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第5話 零音の憂鬱

誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 ホームルームが終わった後、姫愛はクラスメイト達に囲まれていた。


「ねぇねぇ、東雲さんって前はどこの高校にいたの?」

「以前は聖アルテミシア学園に」

「え!? あの超お嬢様学校にいたの! すごーい!」

「超有名な学校じゃん。なんでここに来たの?」

「それはもちろん、晴彦様に会うためですわ。もう一度、晴彦様にお会いしたかったのです」

「ねねね、日向君とはどういう関係なの?」

「晴彦様は中学校の頃の同級生ですわ。といっても、私は二年生の終わりに転校してしまったのですが」

「そのー、やっぱり好きなの? 日向君のこと」

「はい、もちろんですわ」


 少し恥じらないながら頬を染めてそう答える姫愛に、周囲にいた女生徒たちはキャーキャーと騒ぎ出し、男子達は落胆と嫉妬の声を出す。

 普通ならば晴彦の所にも人が集まりそうなものだが、そうならないのは晴彦の横にいる零音の存在が理由だろう。表面上はいつも通り。優しい笑顔を浮かべているがその内心にどれほどの激情が荒れ狂っているか。それをクラスメイト達は知っている。触らぬ神に祟りなし。自ら進んで命を捨てようとするほど馬鹿ではない。

 ワイワイと話し続ける姫愛のことを零音達は遠巻きに眺めていた。


「で、どういうことなのさ」

「どういうことって何が?」

「だから、ハルっちとあの子の関係。アタシ達にも説明してよね」


 突如降ってわいたように現れた転校生、それが晴彦の事を好きだというのだ。雪もめぐみのその心中は穏やかではいられない。

 雪はそう言って晴彦と零音に詰め寄る。隣ではめぐみも表情には出さないが気になりますといった顔をしていた。


「どうって聞かれても……東雲さんは中学の同級生ってだけだよ」

「ただの同級生がわざわざ転校してまで会いにくるの?」

「それはそうだけど……でも実際そうだしなぁ」

「さっき好きだって言ってたじゃん」

「いやそれは……友達として、じゃないかな、たぶん」

「それ本気で言ってる?」


 しかし、実際に晴彦には皆目見当もつかないのだ。姫愛がなぜ晴彦の事を好きかと聞かれてもわかるはずがない。

 これ以上晴彦に話を聞いても意味が無いと思った雪は今度は零音に話を振る。


「で、どうなのさ零音」

「あの子がハル君のこと好きかどうかって話?」

「そうそう」

「見ればわかるでしょ。あの子は本気だよ。本気で、ハル君のことが好き。中学生の頃からね」

「え、そうなのか?」

「ふふ、ハル君は気付いてなかったね」


 中学生の頃、晴彦へ思いを告げようとする姫愛とそれを防ぐ零音。二人の攻防は姫愛が転校するまで続いた。


「なんであのお嬢様ハルっちのこと好きなの?」

「それを俺に聞かれても……」

「……そうだね。お嬢様の考えることなんてわからないし」


 そう言った時の零音の表情が少し引っかかった雪だったが、そのことを聞こうとする前に友澤が晴彦に飛び掛かる。


「うぅおおおテメー、この野郎! 朝道さん達だけじゃなく転校生の東雲さんまで、許さんぞー!!」

「うぉっ。何すんだよ!」

「うるせー! お前のような奴がいるから世界は!」

「俺が何したって言うんだよ!」

「気づかぬというならそれもまた罪なのだー!」

「あーもー、トモっちうるさい!」


 やいのやいのと騒ぐ晴彦達を尻目に、零音は再び姫愛の方に視線を向ける。姫愛もまた零音の方に一瞬視線を向け、わずかな時間視線が絡み合う。そこにどんな思いが込められているのか、それは二人にしかわからない。


(まさか……また帰って来るなんて)


 もう二度と会うことはないと思っていた。そのはずだった少女。それが今零音の目の前に戻ってきた。はっきり言ってしまえば、零音は姫愛の晴彦に対する執着を甘く見ていたと言わざるを得ない。


「……はぁ」


 これからのことを考えて零音は少し憂鬱になる。ただでさえ晴彦を狙う人物は多いというのに、さらに増えたのだ。負けるつもりは毛頭ないが面倒が増えるのは面白くないというものだ。それが姫愛であるというならなおさら。


「零音さん大丈夫?」

「めぐみ……うん、大丈夫」

「あの……私、零音さんと東雲さんに何があったかは知らないけど、でも私は零音さんの味方だからね! 何かあったらすぐに言ってね!」


 二人の様子から何かあったのだということはめぐみも察している。それも並々ならぬことが。だからこそこれから先困るようなことがあれば零音の力になりたいとめぐみは思うのだ。

 以前のような事件を起こさないためにも。そしてその想いは零音にもちゃんと伝わっていた。


「めぐみ……ありがとう」


(そうだ。今の私はもう一人じゃない。こうやって助けてくれる人がいる)


 めぐみの言葉を受けて心がスッと軽くなる。


「そうと決まったらちゃんと対応練らないとね。あの子にハル君をとられるわけにはいかないんだから」

「うん!」


 姫愛の近くにいた女生徒の一人が勇気を出して問いかける。

「あのー、ところで聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「はい、なんでもお聞きくださいな」

「そのー、ね? 朝道との関係は——」

「はい?」

「だからその、朝道さ——」

「はい?」

「……なんでもないです」

 こうしてクラス内に、姫愛と零音の関係については言及しないという暗黙の了解が出来上がったのだった。



今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク&コメントしていただけると私の励みになります!

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は4月7日21時を予定しています。


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