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第11話 秋穂と料理

誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 秋穂に言われて二人でキッチンに並ぶ零音。すでに何度も利用し慣れた場所であるのだがそこに秋穂がいるだけでいつも以上に緊張してしまうのはなぜだろうかと思いながら零音は食材を並べる。


「それでそれで、今日は何を作るつもりだったの?」

「あ、はい。今日は豚の生姜焼きを作ろうかと思ってます。昨日材料も買ってきてますので」

「ほうほう、いいねー。それじゃあ私は野菜を切っておこうかな」

「じゃあお願いします」


 零音は言わずもがな、秋穂も一児の母親。零音は特に何も疑問に思うことなく野菜を切るのを秋穂に任せた……のだが、それが間違いであったということに気付いたのはその直後のことだった。


「野菜を切る……切る……ミキサーでいいのかな。ねぇ晴彦、ミキサーってどこに置いてたっけ」

「「ミキサー!?」」

「どうしたのよ二人とも」

「いやいや、こっちの台詞だよ! なんでそんなもんが必要になるんだよ!」

「なんでって野菜を切るんでしょう?」


 この秋穂の発言の恐ろしい所は本気で言っていることだ。普通ならばミキサーで野菜を切るということのおかしさに気付きそうなものだが、秋穂はそれに全く気付かない。ただ単純に料理をできないという次元ではないのだ。

 そのことに気付いた零音はキッチンから離れて晴彦の所へ行く。


「ちょ、ちょっとハル君どういうこと?」

「どういうことって聞かれてもな」

「いつも料理作ってたのって秋穂さんじゃないの?」

「いや……親父だ」

「えっ!? それじゃあ秋穂さんは……」

「食う専門だ」

「えぇ!?」

「どうしたの二人とも」

「あの、その。秋穂さんって料理をしたことは……」

「ないけど。でも大丈夫よ、任せて頂戴!」


 実にいい笑顔で言う秋穂。その笑顔を見て断ることができるほど零音は正直な人間ではなかった。

 しかしこのまま料理を続ければ秋穂が怪我をしてしまう可能性もなくはない。そう思った零音は家に道具を取りに帰ることにした。


「あの、少し待っててもらえますか。ちょっと取って来るものがあるので」

「そうなの?」

「はい。すぐ戻りますから」


 ダダダっと走って出て行った零音は家から野菜を切るための道具を取りに行った。それは親戚の子供が来た時に使った道具。怪我をしないようにと買っておいたものだ。


「お待たせしました!」

「あら早かったのね。で、何を取りに行ってたの?」

「これです」

「なーにこれ?」

「ピーラーです」

「ピーラー? それって皮をむくやつじゃないの?」

「最近のピーラーはですね、野菜を千切りできるものもあるんです」

「へー、そうなのね」

「なので、秋穂さんはこれでキャベツを千切りにしていただけますか?」

「ミキサーは……」

「使わなくて大丈夫なので」


 無理やり秋穂にピーラーを渡し、使い方を教えた零音は再び調理に戻る。

 その隣では秋穂が少しだけ苦戦しながらキャベツをピーラーで千切りにしていた。晴彦は秋穂が部屋へと追い返してしまったのでここには二人しかいない。

 いつもと違う雰囲気で料理をする中、秋穂が零音に声を掛けてくる。


「ねぇ零音ちゃん」

「は、はい。なんですか?」

「あの子……学校ではどんな感じ?」

「どうっていうのは?」

「なんかちょっと見ない間にあの子も雰囲気が変わってるからさ」

「そうですか?」

「そうよ。男子三日会わざれば刮目して見よって言うけど、あれってほんとね。全然前と違う。まぁ、それは零音ちゃんもだけどね」

「私もですか?」

「うん。なんか明るくなった。あの子はちょっと落ち着いたかな。ちょっとだけどね」

「それは……たぶん、学園での友達のおかげだと思います。今ハル君友達がいっぱいいるんですよ」

「そうなの?」

「はい。あったのは入学式の頃で——」


 そこから零音は入学式の後にあったことを話し始める。起こしてしまった事件のことまでは流石に隠したが、雪やめぐみのこと、雫のこと、友澤や山城のことなど色々なことを秋穂に話した。


「そう、あの子にそんな友達が……変われば変わるものね。でも、そんな状況なら零音ちゃんもうかうかしてられないわね」

「それはそうなんですけど……」

「今の晴彦の気持ちは知らないけど、男の子の気持ちなんてあっさり変わっちゃうものよ。特に可愛い女の子から言い寄られたりしたら特にね」

「そんなの嫌です!」

「なら、ちゃんと零音ちゃんの傍から離れないように手綱を握っておかないとね。私個人としては零音ちゃんのこと応援してるから。もちろん、最後に決めるのは晴彦だけどね」

「が、頑張ります」

「うんうん、青春ってやつね。ねぇねぇ、その子達の写真とかないの?」

「ありますよ。後で見ますか?」

「もちろん、そうと決まればさっさと作っちゃいましょう! 次は何をしたらいいかしら」

「あー、そうですね。それじゃあ……お味噌汁……を作るためのお湯を沸かしていただけますか?」

「もちろん、任せてちょうだい!」


 それから零音は、秋穂が怪我をしないように配慮しつつ夜ご飯を完成させるのだった。


 零音と秋穂が料理をしていた時、晴彦の部屋にて。

「大丈夫かな、母さん。零音の邪魔してないといいけど。あぁやって母さんがやる気を出した時って大体ろくなことにならないんだよなぁ。いつも親父が苦労してたし」

 秋穂が暴走し、父が止める。それが日向家でよく見られた光景だった。なんてことを考えていると、下から零音の叫びが聞こえてきた。

「あ、秋穂さん!? なんで鍋に手を入れようとしてるんですか! お湯の温度は触った方がわかりやすい? 慣れてるから大丈夫? 大丈夫じゃありませんって!」

 悲鳴にも近い叫び声だ。しかし残念なことに晴彦は助ける手段を持たない。下に降りても追い返されるだけだ。

「頑張れ零音。俺は無力だ」

 そして晴彦はそっと耳を塞いだ。



今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク&コメントしていただけると私の励みになります!

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は4月21日21時を予定しています。


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