第18話 救いの女神
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机の上に並べられた二つの弁当を見て項垂れる晴彦。それからほどなくして、購買でパンを買ってきた友澤と飲み物を買いに行っていた雪とめぐみが戻ってきた。ちなみに山城は別クラスにいる彼女のもとへと言っているために今日はいなかった。
「パン買って来たぜーって……なんで弁当二つも持ってんだ日向?」
「……まぁ、色々とあったんだよ」
「何があったかアタシはなんとなく想像はつくけどねー。ね、めぐちゃん」
「まぁ多少は……ね」
教室内に姫愛の姿が見えないことや、二つある内の一つのお弁当を包んでいる布がやたらと高級なことなどから、買い物に言っている間にあった出来事雪とめぐみは何となく察していた。
「オレはよくわかんねーけど。あ、もし食いきれそうにないならオレが食ってやろうか?」
「……友澤君?」
「な、なーんてな。冗談だよ冗談。ちゃんと食えよな日向」
零音に冷えた瞳で見つめられ、若干震えた声で言う友澤。晴彦は苦笑いしながら、まずは姫愛の弁当から広げる。高そうな布に包まれてはいたが、中から出てきたのは意外にも普通の弁当箱だった。そのことに少しだけ驚きつつも、弁当箱を開けると中身はこれまた意外なことに、すごく普通の弁当だった。ご飯の上には海苔が乗せられており、おかずは唐揚げに、卵焼き、プチトマト、きんぴらごぼう、アスパラのベーコン巻きなどなど奇をてらうことのない真っ当な弁当だ。
「これが東雲さんの作ったお弁当? なんていうか……普通だね」
「確かに普通だな。いやまぁ、全然それでいいんだけどさ」
「もっと奇抜かと思ってた。伊勢海老とかキャビアとか入れてたりとかさ」
「まぁ、普通ならそれが一番だけどな」
若干緊張しつつ、晴彦はおかずを口に運ぶ。謎の緊張感がその場を包む。もぐもぐと咀嚼し、飲み込んだ晴彦はポツリと言う。
「……うん、普通だ。普通に美味しいお弁当だな」
「結局普通なんだね」
「初めてのお弁当だって言うからちょっと緊張してたけど。美味しいよこれ」
「ふーん、よかったね。美味しくて。一口だけもらっていい?」
「まぁいいけど」
「あ、じゃあアタシもー」
「私も」
そう言って零音、雪、めぐみの三人は姫愛の作った弁当を少しずつ食べる。
「おー! 普通に美味しいじゃん。あのお嬢様料理とかできたんだね」
「お金持ちの人だから自分で料理とかしないと思ってた」
「……私の作った料理の方が美味しいもん」
「いや零音、そこで姫愛と張り合うなよ」
「……これさ、私のお弁当にも入ってるの」
「これって、きんぴらごぼう?」
「うん、そう。だからねハル君。ちょっと食べ比べてみてくれない?」
「……え?」
そう言ってきんぴらごぼうを箸でつまんだ零音は晴彦に差し出す。いわゆる「あーん」という状態なわけだが……晴彦はそれを喜ぶことができなかった。むしろ少し緊張していた。
「どっちの方が好きか……教えて、ハル君」
綺麗な、しかし威圧感を与える笑顔で零音は言った。できれば二人の料理を比べるようなことはしたくない晴彦だったが、できないでは納得しないことは明白だった。
おそるおそる晴彦が弁当を食べようとしたその時、救いの女神が現れる。
「あの、日向先輩はいらっしゃるでしょうか」
「おい日向、中等部の子がお前に用だってよー」
「え、俺に? でも誰が……って、桜木さん!?」
「やっぱり教室だったのね、です」
晴彦にとっての救いの女神の名は桜木花音。相も変わらず敬語になっていない敬語で晴彦に話しかけてくる。しかしそのおかげできんぴらごぼうから注意が逸れた。
「どうして君がここに?」
「……朝の事覚えてないの? です」
「朝って……あぁ!」
今朝、晴彦と花音が交わした約束。土曜日にケーキを奢るという約束だ。確かにその時花音は詳しいことは後でまた連絡すると言っていた。しかしまさかその日の内の、しかも教室までやって来るとは考えていなかったのだ。
「そう、土曜日のこと、です。他の二人も行くって。時間は朝の十一時から、集合場所は駅前になったから伝えとく、です」
「あ、あぁ。わかったよ」
「とりあえずそれだけ。忘れないでね、です。それでは。失礼します先輩方」
晴彦以外には丁寧に、頭を下げて教室を出て行く花音。しかしこうして教室にわざわざ来てくれるあたり、前までより嫌われていないのかもしれないと少しだけ晴彦は嬉しく思った。しかし、嬉しさを感じる晴彦とは対照的に、その場にいた零音、雪、めぐみは少し綺麗な笑顔を見せる。どこか迫力のある、綺麗な笑顔を。
「今の……どういうことかなぁ。ねぇハル君」
「アタシもちょっと気になるかな」
「う、うん。私も気になるかな」
「……え?」
花音のおかげで、晴彦は姫愛と零音のきんぴらごぼうを食べ比べる必要はなくなった。しかし、今度は別の問題が発生してしまったことに晴彦は内心頭を抱えるのだった。
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次回投稿は5月8日21時を予定しています。