第21話 狐の少女達
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幸せにトリップした零音を無理やり運ぶなどの苦労をしながらようやく授業を全て終えた晴彦。授業が終わった後に待っているのは掃除の時間だ。晴彦は教室の掃除担当で、いつものように机を運んだり箒で掃いたりとしていたのだが、その日だけは少し変化があった。教室にいた太田先生が晴彦にゴミ捨てを頼んできたのだ。そして、いつも使っている場所が使えないから旧校舎近くの焼却炉に持っていくようにと言われたのだ。
ついて来ようとした零音のことを押しとどめ、一人でゴミ捨てに行く。
「遠いんだよなー。あの焼却炉。でもま、掃除サボれると思ったらちょうどいいか」
それからほどなくして旧校舎近くの焼却炉にたどり着いた晴彦はふとあることに気付く。
「そういやこの近くだったっけ、狐の像を見つけたのって」
入学式のその日、晴彦が見つけた狐の像。そこで晴彦は霞美と出会い、全てが始まった。色々なことがあったが、なんだかんだ今は上手く言っているのだからご利益はあったのかもしれないと晴彦は思う。少しだけ。
「でもあれも結局霞美が作った伝説なのか? んー、ま、どうでもいっか」
教室に戻ろうとした晴彦、しかしその直後不意に視線を感じたハルトはバッと振り返る。
しかし、そこには誰もいない。
「誰もいない? って、当たり前か。ちょっと気にしすぎだな」
「いいえ気のせいでは、」
「ありません」
「うわぁっ!」
再び前を向くと、全く身に覚えのない少女が二人晴彦の目の前に立っていた。感情を写さない鏡のような瞳がジッと晴彦のことを見据える。
「すいません、」
「驚かせてしまいましたか?」
全く瓜二つの容姿をした少女達。その容姿は霞美をさらに幼くしたようなものだった。一つの言葉を二人で区切りながら話している。驚いて腰を抜かしてしまっていた晴彦は、差し出された少女の手を握って立ち上がる。
「えっと……君達は?」
「わたし達は、」
「狐の精霊」
「狐の精霊?」
「前任が仕事を放棄したため、」
「新たに仕事を任された」
「前任って……霞美のことか? でもあの噂は霞美が作ったもののはずじゃ」
「? 私達狐の伝説は、」
「はるか昔から存在している、」
「霞美お姉ちゃんは、」
「初めての精霊ではない」
「そうだったのか……えぇと、それで君達はどうして俺の所に?」
「あなたは狐に選ばれた、」
「選ばれた存在、」
「でもあなたの願いは、」
「まだ叶っていない」
「俺の願い? それって……」
晴彦が入学式の日に狐に願ったこと、それはたった一つだけだ。
「……恋人?」
「そう、」
「正解」
「いや、でもあの願いは……あぁいや、そうか。確かに俺にまだ恋人はいないけど」
「まだ願いが叶っていない、」
「ならば私達が叶える必要がある」
「いやいやもういいよ。十分だって」
この少女たちが何をしてくれるのかということはわからないが、現状零音達とも上手く言っているのだから手助けは必要ないと晴彦は感じていた。
「それは認められない、」
「このままいけばあなたは、」
「朝道零音に殺されることになる」
「は!? それ、どういうことだよ!」
「彼女はとても不安定、」
「今は安定しているように見えても、」
「バランスが崩れれば再び彼女は、」
「暴走する可能性がある」
「そんな……」
そんなことあるはずがない。そう言いたい晴彦だったが霞美の事件がひっかかり、言葉をきってしまう。それに、少女の言ったバランスという言葉。今の晴彦達の元には姫愛というバランスを崩すかもしれない存在が近くにいるのだから。
「理解した?」
「理解した?」
「今日もあなたは一つ決断をした、」
「朝道零音か東雲姫愛、」
「もしあの選択を間違えていたら、」
「あなたはやがて彼女に殺されていた」
「…………」
「しかし安心して欲しい、」
「そうならないために私達がいる」
「どういうことだ?」
「あなたに恋人ができるまで、」
「私達がサポートをする」
そう言って少女たちはビシッとポーズを決める。しかし依然として表情は無表情なままなのでどこかシュールだ。
「私の名前は雷奈、」
「私の名前は雷茅」
「以後、あなたの手助けをするから、」
「覚えておいてほしい」
こうして晴彦は、再び狐の少女達と関わることになってしまった。
「ちなみに私達の存在は、」
「秘匿にすること、」
「誰かに喋れば、」
「狐に化かされることになる」
「えぇと……はい」
そして晴彦はがっくりと肩を落とすのだった。
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次回投稿は5月15日21時を予定しています。