのはめぐみだ。連鎖に失敗してはならないという緊張感の中、零音との【共鳴】まで発動させるほどのポテンシャルを見せためぐみだったが、やはり経験が足りなかった。一瞬の判断ミス。それが今この場置いては致命的なミスとなる。
ほとんど同タイミングで落ちる雪とめぐみ。残るのは雫と零音だけになってしまった。
「頼りの井上さんも失い、残るのはあなただけ。勝負あったわね」
「いいえ、私は、私達はまだ終わってない!」
「何を言って……っ!」
言葉の途中で雫は気付く、追い詰めたと思っていた零音が密かに組み上げていたものに。
「これが私の全力! 十五連鎖!」
「そんな、レイちゃんはまだ十五連鎖なんてできないはずじゃ」
「うん、確かにそうだね。でもそれは私と零音ちゃんが【共鳴】していなかったらの話だよ」
「まさか……まだ朝道さんと井上さんはまだ……」
「私は今、私の限界を超える、めぐみと一緒に!」
「頑張って零音ちゃん!」
「この……舐めるなぁ!」
未だ【共鳴】状態にある零音と雫の一騎打ち。一進一退の攻防の行方は——
「はぁ、はぁ……私の……勝ちね」
勝利宣言をしたのは雫だった。画面に表示されるのは雫、雪チームの勝利画面。互いに全力を尽くした勝負は雫達に軍配が上がった。
「はぁはぁ……負けちゃった……ごめんね、めぐみ」
「ううん。零音ちゃんは頑張ったよ。すごくすごく頑張った」
「……ありがと、めぐみ」
「もう少しあなたがこのゲームの経験を積んでいたら、勝負の行方はわからなかったわ」
「……先輩」
「二人とも頑張ったけど、今回はアタシ達の勝ちだね!」
「……うん。そうだね。認めるしかない。悔しいけど」
「でも、すっごく楽しかったよ私。友達とこんな風に本気でゲームしたのなんて初めてだもん」
「ふふ、そうね。私も……こんなに楽しかったのは初めてかもしれないわ」
お互いに勝負の余韻に浸りつつ、部屋の中はどこか満足気な雰囲気に満ちていた。もっとも、零音、めぐみ、雪の三人は全力を尽くし過ぎて疲れ切ってはいたのだが。
「それじゃあ、二回目やりましょうか」
「「「それはもう無理!!」」」
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク&コメントしていただけると私の励みになります!
それではまた次回もよろしくお願いします!
次回投稿は7月17日21時を予定しています。