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第16話 花音との再会

誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 学園へと向かう道中で、晴彦は深くため息を吐いて項垂れていた。


「はぁ、母さん朝から元気すぎるんだよ。なんであんなにテンション高いんだよ」

「まぁまぁ、元気ないよりはいいじゃない」

「そうだけど。限度ってもんがあるだろ」


 起き抜けから秋穂に振り回され続けた晴彦は、まだ朝の段階だというのにすでに疲れていた。ことあるごとに晴彦と零音のことをからかってくるのだ。零音は秋穂には強く言えないからこそ、晴彦が言うことになるのだが飄々とした様子で聞いているのかどうかすらわからない。


「零音も言いたいことがあったら言ってもいいんだぞ。遠慮なんかしなくても」

「遠慮してるわけじゃないけど。秋穂さん楽しい人だし」

「あれが四六時中続くことを考えてみろよ。それだけで俺はしんどい」

「それだけ愛されてるってことだよ。いいことじゃない」

「そうなんだけどさぁ……」

「秋穂さんも今は帰ってきたばかりでテンション上がってるだけだから。きっとすぐに落ち着くよ」

「だといいんだけどなぁ。ま、確かに気にしてもしょうがないし。とりあえず差し当たっての問題から片付けるか」

「問題?」

「あぁ。今日の数学の宿題……やってない」

「えぇ、どうして!?」

「仕方ないだろ。昨日は母さんに遅くまで話に付き合わされて、終わったらもうくたくたで……とてもじゃねぇけど、宿題する気にはなれないって」

「そうかもしれないけど……」

「というわけで頼む! 宿題見せてくれ!」


 拝むようにして零音にお願いする晴彦。ここで甘やかしては意味が無いと思う気持ち半分、今回はしょうがないのかなと思う気持ち半分。零音の中で二つの気持ちがせめぎ合い、少し悩んでから零音は答えを出した。


「しょうがないなぁ。今回だけだよ?」

「お、助かる零音! マジで神様仏様零音様だな!」

「神様は止めてほしいなー」


 神様というものにあまりいい思い出のない零音は苦笑しながら鞄から数学のノートを取り出そうとする。


「……あれ?」

「ん、どうしたんだ?」

「……ない。数学のノートが……あぁっ!」

「うわ、いきなり叫ぶなよ」

「……机の上だ」


 昨日宿題を済ませた後、莉子に呼ばれた零音はノートを鞄にしまうことを忘れてそのまま机の上に放置してしまったのだ。今はまだ家と学園の中間地点。取りに帰ることも不可能ではないと思った零音は走って取りに帰ることにする。


「ノート取って来るから、ハル君は先に行ってて」

「え、じゃあ俺も一緒に行こうか?」

「ううん。悪いよ。忘れたのは私だし。すぐに戻るから」

「そうか……わかった。それじゃあ先に行ってるな」


 言い終えるやいなや零音はノートを取りに家に向かって走り出す。その背が見えなくなってから晴彦は再び歩き出した。


「そういえば一人で学園に行くのって初めて……か? いつも零音と一緒だったしな。ま、たまには悪くないか」


 それから少し歩いていると、どんどんと周囲に学園の生徒が増え始める。その波に逆らわないように歩いていると、不意に後ろから衝撃が襲う。誰かが晴彦にぶつかったのだ。


「おっと。大丈夫……って、あ」

「ごめんなさ……い!?」


 一瞬よろけつつもこけることなく姿勢を保った晴彦は振り返ってぶつかってきた人の顔を見る。相手もぶつかってしまったことを謝ろうと晴彦の顔を見て……お互いに固まってしまう。


「桜木……さん?」

「ど、どうして日向先輩がここに……です」

「いやどうしてって言われても通学路だし」

「くぅ、この道はもう使えないということですか」

「なんでそうなるの」

「だ、だってここを通ると日向先輩に会う可能性があるわけで。それは私としては避けたいというかなんというか……です。あ、日向先輩に通学路を変えてもらえばいいのでは?」


 相も変わらず、花音は晴彦のことが嫌いらしい。それを隠そうともしない花音の態度に晴彦は思わず苦笑いしてしまう。


「さすがに通学路は変えれないって。っていうかそしたらすごく遠回りすることになるし。いつも一緒に登校してる零音にも迷惑かけることになる」

「じゃあ一緒に登校するのをやめればいいのでは……です」

「それはちょっと無理かな」

「ちっ……です。まぁいいです。私は忙しいので失礼する、です」

「あ、ちょっと待って」

「何か用でも?」

「用って言うか……お礼かな」

「お礼?」


 晴彦は以前の霞美との事件の際に花音達が尽力してくれたのだということを雫から聞いていた。花音がいなければ雫は捕らえられたままで、そうなっていたらどうなったかわかったものではない。お礼を言おうとずっと思っていたのだが、なかなか会うことができず、言えていなかったのだ。


「この間はずいぶん助けてくれたみたいだしさ」

「あ、あれは別に先輩の為じゃ……お、お姉さまのためなんだから」

「それでも助けられたのは事実だし」

「ま、まぁ? お礼を言うというのであれば受け取るけど。用ってそれだけ? です」

「言葉だけっていうのもあれだし、また何か奢るよ。ケーキとか好きだったっけ」

「は、はぁ!? なんで私が先輩と二人でケーキ食べに行かないといけないの!」

「え、いや別にそういうつもりで言ったわけじゃなかったんだけど……その方がよかった?」

「え……」


 思わず硬直する花音。一瞬の後、リンゴと見まごうほどに顔を真っ赤に染めて俯いてしまう。


「嫌なら別にいいんだけどさ。あ、なんならお金だけ渡すから君達だけで行ってもらっても……なーんて。いや、冗談だから。流石に」

「本気なら軽蔑する所だった、です」


 少し考え込むような仕草を見せた花音は、苦虫を嚙み潰したような顔で話し始める。


「でも……わかった、です。今週の土曜日、私と弥美ちゃんと依依ちゃんの三人で駅前で待ってる」

「え?」

「だから、先輩からのお礼を受けるために一緒に食べに行くって言ってるの。他の二人も一緒に。今さらダメとは言わせないから、です」

「いや、それは別にいいんだけど少し驚いたからさ」

「驚いた?」

「桜木さんは絶対俺と出かけるの嫌がると思ってたから」

「先輩は私をなんだと思って……いやまぁ、嫌だけど。でも、お礼の気持ちを無下にするほど私は酷い人じゃないし。それに……」

「それに?」

「なんでもない、です! と、とにかく詳しいことは追って連絡するから。それじゃ」


 それだけ言い残して花音はさっさと走り去ってしまう。こうして晴彦は期せずして、妙な約束をすることになったのだった。


今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク&コメントしていただけると私の励みになります!

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は5月4日21時を予定しています。

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