第29話 花音達と過ごす土曜日 後編
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
ケーキを食べ終わった後、晴彦は花音達の買い物の手伝いをしていた。
「すいません、私達の買い物手伝ってもらっちゃって」
「いや、いいよ別に。今日は特にすることもなかったし」
「いいじゃない。荷物持ちがいるなら予定よりもいっぱい買えるし。それぐらいしかできないんだから」
「花音、そういうこと言わないの」
「でも、先輩のおかげで助かってるのは事実」
元々晴彦達はケーキを食べた時点で解散する予定だったのだが、花音達が生徒会の買い物をしなければならないというので、それならばと晴彦も手伝うことにしたのだ。元々零音の買い物の手伝いなどで荷物持ちには慣れている。
生徒会で使う備品は様々だ。客人が来た時用の飲み物やお菓子。議事録を残しておくための紙などなど。買いそろえておくべきものはいくらでもあった。
「先輩のおかげで思ってたよりも早く買い物が終わりそうで良かったです」
「これくらいならな。まだ買うものとかあるのか?」
「そうですね。あとは……」
「確か、生徒会室にあるマジックのインクが切れてたはず。それと、今度こられる外部講師の方へのお礼の品も買っておくようにって先生には言われてる」
「外部講師へのお礼って……そういうの普通は先生が買うもんじゃないのか?」
「私もそう思うけど、でも言われちゃったらしょうがないじゃない。できないなんて言ったら私だけじゃなくて、私を中等部の生徒会長に任命したお姉さまの名に傷がつくし」
「いや、それは流石に気にしすぎだと思うけど」
「とにかく! 一度引き受けた以上はやるしかないの」
「花音ってばいつもこうなんですよ。会長ののことを引き合いに出されるとすぐに乗っちゃって。だから先生方も頼みごとをするときにわざわざ会長の名前を出したりして……いいように使われてるのは花音もわかってると思うんですけどね」
「大変だな」
「ホントに。まぁでも花音の言う通り、一度引き受けてしまった以上はやるしかないんですけどね。それに本当にできないことは断りますから」
「そういえば、生徒会メンバーって他にはいないのか?」
「いますよ。後三人います。まぁ、彼女達はほとんど生徒会室に顔出すことはないですけど。仕事がある時だけですね。だいたいは私と、花音と、依依の三人で終わらせちゃいますから」
「すごいな。オレなら自分が仕事してるのに来てない奴がいるのとか嫌だけど」
「……ここだけの話なんですけど、他の人たちは花音が追い出したんですよ。仕事はしない、会長に敬意は払わない、そんなことが続いて花音がぶち切れまして」
「なるほど……」
花音は誰が見てもわかるほどに雪に対して敬意を払っている。花音が怒って追い出したという人がどんな人かを晴彦は知らないが、それだけのことをしたのだろうと思った。
「ま、ですから普段先輩に対して色々と言ってますけど、本気で怒ってないので、本気で嫌ってるわけではないと思いますよ」
「あれで本気で怒ってないのか」
「えぇ。本気で怒った花音はそれはもう怖いですから」
「それはちょっと興味あるような……見たいと思わないけど」
「賢明ですね」
「ちょっと、二人とも何をこそこそ話してるのよ」
「いや、なんでもないよ」
「なんでもないよ花音」
「むぅ、二人して……まぁいいけど。それじゃあ私と依依ちゃんで買ってくるから、先輩と弥美ちゃんはここで待ってて。すぐに戻るから」
「あ、うん。わかった」
そして、花音は依依を連れて残りの買い物へと行き、晴彦と弥美はその帰りを待つことになるのだった。
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それからしばらく待ち続けていた晴彦と弥美だったが、すぐに戻ると言ったのにいつまでも戻って来ないことを不審に思い始めた。
「ずいぶん遅くないか?」
「えぇ。花音がすぐに戻るといったならすぐに戻って来るはずなんですけど」
「なかなかいいのが見つかってない……とか?」
「それならそれで連絡してくるはずです」
「それもそうか。でもじゃあどうして……何かあったとか?」
「……かもしれません」
「探しに行くか」
「そうですね」
しかし探すといっても商店街はそれなりに広く、休日であるということも相まってかなりの人であふれかえっていた。その中から特定の二人を探すというのは難しいことであるかのように思えた。が、しかしそう考えた晴彦の予想はすぐに裏切られることになった。
「先輩、なんだかあっちの方が騒がしくないですか?」
「確かに……何かあったのか」
「……先輩、私なんか嫌な予感がするんです」
「嫌な予感?」
「こういう騒ぎが起きた時って、たいてい花音が関わってたりするんですよ」
そして、そんな弥美の予感は的中していた。
騒ぎの中心の方へと向かってみると、何やら複数人の男と花音が言い争っている真っ最中だった。周囲の人は何事かと見るばかりで、特に花音達を助けようと行動する人は見受けられなかった。
「だから、あなた達と一緒になんて行かないって言ってるでしょう!」
「……いい加減しつこい」
「いいじゃんいいじゃん。俺ら今日女の子にドタキャンされちゃってさ。マジ暇のよ」
「君らみたいな可愛い子を楽しませることが出来る場所知ってからさ。絶対損させねーから」
「なんならその待たせてる友達ってのも呼んで一緒に行こうよ」
男達は見るからに軽薄そうで、話しかけれらている花音の表情は怒りに満ちていた。それがわかっていないのか、それともわかっていて気にしていないのか。男達は花音達のことを諦める気配はない。
その時だった、男の一人がいきなり花音の腕を掴む。
「っ! 触らないで!」
反射的に手を振りほどき、男のことを叩いてしまう花音。その瞬間、男達の表情がにわかに変化する。
「ってーな! なにすんだよ!」
「あ、あんたがいきなり触って来るからでしょ!」
「こっちが下手に出てりゃ調子に乗りやがって!」
「いいから来いって言ってんだろうが!」
いよいよ不穏な空気が漂い始める。男達は最早手段を選ぶことなく花音達を連れていこうと腕を振り上げる。
しかしその前に晴彦は動き出した。再び花音の腕を掴もうとした男達との間に割って入る晴彦。
「あん、なんだよてめぇ」
「せ、先輩……」
「悪いけど、この子達俺の連れなんだ。それに、そうやって嫌がる女の子を誘うのはどうかと思うけど」
「……ちっ、んだよ。男がいんのかよ。おい、もう行こうぜ」
「はぁ、また新しい子探さないといけないのか」
「せっかくレベル高い子見つけたってのによぉ」
男達の花音への執着を見ていた晴彦は、ここからもうひと悶着くらいあるか、一発殴られるかくらいの覚悟はしていたのだが、男達は意外なことに晴彦が姿を現した途端に花音達のことを諦めて去っていく。ある意味拍子抜けだった。
「なんだったんだあいつら……じゃなくて、大丈夫か桜木さん、依依さん!」
「へ、平気よ。大丈夫。問題ないから」
そう言って強がる花音だが、その手は少しだけ震えていた。無理もないだろう。どれだけ強きであったとしても自分よりも大きな男達に囲まれていたのだ。怖くないはずがない。
「……ん、私は平気。花音が守ってくれたから」
「花音、依依、大丈夫?」
晴彦から遅れること少し、弥美が近づいて来る。
「いつもならすぐに追い払うのに、今日はどうしたの?」
「いつもならそうなんだけど……今日の人はなんだかしつこくて、それに、なんだか雰囲気が違ったの」
「雰囲気が違う?」
「うん、声を掛けてくる前までは普通にしてたんだけど。私達を見た途端に急に態度が変わって……まるで誰かに操られてるみたいで」
「操られてる」
「変なこと言ってるのはわかってるんだけどね。感じ的には前の街の人たちが操られてた時と似てたかも」
その言葉にハッとした晴彦は周囲を見渡す。すると、周囲の雑踏に混じって見覚えのある後姿が一瞬だけ見えた気がした。そこで晴彦はなぜこんな事態になったのかということを理解する。
「はぁ……ごめんな」
「? なんで先輩が謝るのよ」
「あぁいや。もっと早く気付いてたらよかったんだけど。助けるのが遅れたからさ」
「別に先輩に助けてもらわなくてもなんとかなったし……まぁ、今回は少しだけ感謝してあげるけど」
「まぁ大事にならなくてよかった……本当に」
そう言って胸を撫でおろす弥美。それから晴彦達は改めて学園へと向かった。
そして、買った荷物を置いて今度こそ晴彦は花音達と分かれることとなった。
「今日はホントにありがとうございました。さっきは二人のことまで助けてもらって」
「ん、感謝してる」
「まぁ、さっきのことだけは感謝するけど……」
「花音、お礼を言うならちゃんと言わないと」
「う~~、わかってるってば。その、ありがと先輩」
「いや、ホントに気にしなくてもいいって。それよりもホントにもう手伝うことはないのか」
「もう大丈夫。先輩に頼みたいようなことはないし」
「そっかならいいんだけど。それじゃあまた学園で。何かあったらいつでも声かけてくれ」
「そんな用事なんてないと思うけどね」
「ふふ、それじゃあ私はまた何かあったらお願いしますね」
「私も。先輩の事ちゃんと覚えとく」
こうして晴彦は三人と分かれ、帰路に着くのだった。
その道中でのこと。周囲に人がいないことを確認した晴彦はボソッと呟く。
「出てこい二人とも、いるんだろ」
少しの沈黙の後、晴彦の目の前に雷華と雷茅が現れる。
「呼ばれて、」
「飛び出て、」
「「ジャジャジャジャーン、です」」
「いやすぐに出てきてくれよ。一瞬いないかと思っちゃっただろ」
「こういうのはタメが大事だと、」
「私は学びました」
「どこで学んだんだそんなこと……って、まぁそれはどうでもいいんだ。それよりも二人に聞きたいことがあるんだ」
「聞きたいこととは、」
「なんですか?」
「今日、桜木さん達と出かけてた時……桜木さん達に声を掛けてきたあの男達。あれお前らが何かしたのか」
「その質問には、」
「はいと答えます、」
「あの男の人たちを二人にけしかけて、」
「晴彦さんに助けてもらうことで、」
「好感度アップを狙いました」
「はぁ……やっぱり」
花音達に声を掛けてきたあの男達は雷華と雷茅に操られていた。だからこそ晴彦が助けに入った時、やたらあっさりと身を引いたのだ。
それを知った晴彦は深くため息を吐き、二人の事をジッと見つめる。
「もうあぁいうことはしないでくれ」
「? なぜですか、」
「あの件で好感度は確かに上がりました」
硬い声で晴彦は言い返す。
「あの時、桜木さんは怖がってた」
それこそが今晴彦が怒っている理由だった。雷華と雷茅は確かに花音が晴彦の事を好きになるように、好感度が上がるように行動したのかもしれない。しかしそのやり方を晴彦は認めるわけにはいかなかった。
「あんな風に怖がらせて、それで助けて好感度が上がったんだとしても、俺は嬉しくないし、そんなやり方は間違いだ。だからもう絶対にああいうことはしないでくれ」
「「…………」」
真剣な表情で晴彦に見つめられ、二人は押し黙る。沈黙がその場を支配する。が、やがてポツリと雷華と雷茅が呟く。
「わかり……ました……、」
「ごめんなさい……です」
「……はぁ、わかればいいんだよ。悪かったな。俺のためにしてくれたことだったのに」
「いえ、」
「こちらこそ」
「さ、それじゃあ二人の夜ご飯でも買って帰るか」
シュン、と落ち込んでいた二人だったが夜ご飯という言葉にピクリと反応を示す。
「今日は特別だ。好きなの選んでいいぞ」
「ホントですか、」
「なんでもいいですか」
「あぁ、いなり寿司でもなんでも好きに選んでくれ」
「雷茅どうしましょう、」
「雷華どうしましょう、」
「食べたいものが色々いっぱいです、」
「しっかり吟味して決めなくては」
夜ご飯のことでキャッキャッと騒ぎ出す雷華と雷茅。
なんだかんだ自分も甘いなと思いつつ、晴彦は雷華と雷茅を連れて夜ご飯を買いに行くのだった。
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