第13話 雪ちゃんの朝 雪視点
ふと思いついた雪ちゃんの話。朝学校に行くまでの時間って結構ありますよね。
それを話にしたかっただけです。でも結局ストーリー自体は進んでないという。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
オレの一日は早い。朝の5時に起きてランニングをするのが日課だからな。
「……ん」
目を覚ました直後、設定していた目覚ましが鳴り始める。
無言でその目覚ましを止め、顔を洗ってからランニングウェアに着替える。
「今日もしっかり時間通りか。慣れってのはホントにすげぇよな」
この生活を始めてからもうずいぶんと経つが、時間通りに目を覚まさなかったことはほとんどねぇ。
「さて、今日は何キロ走るか。昨日は10キロだったからなー。まぁ、今日も同じでいいか」
元の世界にいた頃から朝走るのは日課にしていた。そん時は弟をたたき起こして一緒に走ったりしてたけど、今は兄弟はいない。代わりに犬はいるけどな。
うちは親父と母さんとオレの3人暮らしだけど、無駄に広い。使ってない部屋がいくつもあったりする。親父に言わせりゃ立場のある奴はそれなりの家に住まないといけないだのなんだのと言ってたけど、オレにはよくわからん。
外に出て、犬小屋の方に行くと大きな犬が寝てた。こいつがうちのネージュだ。気分屋の犬だ。
「どうだネージュ。今日は一緒に走るか?」
「……わふ」
プイとそっぽを向いて寝てしまった。こんにゃろうめ。誰がいつも散歩に連れて行ってってると思ってんだ。まぁいつものことだけどな。走りたいときは向こうから近づいて来るし。
「まぁいいか。そんじゃ行ってくるな」
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ふぅ、10キロランニング自体には慣れてきたけど……タイムは40分ちょっとか。もう少し縮められるだろ。
ランニングが終わって家に入ると、リビングの方から朝ごはんの良い匂いがしてきていた。母さんももう起きてるらしい。
正直お腹が空いてるからもう食べたい。でも前にランニング終わりにそのままご飯を食べようとしたらありえない! って母さんに言われたしなー。
汗も流さずに食べるな、女の子らしくそういうこともちゃんと気にしなさいと昔から何度も言われている。
先にシャワー浴びるか。
脱衣所に行き、ランニングウェアを洗濯機に入れる。
「相変わらず。でっかい胸だよなぁ、ほんと」
下を見れば山のような胸が見える。中学生の時から急に大きくなり始めたこの胸だが、いまだその成長は留まる様子はない。
「運動するときに邪魔っちゃ邪魔なんだけどな」
同級生の女子達はこの胸を羨ましがるが、オレにとっては余計なお世話だ。人の胸を気にしてる暇があるなら自分の胸でもなんとかしてろって思う。
まぁこれが晴彦を攻略するために必要なら全力で利用するけどな。
ゲームなら攻略したいキャラの好感度が上がりそうな選択肢を選べばいい。『夕森雪』を攻略したいなら好感度が上がりそうな選択肢を選ぶ。オレもそうしたしな。でもこの世界は現実で、誰かが晴彦を操作してるわけじゃねぇ。
オレを攻略する選択肢を選ばせるにはオレの存在を意識してもらわないと話にならない。そういう点じゃ朝道は有利なんだろうな。
「ふぅ、気持ちいいな」
ランニングでかいた汗がシャワーで流れていく。やっぱ気持ちいいもんだな。
女なってから風呂が好きになった気がするのは気のせいじゃねぇだろう。男の時は1日に何回も入ったりしなかったしな。
風呂から上がり、髪を乾かす。これだけでも案外時間がかかる。長い髪ってのはそれだけで大変なもんだ。
制服に着替えてリビングに行くと、もう親父も母さんも座っていた。
「あら、雪ちゃんおはよう。もうご飯できてるわよ」
「おはよう。今日もランニングに行ってたのか? それぐらい真面目に勉強してくれると父さんも嬉しいんだが」
「おはよ、パパ、ママ」
非常に不本意だが、パパとママと呼ばねぇと二人が、主に母さんがキレる。
怒った時の母さんは怖い。単純に怖い。さすがに怒らせたくはねぇ。
母さんはアメリカ人で、親父とは国際結婚だ。未だにオレの前でいちゃつくのだがやめて欲しい。見ててなんとも言えない気持ちになるから。まぁ仲がいいのはいいことなんだけどな。
「もうお腹ペコペコだよぉ。すぐに食べたい。あとパパ、アタシ勉強だってそれなりに頑張ってるんだからね!」
「勉強頑張ってるなら英語の点数はもう少しよくなるだろうに」
「日本で生きてくのに英語いらないし」
「おばあちゃんはアメリカに住んでるだろ。一回も行ってやらないつもりか?」
英語が苦手なのはマジだ。というか、元の世界でも運動全振りで勉強はほとんどしてなかったしなー。むしろゲームの『夕森雪』より頭が悪い可能性まであんじゃねぇかな。
「そこはまぁ、ほら、ボディランゲージでなんとかさ」
「まぁまぁ、満さん。いいじゃないですか。雪ちゃんもやればできる子なんですから」
「そうそう! いいこと言うねママ!」
「はぁ、それでいつまでもやらないから困ってるんだが。クレアがそういうならいいだろう」
ほら、親父は母さんに甘い。
でもこれで誤魔化せたな。さっさと食べて学校に行くか。
「よし、ごちそう様! それじゃアタシ学校行くね!」
「はい、行ってらっしゃい」
洗面所に行って髪をサイドにまとめる。この作業ももう慣れたもんだ。今では十秒とかからずにできるようになってるしな。
ネージュの頭を一撫でしてから家を出る。
駅に向かう途中、見知った顔に出会う。向こうもこっちに気付いたみてぇだな。
「あれ、雪ちゃんじゃん! おっはよー!」
「鈴ちゃん! おはよう! 今日もいい天気だね!」
「絶好の散歩日和って感じだよねー。今日もどっか行こっかなー」
こいつは白石鈴。晴彦の幼なじみが零音なら、オレの幼なじみはこいつだ。元気はいいんだがどっか抜けた奴で、唯一の小学校からの友達といっていいやつかもしんない。元の世界の弟とどっか似てるからか、なんでか気になるんだよな。高校では同じクラスになれなかったけど、今でも気付くと家に来てたりするんだよな、こいつ。
「鈴ちゃんホントに散歩好きだよね」
「うん! 歩くの楽しいしね。雪ちゃんもランニングとかよくしてるじゃん」
「ランニングと散歩はちょっと違うと思うけど」
「あ、そういえばさ、雪ちゃん、今好きな人いるの?」
「え、どうして?」
「わたしのクラスの子がね、最近雪ちゃんが一人の男子にすっごいアタックしてるって言ってたの」
「えぇ、誰がそんなこと言ってるの!」
どのクラスにも噂好きな奴はいるけど、もうそんなに広まってるのかよ。オレが晴彦にアタックしてるのは事実といえば事実だから、この手の話が好きな女子が見逃すわけないと思ってたけどな。
「いやー、嬉しいなー」
「え? 何が?」
「だって雪ちゃんモテるのに、中学校の時は告白されてもすぐに断ってたじゃん」
「そうだけどさ」
「雪ちゃん、どっか線引いて接してるでしょ? だからやっと雪ちゃんにも好きな人ができてうれしいなって」
あぁなんていうか、そういえばこいつ変に鋭いことがあったな。いつもは頭悪い癖に。っていうか他人のことでそんな喜ぶか普通。
「で、どうなの? ホントなの?」
「うーん、ホントじゃないけど、嘘でもないって感じ? アタシにはまだ好きになるってよくわかんないし。そういう鈴ちゃんはどうなの?」
「え、わたしはー……雪ちゃんのことが大好きだよ!」
そういって思いっきり抱き着いてくる。
「ちょっとやめてよ、暑いってば」
「やめないもんね。わたしの熱い想いを受け取れーー!」
結局、鈴は駅に着くまで離してくれなかった。人の目が痛いからやめろっていったのに。ったくホントにしょうがないやつだ。
でもまぁ、たまにはこういうのも悪くねぇかもな。
「それじゃ雪ちゃん。その男の子について教えてよ!」
「えぇ、なんでよ」
「わたしが雪ちゃんに相応しいかどうか見極めるんだから。変な奴なら許さないからね」
ふんすふんすと気合を入れる鈴。
こうなった鈴はちょっとしつこいから面倒だ。
ホント、たまにでいいな。
鈴の質問をはぐらかしながらオレはそう思った。
というわけで雪ちゃんのお話でした!
次回はちゃんとストーリーを進めます。たぶん。変な話を思いつかない限りは。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
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それではまた次回もよろしくお願いします!
次回投稿は8月20日9時を予定しています。