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第12話 それぞれの一歩

誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 日課であるランニングを終えた雪はシャワーを浴びて汗を流す。霞美の事件以降、雪は体を鍛えることの重要性を再認識したのだ。結局最後に必要になるのは強靭な体なのだと。

 しかしそれはそれとして、雪はもう一つ日課を増やした。

 風呂を上がって、着替え終えた雪はそのままのキッチンへと向かう。


「ママ、用意できたよ」

「それじゃあ今日は玉子焼きの練習をしましょうか」

「うん」


 雪が始めた日課、それは料理を母に教わるということだ。雪は運動はできる。しかしそれ以外はほとんどからっきしだ。だからこそ思った。このままではよくない、と。晴彦めぐるレースはどんどん激しくなっている。できることは少しでも増やしておきたいのだ。

 雪から料理を教えて欲しいと言われた母は、すぐさまその理由に男の気配を感じて喜び、父は悲しみに暮れることとなった。

 そうして料理をし始めてはや数日。もとよりやる気になれば吸収の早い雪だ。すでに人並みには料理ができるようになっていた。


「やっぱり好きな人のためだと覚えるのがはやいのね」


 というのが母の言ったことだ。そう言われるとむず痒い感じがする雪だが悪い気はしない。


「頑張って料理覚えてその子に振る舞わないとね」

「うーん、でも料理得意な友達がその人にお弁当とか作ってるし、今さらアタシが作ってもなぁ」

「あら料理は気持ちよ。きっと雪ちゃんが心を込めて料理をすれば喜んでくれるわ」

「……そうかな」

「そうよ。だから頑張ってみましょう」

「わかった」


 そして二人は再び料理を始める。零音やめぐみ、雫だけでなく新しく姫愛というお嬢様まで晴彦争奪戦に加わってきた。気を抜いている時間はないのだ。





□■□■□■□■□■□■□■□■□


「お姉ちゃん~、ご飯できたよ~」

「はーい、今行くー」


 弟の秋嘉に呼ばれて本を読む手を止めて部屋を出るめぐみ。部屋の外には秋嘉が立っていて、その姿をまじまじと見るめぐみ。秋嘉の姿はピンクのふわもこパジャマ。下はショートパンツをはいている。そして意識しているのかいないのか。萌え袖になっていた。女子であるめぐみの目から見ても可愛い。見れば十人中九人が可愛いと評するであろう姿だ。残りの一人はおそらく特殊な思考の人だと思われる。

 対するめぐみの来ている服はといえば……中学校の頃の体操服だ。着慣れているから、動きやすいから、様々な理由がつけることはできるが可愛いかどうかと言われれば……微妙であると言わざるをえない。


「弟に女子力で負けてる私って……」

「どうしたの?」


 不思議そうに小首をかしげる秋嘉。その仕草までも可愛いらしい。自分が同じことをしている姿を想像しようとして止めるめぐみ。似合っていないと思ったからだ。


「ねぇ、秋嘉って女性ファッション雑誌とかいくつか持ってたよね?」

「え、うん。持ってるけど」

「ちょっと何冊か貸してくれない?」

「えぇ!? どうしたのお姉ちゃん! 熱とかあったりしない?」


 思いもよらぬめぐみの申し出に驚きを隠せない秋嘉。めぐみの額に手を当てて熱がないかどうかを確認までしてくる。


「失礼な。私だってファッションに興味くらいあるんだから」

「うっそだー」

「嘘じゃないって!」

「だって……ねぇ」

「うっ……い、今の服はみないで」

「うーん、ま、いいけどね。もう読み終わってるし。お姉ちゃんがファッションに興味持ってくれるなら嬉しいしね。ご飯のあとに持ってくよ」

「ありがと」

「それにしても、お姉ちゃんがねぇー」

「な、なによ」


 ニヤニヤとした表情でめぐみのことを見つめる秋嘉。


「恋ってやっぱり人を変えるんだなぁって」

「う、うるさい!」


 今の自分に足りないものを補うために、めぐみもまた新たな一歩を踏み出すことを決めた。






□■□■□■□■□■□■□■□■□


「……困ったわね」

「何が?」

「何かこう私だけ何もしてない気がするのよ」

 

 夜、部屋でゲームをしていた雫は不意に妙な悪寒に襲われた。まるで他の人が受験に向けて勉強を始めているのに、自分だけ何もしていないような。周囲が動き出したのに自分だけ取り残されたような気分だ。


「なにそれ」


 突然訳のわからないことを言い出した雫に怪訝な表情を向ける霞美。今現在、霞美は雫の家に観察保護という名目で置かれている。実際は奏にこき使われる日々なのだが。

 今も奏に命じられて雫のゲームの相手をしていた。


「そもそも私だけ晴彦と学年が違うじゃない?」

「まぁそうだけど」

「卑怯だと思わない?」

「卑怯?」

「零音や雪やめぐみ達は朝から放課後まで一緒にいれるのに、私はせいぜい昼休みと放課後くらい。その昼休みと放課後も二人きりになれるわけじゃないし……私だけ点数稼ぎしにくくない? なんであなた雫を一つ上の学年に設定したのよ」

「いやそこで怒られても」


 理不尽といえば理不尽な怒りにさらされてたじろぐ雫。


「でもよくある設定だし。幼なじみのヒロイン、同じクラスのヒロインときたら学年一つ上か下のヒロイン作りたくなるし」

「そんなあなたの事情聞いてないのよ!」

「理不尽!?」

「そうだわ。私が留年したら晴彦と同じ学年になれる!」

「お前バカなの? 生徒会長が留年なんて許されるはずないじゃん」

「それもそうよねー。あ、なら晴彦に飛び級で一緒に三年生になってもらえば」

「晴彦そこまで頭良くないだろ。っていうか、うちの学園に飛び級とかないだろ」

「なければ作ればいい。校則とはそういうものよ。それに勉強なら私が見てあげればいいじゃない」

「はぁ……で、その一緒に勉強するために時間はどうやって作るんだ?」

「……はっ! そこまで考えてなかったわ」

「やっぱりバカじゃん」

「次の作戦を考えるしかないわね。何か考えなさい霞美」

「えー……めんどくさ」


 しかし雫が逃がしてくれるわけもなく、霞美はこの日夜遅くまで雫の作戦会議に付き合わされることとなった。


今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク&コメントしていただけると私の励みになります!

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は4月24日21時を予定しています。

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