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第4話 竜虎相まみえる

誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 転校生である東雲姫愛が教室に入ってきた瞬間、零音は反応できなかった。周囲の人々が、雪やめぐみすらも含めて転校生の美貌に目を奪われていたが、零音は違った。胸の中にあった思いはただ一つ。すなわち、なぜこの女がここにいるのか、である。

 そのために零音は反応が遅れてしまった。姫愛は晴彦の隣にいた零音にだけ見えるように挑発的な笑みを浮かべながら零音の目の前で晴彦に抱き着き言った。


「また再びお会いできて嬉しいですわ、晴彦様」


 その瞬間、教室内の時は止まった。姫愛の予想外の行動に誰もが度肝を抜かれた。


「おいおいおいどういうことだよ日向ぁ! お前朝道さん達だけじゃ飽き足らず転校生までかこの野郎!」

「えー! なになにどういうこと? 日向君の知り合いなの?」

「神よ……」



 一瞬の空白の後、騒然となるクラス内。キャーキャーと騒ぐ女子達、晴彦に嫉妬の目を向ける男子達。二人の関係性を邪推する者、ネタになると写真を撮る者、反応は様々だったが、その中で密かに怒りを募らせる者が三人。零音、雪、めぐみである。

 一番動くのが早かったのは零音だった。抱き着いた姫愛のことをさっと引きはがし、二人の間に割って入る。


「東雲さん、ハル君から離れてください」


 努めて冷静を装い、静かな声音で言う零音。しかしその瞳からは燃え盛るような怒りの炎が見え隠れしていた。しかし、普通の人であれば萎縮し、泣いてしまうような視線を受けても全く気にした様子はなく、ふんと鼻を鳴らして零音のことを嘲笑う。


「あら、誰かと思えば朝道さんだったのね。あなたまだわたくしの晴彦様に付きまとってるの?」

「付きまとってる? 私はハル君の幼なじみとして面倒を見ているだけですけど。それと、あなたのハル君じゃなくて、私のハル君だから」

「…………」

「…………」


 静かに睨みあう二人。周囲にいる生徒達は心なしか教室内の気温が下がったような、そんな錯覚すら感じていた。そしてこの事態の原因である晴彦になんとかしろという視線が集まり始める。さすがの晴彦も放っておくわけにもいかずに口を挟む。


「ちょ、ちょっと落ち着けって二人とも」

「ハル君」

「晴彦様」

「えーと、その東雲さん久しぶり……中学以来だよな」

「はい! わたしくのこと覚えていてくださったんですね!」

「まぁそりゃね。覚えてるよ」

「忘れてたらよかったのに」

「零音」

「ツーン……」


 晴彦が自分のことを覚えていたということを知り、目をキラキラと輝かせる姫愛と面白くないという顔をする零音。晴彦がたしなめても零音は素知らぬふりだ。


「あー、嬉しいですわ。わたくしも晴彦様のことを忘れたことなどございませんわ。またこうして再会できることをどれほど星に願ったことか。まるで夢のようですわ」

「えーと、ありがとう。でいいのかな?」

「ハル君、ありがたがる必要なんてないから。その粘着女に」

「あら、ストーカーが何か言ってますわね。嫉妬は見苦しいですわよ」

「嫉妬……ふぅん、嫉妬ねぇ」

「……なんですの?」

「あなたは知らないかもしれないけど、あなたがいない間に私とハル君の関係は進んだんだから。もうすっごく進んだんだから。ただ覚えられてたってだけで喜べるなんてずいぶんとおめでたい頭をしてるのね」

「どういうことですの晴彦様!」

「え、ちょ、零音!?」


 零音の爆弾発言に好奇の目線が晴彦に向けられる。


「何言って——」

「私と一緒に居てくれるって言ったのは嘘だったの?」

「嘘じゃない……けど」

「くぅ……」


 今度は逆にどや顔で姫愛のことを見る零音。対する姫愛は悔しそうな表情をしている。


「東雲さんがどれだけハル君のことを考えてたかは知らないけど、そんなの関係ないの。あなたがそうしている間に私とハル君の関係は進んでたのよ」

「い、いえ。たとえそうだとしてももう関係ありません。これからはわたくしが晴彦様の面倒をみますので」

「結構です。私だけで十分だから」

「とりあえずお前らその辺にしとけー。話すのは後でいいだろ。そんで、東雲。もう一回ちゃんと挨拶しとけ」

「わかりましたわ」


 さらに口喧嘩が広がりそうになる前に担任が止める。姫愛は零音のことを睨みながら教壇に戻る。


「それでは改めまして。これからこのクラスでお世話になります東雲姫愛ですわ。一人を除いて、仲良くしたいと思ってますので、よろしくお願いいたします」


 こうして晴彦のクラスに、東雲姫愛はやって来たのである。


 零音と姫愛が言い争いをしている頃。

「なぁ山城。世の中って理不尽だよな」

「なんだ友澤いきなりどうした」

「あんなに可愛い幼なじみがいるのに、その上今度は新しいお嬢様まで……なんで俺には一人もいないんだよぉおおおおおっ!!!」

 机に突っ伏して嘆く友澤。

「あれはあれで大変だと思うがなぁ。ま、苦労はそれぞれということだな。努力しろ友澤」 

 二人に挟まれ、困った表情をしている晴彦を見ながら山城は呟いた。



今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク&コメントしていただけると私の励みになります!

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は4月6日21時を予定しています。


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