第7話 姫愛との昼休み
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零音達が雫のもとへと向かった後、晴彦は友澤達と共にお昼ご飯を食べようとしていた。
「さーて、昼めしだ昼めしだー。もうオレ腹減ってしょうがねぇよ。さっさと食おうぜ」
「そうだな。零音達も向こうで食べるって言ってたし」
「む……すまん、少し用事ができてしまった」
「用事?」
「あぁ、呼び出しだ。昼ごはんも向こうで食べることになるだろうから。気にせず食べておいてくれ」
そう言って山城は弁当だけを持って教室を出て行く。
「なんだよー。結局教室に残ってるのオレと日向だけじゃんか」
「まぁしょうがないだろ。さっさと食べようぜ」
「ま、そうだな」
「そういえば、さっき零音達に何か言われてたけど、なんだったんだ?」
「ん、あれか。あー……いや、なんでもねぇよ」
零音達が教室を出る直前、友澤と山城に向かって何かを言ってたのだが晴彦には聞き取ることができなかったのだ。だからふと気になってきいたのだが、なんでもないというなら大丈夫なのだろうと晴彦は特に気にせず弁当を広げる。
「今日も朝道さんの手作りか?」
「あぁ、そうだけど」
「かーっ、羨ましいねぇ。オレなんて母ちゃんだぜ母ちゃん」
「いや、それで十分だろ。ってか、それが普通だし」
「わかってねーなー! お前は。そりゃこれが普通かもしれねーよ? 母ちゃんが弁当作ってくれることに感謝だってしてるさ。でもそういう話じゃあねぇんだよ!」
「お、おう……ってか、うるせぇよ」
「そりゃうるさくもなるさ! いいか、よく聞け。あの朝道さんだぞ。学園内美少女ランキングに入ることが確定しているあの朝道さんの手作り弁当だぞ? いったいどれほどの価値があると思う。大金払ってでも作って欲しい男子がこの学園にどれほどいると思ってんだ」
「そういうもんかなぁ」
「そうなんだよ! そういうとこだぞお前」
「まぁ確かに俺だって感謝はしてるけどさ。でもあいつ、弁当の中にわざと俺の嫌いなものとか入れるんだぜ?」
「朝道さんが作ってくれた奴ならオレは泥でも食うね」
「マジか……」
「っていうかよー。それ全部手作りなんだよな?」
「ん、あぁそうだと思うぞ」
「はー、愛情こもってんなー。見ろよこれ、うちの弁当なんかほとんど冷凍食品だぜ。自然解凍だぜ?」
「ま、まぁ作ってくれるだけいいだろ」
「あぁ、オレも彼女が欲しい……弁当作ってくれる優しい彼女が」
がっくりと項垂れる友澤を晴彦は哀れなものを見る目で見つめる。このがっつき過ぎる性格さえなければ悪い奴ではないのだが、と晴彦は思う。
「ふふ、元気がよろしいですわね」
「し、ししし東雲さん!?」
たおやかな笑顔を浮かべて近づいてきた姫愛に驚いた友澤が素っ頓狂な声を上げる。今は零音がこの教室にいないからか、剣呑さなど欠片もなくいかにも優しいお嬢様といった雰囲気を発している。
「えーと、オレ達に何か用ですか?」
「はい。できればご一緒にお昼ご飯を……と思ったのですが。よろしいですか?」
「えっ!?」
一瞬友澤が硬直する。その脳裏をよぎったのは教室を出て行く直前に零音達に言われたことだ。
『友澤君、私がいない間に東雲さんをハル君に近づけないように……お願いできるかな?』
『そうそう。もし何かあったらわかってるよね? トモっち』
『あ、あの……私からもお願いします』
あの三人娘……とくに零音の笑っていない笑顔が友澤の心に恐怖を植え込んでいた。しかし今友澤の目の前にいる東雲はどうだ。その笑顔はまるで太陽の日差しのように温かく柔らかで、恐怖で凍った友澤の心を溶かした。
その瞬間に友澤の心は定まった。いや、もはや悩みすらしなかった。
「どうぞどうぞ! 全然問題ないですよ!」
「ありがとうございます」
「そんな、いいんですよー」
「お、おい友澤」
「なんだよ日向、ダメだってのか?」
「あ、いや……そういうわけじゃないけど」
「良かったですわ。ではお隣失礼いたしますわね」
そして姫愛は晴彦の隣に座る。姫愛が机に広げた弁当箱は意外といえば意外なことに晴彦達と変わらない普通の弁当箱だった。
「どうかなさいましたか?」
「東雲さんの弁当箱……案外普通なんだなって」
「意外ですか?」
「まぁ、ちょっと」
「うちのシェフが普通の学校にも馴染めるように、とこちらを用意してくださいましたの」
「へー、っていうか家にシェフとかいるんだ」
「はい。元三ツ星レストランのシェフで、お父様が直々にスカウトしてこられた方ですの」
「三ツ星シェフ……」
「すごすぎて想像もつかねぇな」
「もしよろしければ晴彦様のお弁当……わたくしが用意いたしましょうか?」
「え、いやいいよ別に。東雲さんに悪いし」
「別に気になさらなくても。でも、そんなところも素敵ですわ。それと、どうぞわたくしのことは姫愛、とお呼びくださいませ」
「いやでもそんないきなり」
「ダメ……ですか?」
「うっ……」
ウルウルと潤んだ瞳で見つめられて晴彦はたじろぐ。別に名前で呼ぶくらいなんということはないはずなのだが、なぜか零音の顔が脳裏によぎったのだ。しかし断る理由もない。
「わかったよ姫愛さん」
「姫愛、ですわ」
「……姫愛」
「はい♪ なんですか晴彦様」
「なんかオレ……忘れられてね……」
照れくさそうな晴彦と、名前を呼ばれたことで嬉しそうに笑う姫愛。すっかり忘れられた友澤は悲しそうに呟くのだった。
弁当を食べている間、姫愛はずっとニコニコと楽しそうにしていた。しかしだからこそ晴彦には気になることがあった。
「なぁ姫愛、聞きたいことがあるんだけど……いいか?」
「はい、なんでもお聞きくださいな」
「その……なんで姫愛は零音のことが嫌いなんだ?」
その問いをした瞬間、僅かに姫愛の表情が曇る。しかしこのタイミングでなければ聞けないと晴彦は思ったのだ。零音達がいないこの状況でしか。
晴彦の認識からすれば、中学校時代零音と姫愛がそこまで仲が悪かったという印象がないのだ。むしろ、一緒に遊んでいたりと仲が良かったイメージを持っていた。
「あの人は……わたくしのことを裏切ったのですわ」
その時姫愛の表情に浮かんだのは確かな憎しみの表情。二人の間に何があったのか、それを晴彦は知らない。しかし、二人の間にある溝が深いものであるということだけは理解したのだった。
友澤の女子間での評価について聞いてみた。
女子生徒A「友澤君? 面白い人だとは思う……よ?」
女子生徒B「友澤? 論外。下心わかりやすすぎ」
女子生徒c「悪い人じゃないのはわかるんだけどちょっと……ねぇ?」
総評、友澤は悪い人ではなく面白い人だと思われているが、下心が見えすぎているので女子から敬遠されている。
この事実を友澤はまだ知らない。
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次回投稿は4月13日21時を予定しています。