第14話 神との対話
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「やぁ、久しぶりだね」
あっけらかんとした様子で、零音の前に神は現れた。突然の事態に零音は反応できずただ呆然としてしまう。
「おや、聞こえてないのかな?」
「……あ、いえ、その聞こえてます、はい。でもその……ここは?」
「簡単な話。ここは君の夢の中だよ」
「私の……夢?」
「寝てる時人の精神は動かしやすいから。連れてきやすいんだよ。うんうん、それにしてもずいぶんとその体が馴染んだみたいだね。こうしてここにやってきても、その姿のままなんだから」
「え?」
言われて零音は気付く。今の自分の姿が『朝道零音』のままであるということに。神に言われるまで、そのことに零音は違和感すら持っていなかった。
「それって、変なことなんですか?」
「君は少し特殊だからね。人の姿というのは簡単に変えられる、でも精神は簡単には変わらない。君の体を『朝道零音』にすることはできても、心までを『朝道零音』にすることはできないからねぇ。ま、相当馴染んだってことだろうね」
もしも零音の心が男のままであったならば、この神の世界に連れて来られた時の零音の姿は元の世界にいた頃のままであっただろう。しかしそうはなっていない。つまり、今の零音の精神が男よりも女になっているということの証明でもあった。
「相当日向晴彦に惚れてるみたいだしね」
「うっ」
「日向晴彦を惚れさせるはずが、逆に日向晴彦の虜になっている。人間はこういうのをミイラ取りがミイラになるっていうのかな?」
「ほ、ほっといてください! っていうか、いったい何なんですか」
「別に、すこーしお話しようかなって思っただけだよ」
「それじゃあもう満足しましたか?」
「まだ聞きたいことはあるよ」
「なんなんですか」
「元の世界に未練はないのかい?」
「っ!」
「もしも君が望むなら……最初の約束の通り、日向晴彦と結ばれた時に元の世界に戻してあげてもいい。なんならこの世界での記憶も消してあげよう。それでも君は、今のままこの世界にいることを望むのかな?」
「それは……」
いかなる神の気まぐれか、ある意味破格とも言える条件を提示してくる。この世界でのことを、晴彦との記憶を忘れて元の世界に戻れたならば、それはどんなに優しいことだろう。忘れてしまえば、元の世界に戻った後に晴彦達との記憶に悩まされることはないだのから。以前の零音であったならば一も二もなく飛びつくような条件だったかもしれない。しかし今はもう違う。
零音はしっかりと神の目を見つめて、首を振る。
「私は、この世界で生きていきたいと思ってます。もちろん、元の世界のことを忘れるわけじゃありません。冬也のことも……それは、忘れちゃいけないことだから。でもだからこそ私はこの世界で、前を向いて晴彦と一緒に生きていきたいと思ったんです」
「……なるほど、それが君の答えか。うん、悪くないんじゃないかな」
「それでいいんですか?」
「いいって、何が?」
「その、せっかくの厚意を無駄にしちゃうわけですし。いや、そもそもこの世界に連れてきたのは神様なので、厚意って言うのも変かもしれないですけど」
「確かに厚意ってわけじゃないねぇ。まぁ、こっちとしては面白いものを見られるならそれで満足だからさ」
面白いものが見たい、それこそが神の偽らざる本心。今はまだしばらく零音達を眺めることで暇を潰せそうだと神は考えていた。
「その理由は不本意ですけど、でも晴彦に出会わせてくれたことだけは感謝してます」
「もっと感謝してくれてもいいんだけどねぇ。そうそう、これは神としての予言みたいなものだけどね。たぶん日向晴彦を狙う人はこれからも増えるかもしれないからさ、盗られないように頑張ることだね」
「まだ晴彦を狙う人が……」
「くさってもゲーム主人公だからね。人を惹きつける魅力と、フラグ建築士の才能はあるんだろうね」
「そんな能力いらないのに」
誰が来たとて譲る気は毛頭ないが、敵が多くなるというのはいくら零音でも面倒だ。
「さて、それじゃあ今回はこれくらいかな。そろそろお目覚めの時間だよ。それと、ここでのことは起きたら忘れてるから」
「えぇ! それじゃあさっきの予言意味ないじゃないですか!」
「知ってても知らなくても変わらないようなことだから大丈夫だよ。それじゃあ、またね」
「ちょっと、ま——きゃあああああっ!」
何かを言おうとする前に、ふっと落ちるような感覚に襲われる零音。神はニコニコと手を振って見送るのだった。
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「——ぁああああっ!」
自分の悲鳴で零音は目を覚まし、ベットから跳ね起きる。まるでどこからか落とされたかのような浮遊感を零音は感じていた。
「なんだろ……バンジージャンプでもする夢見たのかな? 全然思い出せないけど」
何か大事な夢を見ていたはずなのに、肝心の夢の内容が全く思い出せない零音。しかしそれもすぐにどうでも良くなり、部屋の時計を見た零音は慌てて朝の準備を始めた。
零音が去った後の事。
「良かったのかい冬也、会わなくて」
「……あぁ、今会っても動揺させるだけだろうからな」
「案外喜ぶと思うけどねぇ」
「どっちにしても、会う気はねぇよ。このまま忘れてくれた方がいいくらいだ」
「それはないと思うけど。まぁ君がそう言うならそれでいいさ。でもどうだった? 女になった友達を直接見た気持ちは」
「どうもこうもねぇよ。あいつは俺の親友、男だろうが女だろうがそれだけだ」
「もうちょっとユーモア溢れる回答をしてくれてもいいのに、つまらないねぇ」
「ユーモア溢れる回答ってなんだよ」
「ムラムラしたとか」
「するかバカ!!」
神と冬也の言い合いはしばらく続いたのだった。
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次回投稿は4月28日21時を予定しています。