第27話 花音達と過ごす土曜日 前編
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雷華と雷茅に出会ってから気付けば時は経ち、花音達と約束した土曜日を晴彦は迎えていた。
雷華と雷茅が花音のことを攻略対象と認識した日の昼休み以降、二人は姿を現しては消え、現しては消えを繰り返している。ご飯の時だけはしっかり晴彦の部屋に戻って来るのだが。
さすがに毎食二人のために買っていては晴彦の財布が持たないので、なんだかんだと理由をつけて零音に多めにご飯を作ってもらうことでなんとかしている。それもいつまで続けられるのかわからない。眠るときはいたりいなかったりとバラバラだ。
しかし晴彦に何をしているかを教えてくれることは無く、何を聞いても任せてくださいの一点張りだ。もはや晴彦は二人の行動についてはどうしようもないと半ば諦めている。
そんなこんなで、二人の存在を周囲に隠しながら晴彦は日々を過ごしていた。
「あいつらホントなんなんだろ。変なことにならなきゃいいけど」
駅前で花音達のことを待ちながら晴彦は一人呟く。止めようがないとはいえ、何をしているかわからない状況というのは不安なものなのだ。
「ま、考えてもしょうがないか。今日は三人にお礼しないといけない日なわけだし、そっちに集中しよう」
土曜日ということもあってか、駅前は晴彦と同じように待ち合わせをしている人が大勢いる。どこかそわそわする気持ちを抑えながら晴彦は三人の事を待つ。
待ち合わせの時間は十一時。そして今の時刻は十時四十五分だ。待ち合わせまではまだ十五分ある。
どこのケーキ屋に行こうかとボーっと考えていると、三人の少女が晴彦の元へと近づいて来る。
「日向先輩、おはようございます」
「……いなければよかったのに」
「花音」
晴彦に朗らかに挨拶してくれたのは中等部生徒会副会長の病ヶ原弥美だ。その後に続いてやってきた花音はいつも通り晴彦のことを見てすぐに悪態を吐く。
「ふん。まぁ忘れずに来たことは評価するけど、です」
「すいません日向先輩。ほら、依依も挨拶して」
弥美にたしなめるように注意された花音はそっぽを向きながら言う。花音の代わりに謝る弥美はそのままの流れでもう一人の少女に挨拶するように促す。
「あ、うん。初めまして。中等部生徒会会計の宵町依依です。好きな物はお金、好きな言葉は無料。座右の銘は無料より尊いものはない、です。今日は先輩がケーキを奢ってくれるということで来ました」
「えーと……よろしく」
「依依! 余計なことまで言わなくていいの! ホント、すいません先輩。失礼ばっかりで。後でちゃんと言って聞かせますから」
「いや、いいよ別に気にしなくて。病ヶ原さんも今日は気楽にしてくれたらいいよ」
「そうですか? ありがとうございます」
「ううん。今日は俺がお礼したくて集まってもらったわけだし」
完全に謝り慣れている弥美の姿に、晴彦はこの子は苦労してそうだなぁと内心思う。晴彦の周囲にはいない数少ないまともな女子だと感じていた。相変わらず前髪で顔を隠していて弥美の表情はわからないのだが。
「二人も今日はそんなに気を使わなくていいから。敬語もなしでいいよ」
「そう? じゃあそうする。いつもあんたに敬語使うの嫌だったし」
「使えてなかったけどね」
「そんなことないって。私そういうとこはちゃんとしてるんだから」
「あぁうん、それでいいよもう」
「花音……あんたは敬語を一から勉強し直してきて」
「な、なによ二人して。私これでも国語の点数は学年トップクラスなんだけど」
「その頭をもっと有意義に使えたら……今さらだけどね」
「先輩が敬語じゃなくていいっていうなら私も敬語は使わない。あんまり好きじゃないし。でも先輩ももっと楽に話してくれていいよ。なんか今の話し方変」
「そうですね。日向先輩も今日は気遣いなしでいきましょう。せっかくですし」
「うーん、そうか? じゃあそうさせてもらうかな」
「私のことは弥美でいいですよ」
「私も依依でいい」
年下とはいえ、女子のことを名前で呼ぶということに一瞬抵抗を覚えた晴彦だったが、零音はもとより、雪や雫のことすら名前で呼んでいるのに今さらかと思い直して二人の提案を受け入れることにした。
「じゃあ改めて今日はよろしくな、弥美さん、依依さん。それから桜木さんも」
「別にあんたとよろしくするつもりはないけど。でもまぁ、私は大人だから今日一日くらいなら我慢してあげる」
「そうしてくれると嬉しいよ。それで、さっそくで悪いんだけどさ……どこか行きたいケーキ屋とかってあったりする?」
「考えてなかったの?」
「いやごめん。考えとこうとは思ったんだけどな」
この数日は雷華と雷茅のことに気を取られ過ぎてそれどころではなかったというのが正直なところだ。それもこれも言い訳にしかならないのだが。
「ケーキ屋ですか……私あんまり詳しくないんですよね」
「私も。普段あんまりケーキ食べないから。お金かかるし」
「そうか……困ったな」
「でも大丈夫ですよ。ね、花音」
「どういうことだ?」
「花音最近ずっとケーキ屋調べたりしてましたから。今日のために」
「ち、違うって! あの、その、ケーキ屋を調べてたのはたまたま興味があったからで……その、別にちょうどいいケーキ屋を探してたとかそういうわけじゃ」
隠していたはずなのにバレていたケーキ屋探しのことを暴露されて慌てる花音。もちろん、調べていたのは弥美の言う通り今日のためである。晴彦がケーキ屋を探していなかった場合に備えて、晴彦でも無理なく払えそうなケーキ屋をいくつかピックアップしていたのだ。
「こういう子なんです。悪い子じゃないってことだけはわかってあげてくださいね」
「……そうだな」
「ちょ、二人ともなにニヤニヤしてるのよ!」
「いやいや、別にニヤニヤしてないって。っていうか、桜木さん弥美さんの表情わかるのか?」
「それはその……感覚で! っていうか、いつまでもここで話しててもしょうがないし、決まってないなら私がケーキ屋決めるけどそれでいいの?」
「俺はそれでいいよ」
「私も。花音なら変な所選ばないだろうし」
「問題ない」
「ふふん。じゃあ楽しみにしといてよね。私ちゃんといいケーキ屋見つけて来たんだから」
得意気に言う花音の後に続いて晴彦達は歩き始めた。
そして、そんな晴彦達のことを雷華と雷茅が感情の読めない瞳でジッと見つめていることに晴彦は気付くことはなかった。
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次回投稿は6月8日21時を予定しています。