第15話 母のいる朝
今回が平成最後の投稿になりそうです。令和になっても頑張ります!
誤字脱字があれば、教えてくれると嬉しいです!
朝の準備を済ませた零音は晴彦の家へとやって来ていた。しかしいつもと違い、今日は秋穂が家にいる。少しだけ緊張しながら合いかぎを使って家の中へと入る。
リビングへと向かうと、秋穂の話声が聞こえてきた。
「あぁもう、こっちは大丈夫だって言ってるでしょ。そう何度も電話をかけてこなくても……え、そうじゃなくて寂しい? あなた子供じゃないんだから……はいはい、私も愛してるわよ。ご飯も心配しなくていいから。大丈夫、えぇ、あなたも頑張ってね。また夜に電話かけるから。それじゃあ、お仕事頑張ってね」
どうやら秋穂は徹と電話をしていたらしい。邪魔をしないようにとそっと零音がリビングに入るとそれに気付いた秋穂が電話を切る。
「あ、ごめんなさい。邪魔しちゃいましたか?」
「ううん、全然。ちょうど切るところだったしね。おはよう零音ちゃん」
「あ、おはようございます。すいません勝手に入っちゃって」
「いいのよ。零音ちゃんだって家族みたいなものなんだから。遠慮しなくていいのよ。むしろお義母さんって呼んでくれてもいいのよ」
「さすがにそれはまだ早いっていうか……」
「まだ、まだなのね」
「あぅ」
「じゃあ零音ちゃんからお義母さんって、呼ばれる日を楽しみにしてるわ」
「は、はぃ。そういう日が来るように……努力、します」
「ふふ、期待してるわ零音ちゃん」
「それでその、ハル君はまだ寝てますか?」
「えぇ、昨日遅くまで色んな話をしてたせいかしら。まだぐ~すかと寝てるわ」
「そうですか。まだ時間もありますし……先に朝ごはんの用意だけ済ませちゃいますね。秋穂さんは食べたいものとかありますか?」
「ん~、それじゃあ和食かしら。ずっと海外だったから日本食が恋しいのよね」
「ふふ、わかりました。任せてください」
「ごめんね零音ちゃん。すっかり頼りきっちゃって」
「いえ。好きでやってることですから」
「ホントにいい子ねー、零音ちゃん。晴彦には勿体ないくらいだわ。晴彦にももっと零音ちゃんに見合うように努力しろって言わないとね」
「そんなことないですよ。むしろ私がもっと頑張らないと。ハル君は、ホントに優しくて……カッコいいですから」
「キャーッ! 乙女ねー、零音ちゃん。ううん、私も昔を思い出すわー」
「昔ですか?」
「えぇ、徹と私は幼なじみだったんだけどね。毎日毎日お弁当を……徹が作ってくれたのよね」
「あ、やっぱりおじさんなんですね」
「徹は料理がすっごく上手なのよ。気付いたら私ががっちりと掴まれていたわ……胃袋をね」
「そこは心じゃないんですか」
「あら、胃袋を掴んで食欲を満たすのは大事よ零音ちゃん。なんて言っても人の三大欲求の一つなんだから。私はそうして食欲を満たされて、気付いたら心も奪われてたってわけ」
「なるほど……」
「まぁ、零音ちゃんなら問題ないわ。この調子でハル君の胃袋をがっちりゲットよ!」
「はい、頑張ります!」
「うん、いい返事! それじゃあ私はそんな零音ちゃんの朝食づくりの手伝いを……」
「あ、それは大丈夫です」
「そんな遠慮しなくても」
「いえホント、大丈夫ですから。テレビ見ててください」
「そう? まぁ零音ちゃんがそう言うなら。待ってるわね」
「はい。すぐ作りますから」
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微睡みの中で、晴彦は自分の体が揺すられているのを感じていた。昨日遅くまで秋穂に学園での生活のことを聞かれ、疲れ切っていた晴彦は半ば無意識に布団を頭まで被ろうとする。
「ん、うーん……あと五分……」
「ダーメ」
「頼むよ零音……あと三分でいいからー」
「ダメ。もうご飯の用意も済んでるから。あと——残念だけど私は零音ちゃんじゃないわよ」
「……へっ?」
思いもよらぬことを聞いた晴彦の頭は一気に覚醒し、ベットから跳ね起きる。
「はーい、おはよう晴彦。愛しのお母さんが起こしに来てあげたわよ」
「母さん!?」
「そう。お母さん。あ、それともやっぱり零音ちゃんが良かった? 無意識に名前呼んじゃうくらいだもんねー」
ニヤニヤとしている秋穂。反論したい晴彦だったが、零音の名前を呼んでしまったのは自分であるためにそれもかなわない。
「まぁまぁ、私の息子は零音ちゃんに夢中なわけね。これは零音ちゃんに教えてあげないと」
「それは止めろ!」
「冗談よ冗談。でも、早くしないと他の男の子が先に告白しちゃうかもしれないわよ。零音ちゃんあんなに美人で優しいんだから」
「それは……わかってるけど」
「ま、起き抜けにこんな話してもしょうがないわね。さっさと顔洗って降りてきなさい。零音ちゃんが朝ごはんの用意して待ってるわ」
「わかった」
「二度寝厳禁だから。それじゃねー。零音ちゃんの朝ごはんが私を待っているー」
ルンルンと楽し気にステップを踏んで部屋を出て行く秋穂。その姿を晴彦はなんとも言えない表情で見送る。
「朝からテンション高いな母さん。まぁ、いいけどさ」
すでに眠気も吹き飛んでしまった晴彦はそのまま起き上がり、朝の身支度を手早くすませるのだった。
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「んー、零音ちゃんのつくった玉子焼きホントに美味しいわー。毎日でも食べたいぐらい!」
「ありがとうございます秋穂さん。でも大げさですよ。私なんてまだまだですし」
「そんなことないわよ。お店で出せるレベルよこれは。家の息子がこんなのを毎日食べてたなんて……羨ましすぎるわ。あんたホントにわかってるの、自分がどれだけ恵まれてるか」
「わかってるよ。零音には感謝してるってば」
「ならちゃんとご飯美味しいとか言ってあげてる? 大事よそういうの。言葉にしてもらえると嬉しいものなんだから」
秋穂に言われて晴彦がチラリと横に座る零音に目をやると、少しだけ期待したような目で晴彦のことを見ていた零音と目が合う。それに観念したように晴彦は口を開く。
「……美味しいよ」
「えへへ、ありがと」
「ひゅーひゅー、朝からお熱いねー。この味噌汁よりもお熱いねー」
「母さんは黙ってろ!」
「はいはい、私は大人しくしてるわよ」
「ったく……」
「あはは、まぁまぁハル君落ち着いて」
こうして三人の、いつもよりも少しだけ賑やかな朝食の時間は進んでいくのだった。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございます!(^o^ゞ
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次回投稿は5月1日21時を予定しています。