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第20話 たとえ選ばれなくても

誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 昼休みの終わり間際、姫愛がおずおずと教室に戻って来る。そして晴彦の様子を確認して、ギョッと目を見開く。机の上に晴彦が突っ伏していたからだ。


「は、晴彦様!? どうしたんですの!」

「あ、あぁ、姫愛か」

「はい、あなたの姫愛ですわ」

「あなたの、は余計だと思うけど。事実じゃないし」

「うるさいですわ。それよりもあなた達晴彦様に何をしましたの!」

「まぁまぁ落ち着いてさぁ。アタシ達が色々と聞いたってのと弁当が二つだったダブルパンチの結果?」


 さすがに少しだけ悪いと思っているのか、苦笑いしている雪。零音とめぐみもさすがにやり過ぎたと思っているのか同じような顔をしている。 

 そして、原因の一端が自分にもあるということを知った姫愛は慌てて晴彦に謝る。


「あ、申し訳ありませんわ晴彦様。少し考えれば晴彦様がお昼ご飯を用意していることなどわかったはずなのに、わたくし、それにすら気付かないなんて……」

「それは大丈夫だってすげぇ美味しかったし。ありがとな」

「そ、そんな。わたくしの料理なんてまだまだ未熟で……褒められるほどのものではありませんわ」

「俺なんか全然料理できないし、零音に頼りっきりだし。できるだけすごいよ」

「ありがとうございますわ」


 そう言ってほほ笑む姫愛。晴彦に褒められたことが相当嬉しかったらしい。見る者全てを魅了する笑顔だった。


「次は事前に連絡を——」

「結構よ。ハル君のお弁当は私が作るから。東雲さんには悪いけど、もう作って来てくれなくていいから」

「それはあなたの意見でしょう朝道さん。決めるのは晴彦様ではなくて?」

「「…………」」


 そう言ってジッとにらみ合う零音と姫愛。それを見た晴彦は背中に汗が流れるのを感じた。


(え……これまさか、俺が決めないといけない感じか?)


 そのまさかだった。


「ねぇハル君、ハル君は私のお弁当だけで十分だよね」

「晴彦様はわたくしのお弁当を美味しいと言ってくださいましたわ。ですわよね、晴彦様」

「えぇ……」


 救いを求めるように周囲に視線を送るも、帰って来たのは同情の視線だけ。さすがに男子達もこの状況では嫉妬よりも同情の感情が優先されるらしい。雪も苦笑して首を振るだけだ。


(俺が決めるしかないってわけか……)


 そもそも、他の誰かに助けを求めようとしたのが間違いなのだと腹を括った晴彦は頭を働かせて考える。


(ここで曖昧な答えを出してちゃダメなんだろうな……きっと。てか絶対。それはきっと二人ともを傷つける答えだ。俺は……うん、そうだな。答えは決まってる)


「ごめん、姫愛。俺の弁当は零音に作ってもらうよ。いやまぁ、自分で作れって話なんだけどさ」

「ハル君!」

「晴彦様……」


 二人の表情は対照的だった。明るい表情を浮かべる零音と、先ほどとは違い沈んだ顔をする姫愛。姫愛の落ち込んだ様子に心を痛める晴彦だったが、自分の言ったことの結果なのだから受け入れるしかないのだ。


「ごめんな姫愛」

「いえ、それが晴彦様の決めたことならわたくしは受け入れますわ」

「驚いた。まさかハルっちがちゃんと選ぶなんて」

「雪さん……俺をなんだと思ってるんだよ」

「曖昧な言葉で女の子をたぶらかすたらし野郎」

「なんだよその評価!」

「事実だし。ねぇめぐちゃん」

「あはは……ノーコメント……」


 否定はしないということが何よりも如実にめぐみの答えを示していた。その事実が晴彦を激しく打ちのめす。


「まさか井上さんまでそんなことを思ってたなんて……」

「いやまぁ、だから今回も玉虫色の回答で濁すのかなぁなんて思ってたんだけどね。ちゃんと決めたのはえらいと思うよ」

「あんまり嬉しくねぇ」

「う~~~~~っ、でも、わたくし、諦めませんわ!!」


 晴彦の答えを聞いて落ち込んでいた姫愛が、ガバっと顔を上げて叫ぶ。その顔は決意に満ち満ちていた。


「今は朝道さんの方が上かもしれませんが、いつかきっと超えてみせますわ!」


 そう言って離れていく姫愛。今言った、超えてみせるという言葉。そこに込められたのはけして一つの意味だけではない。姫愛とてわかっているのだ。今の晴彦の心に誰がいるかということなど。そんなことは昔からわかっていた。

 しかし、姫愛の晴彦への気持ちはけして伊達や酔狂などではない。晴彦に救われた日からずっとある気持ちなのだから。

 一時的な負けなどいくらでも受け入れる。最終的に勝つ、晴彦の隣に立つ。それこそが姫愛の唯一にして最大の目標なのだから。


「強いねー、あの子も」

「そこまで好かれるような奴じゃないと思うんだけどな、俺って」

「そういうの、あんまり言わない方がいいよ」

「……悪い」

「零音も、早く現実に戻って来てね。もう授業始まっちゃうし、移動教室だし。じゃ、後は任せたハルっち」

「えぇ、置いてくのかよ!」

「そうなったのもある意味ハルっちのせいだからね。めぐちゃんいこー」

「あ、うん。わかった」


 ぞろぞろと移動し始めるクラスメイト達。教室に残されたのは晴彦と、選ばれた嬉しさのあまりトリップしてしまっている零音だけだった。


今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

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それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は5月12日21時を予定しています。

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